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第四章 異質殺し
4-EX2 天音との相談
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◇
孤児院の自失としてあてがわれている場所に戻った後、俺は部屋に天音を呼んでいた。
天音は孤児院のシスターらしく、子どもと触れ合って楽しそうに遊んでいたけれど、俺が焦燥感をにじませた表情を浮かべていたからか、迅速と言わんばかりにその後ろについてきてくれていた。
「どうしたの? そんなに焦ってるたまき、なかなか見たことないけど」
「……どうしたもこうしたもないんだよ」
部屋の扉を後ろ手で閉めながらそう言う彼女に、俺は心を落ち着けながらそう返していた。どう言葉を選ぶべきか、わかりやすい言葉はないか、落ち着かない気持ち、というか、どうにかしたい感情を厳選しながら、ゆっくりと息を吐く。
「朱音が、……誕生日を迎えたらしいんだ」
「……うん、そうだね?」
当たり前、というような雰囲気で彼女は返す。エイプリルフールの日だもんね、と言葉で付け足しながら、以前から彼女が朱音の誕生日を知っていたことに、どこか落ち着かない気持ちが加速する。
「ということは、天音も知っていたんだね?」
「まあ、うん。だって、お姉ちゃんだし──」
「──なんでだよ!」
なぜ、朱音も天音も同様の態度をとっているのか。俺にはどうしたって理解に苦しんでしまう要素がある。
「そんなに平然と誕生日を迎えるってどういうこと?! だって、誕生日は個人を祝える最高の日じゃないか! 一年を無事に過ごせたっていう素晴らしい記念日でもあるだろう!? 悪魔祓いをしているっていうのなら、それはなおさらじゃないか!!」
「……なんか、立花先生みたいだね、たまき」
「……」
そんな表現は、さすがに傷ついてしまう自分がいるから、ちょっと悲しくなってしまう。いや、立花先生は悪い人ではないのだけれど、それはそれとしてもなんかあまり存在しない小さなプライドにひびが入るような感覚を覚える。
「ともかく、ともかくだよ。誕生日っていうのは素晴らしい日なんだよ! 祝わなきゃいけないの! なのに、なのにどうして朱音も天音も素知らぬふりして日常を謳歌しているのさ!」
「どうして、って言われても──」
「──うるさい! 言い訳は受け付けない!!」
「……理不尽」
しょぼん、と一瞬表情を曇らせたことに、少しの申し訳なさを感じはするけれど、それでも彼女たちが行わなかった誕生日の祝い事を思えば、今は無視しても許されるような気がする。
「いいかい? 誕生日は祝われて正当なものなんだよ。その日ばかりは神様のような振舞いをしても許されるくらいには祝われて然るべきものなんだ。きっと各国がそうであるはずだ。どこかの国では法で定められているかもしれない」
「そんな幸せな国があるといいよね」
「ともかく、ともかくだよ! 俺は──」
ふう、と息を吐いた後に言葉を間違えないように慎重に選んで発してみる。
「──誕生日パーティーを開きたいんだ」
◇
「最初からそう言えばいいのに」と天音は俺の表情を伺いながら、苦言を呈すようにそう言葉を吐いた。実際、単刀直入に話題へと上げれば話はスムーズだったのかもしれないけれど、それにしたって人間らしい価値観の欠如が行われていることに、大きく衝撃を受けた俺はそうすることはできなかった。
「別に、祝うことはいいと思う、けど」
感情の整理をしている間、天音はやはり苦言を呈すように言葉を吐く。
「お姉ちゃん、誕生日を祝われても嬉しい、のかな」
「──何を言ってるんだよ、祝われて嬉しくない人間なんていないでしょ」
「……いや、そういうことじゃなくってね?」
天音は少し考えるように腕を組みながら、言葉を選ぶように、うーん、と間延びした声を上げている。
「……お姉ちゃん、忙しいから、祝いの席を用意するくらいなら、お休みする時間があった方が嬉しいんじゃないかな、って」
「……」
ここに来て、天音の正論が僕の心を傷つけた。
『えぇー。めんどーくさいんだけどー』
確かに、朱音に誕生日を祝うことの話をしたら、あからさまに態度を変えて、ギャルのような雰囲気でそう返していた。そう返していたのは、言葉の通り面倒くさいと感じているからだろう。
今の朱音には休息の時間の方が大事なのかもしれない。
イギリスでは、本当に忙しいらしく、日本に来たときには毎回その忙しさを言葉の上で並べてくる。上司や幹部に対する文句、時間の少なさ、睡眠時間が足りない、人を殺す気か、と散々な愚痴を垂れ流していた。
……そんな朱音に祝い事を差し向けようとする自分の考えは、間違っているのだろうか?
「間違ってはいないと思うよ。……悪いのはぜんぶ、悪いことをする悪魔と仕事をあてがう教会のせいだから」
フォローをするように言葉を選んでくれる天音。その言葉に、少なからず安心感を覚える。
「でも、もう朱音に誕生日会をやるって、宣言しちゃったんだ。誕生日は祝われるべき、って考えが先行しちゃって、どうしても我慢できなくて……」
「それなら、やるしかないんじゃない、かな」
「……でも、天音に言われた通り、疲れているのなら、その疲れを癒すために時間を使ってもらった方がいいような気もしてきた」
先ほどまで俺は、他人の事情を鑑みないまま、勝手に人の誕生日を祝おうとしていた。俺自身の考えとしてはその思考こそは間違っていないような気もするけれど、それを押し付けるのは悪に近いかもしれない。ひどく独善的で傲慢だとも思う。
天音のおかげで冷静になれた今、朱音に対して誕生日会、並びに誕生日パーティーをする、というのは、朱音を更に疲弊させる原因になるのではないか。
今になってやってきたそんな心配、俺がどうするべきか、結局迷い続けているとき、天音はひとつ息を吐いた。
「でも、宣言したのなら、お姉ちゃんも楽しみにしている、かも?」
「……そう、かな」
「逆に、ここで宣言を撤回するのは、人として最低だとわたしは思います」
「……確かに」
「だからさ──」
これまたひとつ大きな息を天音は吐いた後、にっこりとした表情を浮かべてこう言った。
「──疲れないような誕生日パーティーをやれば、それで解決なんじゃない、かな」
僕はその時、初めて天音を天才だと思った。
孤児院の自失としてあてがわれている場所に戻った後、俺は部屋に天音を呼んでいた。
天音は孤児院のシスターらしく、子どもと触れ合って楽しそうに遊んでいたけれど、俺が焦燥感をにじませた表情を浮かべていたからか、迅速と言わんばかりにその後ろについてきてくれていた。
「どうしたの? そんなに焦ってるたまき、なかなか見たことないけど」
「……どうしたもこうしたもないんだよ」
部屋の扉を後ろ手で閉めながらそう言う彼女に、俺は心を落ち着けながらそう返していた。どう言葉を選ぶべきか、わかりやすい言葉はないか、落ち着かない気持ち、というか、どうにかしたい感情を厳選しながら、ゆっくりと息を吐く。
「朱音が、……誕生日を迎えたらしいんだ」
「……うん、そうだね?」
当たり前、というような雰囲気で彼女は返す。エイプリルフールの日だもんね、と言葉で付け足しながら、以前から彼女が朱音の誕生日を知っていたことに、どこか落ち着かない気持ちが加速する。
「ということは、天音も知っていたんだね?」
「まあ、うん。だって、お姉ちゃんだし──」
「──なんでだよ!」
なぜ、朱音も天音も同様の態度をとっているのか。俺にはどうしたって理解に苦しんでしまう要素がある。
「そんなに平然と誕生日を迎えるってどういうこと?! だって、誕生日は個人を祝える最高の日じゃないか! 一年を無事に過ごせたっていう素晴らしい記念日でもあるだろう!? 悪魔祓いをしているっていうのなら、それはなおさらじゃないか!!」
「……なんか、立花先生みたいだね、たまき」
「……」
そんな表現は、さすがに傷ついてしまう自分がいるから、ちょっと悲しくなってしまう。いや、立花先生は悪い人ではないのだけれど、それはそれとしてもなんかあまり存在しない小さなプライドにひびが入るような感覚を覚える。
「ともかく、ともかくだよ。誕生日っていうのは素晴らしい日なんだよ! 祝わなきゃいけないの! なのに、なのにどうして朱音も天音も素知らぬふりして日常を謳歌しているのさ!」
「どうして、って言われても──」
「──うるさい! 言い訳は受け付けない!!」
「……理不尽」
しょぼん、と一瞬表情を曇らせたことに、少しの申し訳なさを感じはするけれど、それでも彼女たちが行わなかった誕生日の祝い事を思えば、今は無視しても許されるような気がする。
「いいかい? 誕生日は祝われて正当なものなんだよ。その日ばかりは神様のような振舞いをしても許されるくらいには祝われて然るべきものなんだ。きっと各国がそうであるはずだ。どこかの国では法で定められているかもしれない」
「そんな幸せな国があるといいよね」
「ともかく、ともかくだよ! 俺は──」
ふう、と息を吐いた後に言葉を間違えないように慎重に選んで発してみる。
「──誕生日パーティーを開きたいんだ」
◇
「最初からそう言えばいいのに」と天音は俺の表情を伺いながら、苦言を呈すようにそう言葉を吐いた。実際、単刀直入に話題へと上げれば話はスムーズだったのかもしれないけれど、それにしたって人間らしい価値観の欠如が行われていることに、大きく衝撃を受けた俺はそうすることはできなかった。
「別に、祝うことはいいと思う、けど」
感情の整理をしている間、天音はやはり苦言を呈すように言葉を吐く。
「お姉ちゃん、誕生日を祝われても嬉しい、のかな」
「──何を言ってるんだよ、祝われて嬉しくない人間なんていないでしょ」
「……いや、そういうことじゃなくってね?」
天音は少し考えるように腕を組みながら、言葉を選ぶように、うーん、と間延びした声を上げている。
「……お姉ちゃん、忙しいから、祝いの席を用意するくらいなら、お休みする時間があった方が嬉しいんじゃないかな、って」
「……」
ここに来て、天音の正論が僕の心を傷つけた。
『えぇー。めんどーくさいんだけどー』
確かに、朱音に誕生日を祝うことの話をしたら、あからさまに態度を変えて、ギャルのような雰囲気でそう返していた。そう返していたのは、言葉の通り面倒くさいと感じているからだろう。
今の朱音には休息の時間の方が大事なのかもしれない。
イギリスでは、本当に忙しいらしく、日本に来たときには毎回その忙しさを言葉の上で並べてくる。上司や幹部に対する文句、時間の少なさ、睡眠時間が足りない、人を殺す気か、と散々な愚痴を垂れ流していた。
……そんな朱音に祝い事を差し向けようとする自分の考えは、間違っているのだろうか?
「間違ってはいないと思うよ。……悪いのはぜんぶ、悪いことをする悪魔と仕事をあてがう教会のせいだから」
フォローをするように言葉を選んでくれる天音。その言葉に、少なからず安心感を覚える。
「でも、もう朱音に誕生日会をやるって、宣言しちゃったんだ。誕生日は祝われるべき、って考えが先行しちゃって、どうしても我慢できなくて……」
「それなら、やるしかないんじゃない、かな」
「……でも、天音に言われた通り、疲れているのなら、その疲れを癒すために時間を使ってもらった方がいいような気もしてきた」
先ほどまで俺は、他人の事情を鑑みないまま、勝手に人の誕生日を祝おうとしていた。俺自身の考えとしてはその思考こそは間違っていないような気もするけれど、それを押し付けるのは悪に近いかもしれない。ひどく独善的で傲慢だとも思う。
天音のおかげで冷静になれた今、朱音に対して誕生日会、並びに誕生日パーティーをする、というのは、朱音を更に疲弊させる原因になるのではないか。
今になってやってきたそんな心配、俺がどうするべきか、結局迷い続けているとき、天音はひとつ息を吐いた。
「でも、宣言したのなら、お姉ちゃんも楽しみにしている、かも?」
「……そう、かな」
「逆に、ここで宣言を撤回するのは、人として最低だとわたしは思います」
「……確かに」
「だからさ──」
これまたひとつ大きな息を天音は吐いた後、にっこりとした表情を浮かべてこう言った。
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僕はその時、初めて天音を天才だと思った。
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