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第四章 異質殺し
4-EX1 誕生日会に向けて
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◇
「そういや朱音って何歳なの?」と俺は聞いてみた。
四月の上旬、嘘をつくべき日も過ぎ去った春の気候の中で、俺は喫茶店の中でぼんやりとしている朱音に対して話しかけていた。
「ん?」と彼女は返事をしてから、呆れたような視線で俺を見つめてくる。
「環、女に年齢を聞くというのがマナー違反であることを知らないのか?」
「……いや、知ってはいるけども」
実の姉弟である俺たちに対して、そんなマナーは不要である、というか、今日の時点で姉の年齢も知らない方がだいぶと問題ではあるような気がする。
「というか、年齢なんて飾りみたいなもんだろうよ」
朱音はそう言いながら言葉をつづけた。
「私も幼いころはひとつひとつ歳をとることに対してワクワクしていたけれども、あらゆる制約がなくなる二十歳になってからは特に大事にも思わなくなってなぁ。ついこないだもせっかく誕生日を迎えたらしいのに、自分自身でそれを忘れて仕事漬けの一日を過ごしてしまったしなぁ」
「……なんとも悲しいね──」
俺は自分の飲み物を口に含んだ後、息を含ませながらそう言った。
「──ついこないだ?」
俺は彼女の言葉の中にあった一部分に気づいて、気になった部分を改めて口に吐き出してみる。
「ああ、四月一日にな。……マジで行方不明事件がなければもっと休めたのになぁ……」
「……いや、いやいやいや、そういうことじゃなくて、え、もう誕生日過ぎてるじゃん」
「……何が言いたいんだよ。言っとくけどなあ、これもお前がイギリスに一緒に来てくれないことが一番の問題であってな──」
「そうじゃねぇ! そうじゃねえっすよ! せっかく誕生日を近くで迎えたのなら、なんで報告してくれないのさ!」
俺がそういうと、彼女は、はあ、とあからさまにため息を吐いた後「だから忘れてたって言ってんだろ?」と言葉を吐いた。眉間には皺が寄っていて、何とも面倒臭そうということを表情で俺に示してくる。
「それならさ、誕生日祝わなきゃいけないじゃん」
「……別に祝う必要はないだろうよ。誕生日なんて死へと近づいている証明にしかならないし、祝われたところで何か嬉しいことに繋がるわけでも……」
なんとも夢というか、子どものような純粋さも含まれない言葉だな、と思ってしまう。大人になればそんな風に誕生日をとらえてしまうのか、と一瞬思ってしまうけれど、これは仕事に一日を覆われている朱音だからこその発想というべきものだろう。俺は何となくそう信じたいような気がする。
……俺が単純にそんな冷たい人間になる、ということを想像したくないだけではある。
「ともかくさ、せっかく今日本にいるんだし祝おうよ。天音とかと一緒にさ。お母さんは……、まあ難しいからしょうがないけれど、三人でもお祝いとかしてみようよ」
「えぇー。めんどーくさいんだけどー」
「いきなりそんなギャルみたいにしゃべるなよ……」
よほど面倒くさいのか、彼女はいつもの雰囲気とは異なった口調でそう返してくる。
「……というか、本当に別に祝わなくてよくないか? だって、もしこれが環や天音の誕生日だったのならわかるけれど、ただのクソ大人でしかない私が祝われるようなことはないだろうに」
「そんなことはないよ。誕生日っていうのは、一年に一回しかやってこなくて、そのうえでその日だけは主人公でいられることを許される日なんだよ?!」
「……それだとみんな生きているのにモブってことになるじゃねぇか」
……別にいいじゃん、そこは。
「せっかく日本にいるんだし、もうお祝いすることは確定ね。天音にも後で連絡しておくから。……ちなみに日本はいつまで滞在?」
「明後日だけど……、本当にやるの?」
「やるよ、やるやる! 絶対にやるもん!」
「男で語尾が『もん』はきついからやめとけよ……」
呆れた顔でそんなことを返す彼女を無視して、この場はとりあえず会計をすることにした。
ともかく、今からやるべきことがある。俺はそれに向けて行動しなければいけないのだ。
◇
そもそも誕生日会というものに対して俺は憧れがある。
齢十七にして何を言っているのか、と誰かにこの心の声を聴かれればそんな文句が飛んできそうだけれど、ともかくとして俺は誕生日会というものに憧れがある。
そんな憧れの所以というのは小学生の時からにさかのぼる。毎年、誕生日というものは迎えて当然のものではあるが、そのすべてを俺は母か、葵か、その二人としか過ごしたことがない。
小学生の時は担任の教師によって、後ろの黒板に『今月誕生日になる人』という部分で名前を飾られた経験こそはあるものの、それによってはっきりと祝われたことはない。影が薄いのかもしれないが、数日過ぎ去って月が替わる段階くらいに、教師が「あっ」と声を出して、俺の名前を申し訳なさそうに消すことだけはよく覚えている。
だから、俺は誕生日会というものを今までやったことがない。やったことがないからこそ、身内の誕生日というものを祝える機会があるのならば、存分に祝ってあげたい。
以前、母にも同様に誕生日会、というか、相応に贈り物をしたことがあるが、それを母は遠慮がちにしか受け取ってくれなかった。それは家計が困窮している、という状態があったためであり、今はそんな困窮した状況は目の前にはない。
……どうせなら、葵にもいろいろとプレゼントを渡せればいいのだけれど、今ごたごたと文句を言ったところで仕方がないから、それは飲み込むことにする。
ともかく、今は行動するしかない。
俺はそうして一度孤児院に帰ることにした。
「そういや朱音って何歳なの?」と俺は聞いてみた。
四月の上旬、嘘をつくべき日も過ぎ去った春の気候の中で、俺は喫茶店の中でぼんやりとしている朱音に対して話しかけていた。
「ん?」と彼女は返事をしてから、呆れたような視線で俺を見つめてくる。
「環、女に年齢を聞くというのがマナー違反であることを知らないのか?」
「……いや、知ってはいるけども」
実の姉弟である俺たちに対して、そんなマナーは不要である、というか、今日の時点で姉の年齢も知らない方がだいぶと問題ではあるような気がする。
「というか、年齢なんて飾りみたいなもんだろうよ」
朱音はそう言いながら言葉をつづけた。
「私も幼いころはひとつひとつ歳をとることに対してワクワクしていたけれども、あらゆる制約がなくなる二十歳になってからは特に大事にも思わなくなってなぁ。ついこないだもせっかく誕生日を迎えたらしいのに、自分自身でそれを忘れて仕事漬けの一日を過ごしてしまったしなぁ」
「……なんとも悲しいね──」
俺は自分の飲み物を口に含んだ後、息を含ませながらそう言った。
「──ついこないだ?」
俺は彼女の言葉の中にあった一部分に気づいて、気になった部分を改めて口に吐き出してみる。
「ああ、四月一日にな。……マジで行方不明事件がなければもっと休めたのになぁ……」
「……いや、いやいやいや、そういうことじゃなくて、え、もう誕生日過ぎてるじゃん」
「……何が言いたいんだよ。言っとくけどなあ、これもお前がイギリスに一緒に来てくれないことが一番の問題であってな──」
「そうじゃねぇ! そうじゃねえっすよ! せっかく誕生日を近くで迎えたのなら、なんで報告してくれないのさ!」
俺がそういうと、彼女は、はあ、とあからさまにため息を吐いた後「だから忘れてたって言ってんだろ?」と言葉を吐いた。眉間には皺が寄っていて、何とも面倒臭そうということを表情で俺に示してくる。
「それならさ、誕生日祝わなきゃいけないじゃん」
「……別に祝う必要はないだろうよ。誕生日なんて死へと近づいている証明にしかならないし、祝われたところで何か嬉しいことに繋がるわけでも……」
なんとも夢というか、子どものような純粋さも含まれない言葉だな、と思ってしまう。大人になればそんな風に誕生日をとらえてしまうのか、と一瞬思ってしまうけれど、これは仕事に一日を覆われている朱音だからこその発想というべきものだろう。俺は何となくそう信じたいような気がする。
……俺が単純にそんな冷たい人間になる、ということを想像したくないだけではある。
「ともかくさ、せっかく今日本にいるんだし祝おうよ。天音とかと一緒にさ。お母さんは……、まあ難しいからしょうがないけれど、三人でもお祝いとかしてみようよ」
「えぇー。めんどーくさいんだけどー」
「いきなりそんなギャルみたいにしゃべるなよ……」
よほど面倒くさいのか、彼女はいつもの雰囲気とは異なった口調でそう返してくる。
「……というか、本当に別に祝わなくてよくないか? だって、もしこれが環や天音の誕生日だったのならわかるけれど、ただのクソ大人でしかない私が祝われるようなことはないだろうに」
「そんなことはないよ。誕生日っていうのは、一年に一回しかやってこなくて、そのうえでその日だけは主人公でいられることを許される日なんだよ?!」
「……それだとみんな生きているのにモブってことになるじゃねぇか」
……別にいいじゃん、そこは。
「せっかく日本にいるんだし、もうお祝いすることは確定ね。天音にも後で連絡しておくから。……ちなみに日本はいつまで滞在?」
「明後日だけど……、本当にやるの?」
「やるよ、やるやる! 絶対にやるもん!」
「男で語尾が『もん』はきついからやめとけよ……」
呆れた顔でそんなことを返す彼女を無視して、この場はとりあえず会計をすることにした。
ともかく、今からやるべきことがある。俺はそれに向けて行動しなければいけないのだ。
◇
そもそも誕生日会というものに対して俺は憧れがある。
齢十七にして何を言っているのか、と誰かにこの心の声を聴かれればそんな文句が飛んできそうだけれど、ともかくとして俺は誕生日会というものに憧れがある。
そんな憧れの所以というのは小学生の時からにさかのぼる。毎年、誕生日というものは迎えて当然のものではあるが、そのすべてを俺は母か、葵か、その二人としか過ごしたことがない。
小学生の時は担任の教師によって、後ろの黒板に『今月誕生日になる人』という部分で名前を飾られた経験こそはあるものの、それによってはっきりと祝われたことはない。影が薄いのかもしれないが、数日過ぎ去って月が替わる段階くらいに、教師が「あっ」と声を出して、俺の名前を申し訳なさそうに消すことだけはよく覚えている。
だから、俺は誕生日会というものを今までやったことがない。やったことがないからこそ、身内の誕生日というものを祝える機会があるのならば、存分に祝ってあげたい。
以前、母にも同様に誕生日会、というか、相応に贈り物をしたことがあるが、それを母は遠慮がちにしか受け取ってくれなかった。それは家計が困窮している、という状態があったためであり、今はそんな困窮した状況は目の前にはない。
……どうせなら、葵にもいろいろとプレゼントを渡せればいいのだけれど、今ごたごたと文句を言ったところで仕方がないから、それは飲み込むことにする。
ともかく、今は行動するしかない。
俺はそうして一度孤児院に帰ることにした。
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