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第四章 異質殺し
4-EX4 悪魔のような誘い
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◇
天音による悪魔のような誘いを受けて、俺はそれを断ろうとした。というか、実際に断った。未成年の飲酒というのは日本では違反のようなものであり、イギリスがどうとか、他の国がどうとか、そんなものは関係ないと口にして、なんとか彼女に対して悪いことを理詰めで教えていった。
だが、その甲斐はなかった。
「ほら、たまき。あーん」
食事でもないのに、それでも俺に飲ませようと、俺の口に向けて運ばれるチューハイ缶の空き口。口に含みたくなくて、顔をそらしてなんとか抵抗をしたけれど、その甲斐は空しく無理に押し付けられたチューハイは口の中に少しだけ入って、そして垂れていく。
口の中に入れただけでしかないので、ぺっ、と吐き出せばいい話なのだけれど、なんとかティッシュにくるもうと自室を漁ろうとしている中で、天音はそれでも缶チューハイを俺に押し付けてくる。結局、彼女を無理に拒むこともできなくて、俺はそれをごくりと飲み込んでから、あーやっちまった、というどうしようもない後悔と、若気の至りのような罪悪感で心を染めていた。
正直、味が美味しいとは思えなかった。
無理に飲まされたのはレモンのチューハイだったらしい。確かなレモンの風味に重なって、そうしてやってくる酸味にそれっぽさは感じたけれど、そのあとにやってくる独特のアルコールの塊のようなものが美味しさを感じさせてはくれない。
というか、アルコールの味ってこんなに強いものなのか? そう思って、なんとなく天音が押し付けてきたチューハイのアルコール度数に目をつけてみたけど──。
「──9パーセント?!」
なんか、テレビで見たことがあるような気がする。普通のチューハイというものは5パーセントくらいの度数で片付くものであり、それを超えるストロング缶(?)みたいなやつが、巷では流行りつつある、と。確かその時、テレビのキャスターか、それとも母親かは忘れたけれど、苦言を呈していたことも記憶に残っている。世も末だな、とかそんなことを言っていたのだけはきちんと頭に残っている。
それが、目の前にある?!
「どうしたの、たまき」
俺の言葉に何かを気にするようなことはなく、俺に渡してきたチューハイを、間接キスだとかも特に気にしないままに口に運ぶ天音の姿。どこか目がとろけているようにも見えて、据わっているようにも見える瞳に、ああ、もうこれは言葉は届かないな、という気持ちになった。
「はい、あーん、だよ……? たまき……」
……どうしたらいいんだろう、これ。
俺は結局逃げ場を見つけることはできないまま──。
◇
「──何やってるんだお前ら」
ドン、と勢いよく扉が鈍い音を立てた後、恐ろしく凄んでいる声が自室の中を包んでいた。
「……ふあ?」
意識ははっきりしている、はずなのに、水の中にいるみたいに体が重くて、反応が遅い。それを悟られるわけにはいかない、という気持ちもあるけれど、それでも舌さえまともに回らない環境の中では、息を吐くことしかできない。
「……おねーちゃんだ!」
そして、扉の先にいる人物をゆっくり振り返りながらも、ようやく気付いたその名前に、間延びした……、いいや、とても甘ったるい声をかけてくる。
「……あかね、だねぇ」
僕も相槌を打つように声を吐き出してみる。いや、そんな場合じゃない、と脳が警鐘を鳴らしてはいるけれど、それはそれとしてもとろける感覚がだんだんと楽しくなっていて、どうにかできないような感覚がずっと体の中にとどまっている。
苦しいような、でも楽しいような。
胃袋の奥を通り過ぎた場所から、少し重い痛みのようなものも感じる気がするし、その痛みを和らげるようなぬくもりもそのままそこにある気がする。
ええと、なんだろう。なんか楽しい。
「……おいおい、私の誕生日パーティーとやらをやるんじゃなかったのか?」
「……ん、そうだよー?」と天音。
「おねーちゃんのためにね、いっぱいお酒かってきたー!!」
「そうだよ、あまねがおさけかってきてた。……ぼくはわるくないよ」
「……ろれつが回っていない言葉で言われても信用できねぇって」
朱音はなんか苦笑している。苦笑しながら、こちらをじとっとにらむような、それでいて楽しんでいるような、そんな感じの雰囲気をしている。
「……どうしようかな」
朱音はそんな目で僕と天音を見た、困ったような声音を出していて、ごめんなさい、って気持ちになる。
「とりあえず──」
そうして躊躇われるような朱音の声音。どうすればいいんだろう、悪いことしたから謝らなきゃいけないかな。でも、まずは誕生日おめでとう、って言わなければいけない気もしてきた。
だけれども、朱音はそんな僕たちをじーっと見つめながら、くすぐるような声で言った。
「とりあえず、お手、からだな!」
天音による悪魔のような誘いを受けて、俺はそれを断ろうとした。というか、実際に断った。未成年の飲酒というのは日本では違反のようなものであり、イギリスがどうとか、他の国がどうとか、そんなものは関係ないと口にして、なんとか彼女に対して悪いことを理詰めで教えていった。
だが、その甲斐はなかった。
「ほら、たまき。あーん」
食事でもないのに、それでも俺に飲ませようと、俺の口に向けて運ばれるチューハイ缶の空き口。口に含みたくなくて、顔をそらしてなんとか抵抗をしたけれど、その甲斐は空しく無理に押し付けられたチューハイは口の中に少しだけ入って、そして垂れていく。
口の中に入れただけでしかないので、ぺっ、と吐き出せばいい話なのだけれど、なんとかティッシュにくるもうと自室を漁ろうとしている中で、天音はそれでも缶チューハイを俺に押し付けてくる。結局、彼女を無理に拒むこともできなくて、俺はそれをごくりと飲み込んでから、あーやっちまった、というどうしようもない後悔と、若気の至りのような罪悪感で心を染めていた。
正直、味が美味しいとは思えなかった。
無理に飲まされたのはレモンのチューハイだったらしい。確かなレモンの風味に重なって、そうしてやってくる酸味にそれっぽさは感じたけれど、そのあとにやってくる独特のアルコールの塊のようなものが美味しさを感じさせてはくれない。
というか、アルコールの味ってこんなに強いものなのか? そう思って、なんとなく天音が押し付けてきたチューハイのアルコール度数に目をつけてみたけど──。
「──9パーセント?!」
なんか、テレビで見たことがあるような気がする。普通のチューハイというものは5パーセントくらいの度数で片付くものであり、それを超えるストロング缶(?)みたいなやつが、巷では流行りつつある、と。確かその時、テレビのキャスターか、それとも母親かは忘れたけれど、苦言を呈していたことも記憶に残っている。世も末だな、とかそんなことを言っていたのだけはきちんと頭に残っている。
それが、目の前にある?!
「どうしたの、たまき」
俺の言葉に何かを気にするようなことはなく、俺に渡してきたチューハイを、間接キスだとかも特に気にしないままに口に運ぶ天音の姿。どこか目がとろけているようにも見えて、据わっているようにも見える瞳に、ああ、もうこれは言葉は届かないな、という気持ちになった。
「はい、あーん、だよ……? たまき……」
……どうしたらいいんだろう、これ。
俺は結局逃げ場を見つけることはできないまま──。
◇
「──何やってるんだお前ら」
ドン、と勢いよく扉が鈍い音を立てた後、恐ろしく凄んでいる声が自室の中を包んでいた。
「……ふあ?」
意識ははっきりしている、はずなのに、水の中にいるみたいに体が重くて、反応が遅い。それを悟られるわけにはいかない、という気持ちもあるけれど、それでも舌さえまともに回らない環境の中では、息を吐くことしかできない。
「……おねーちゃんだ!」
そして、扉の先にいる人物をゆっくり振り返りながらも、ようやく気付いたその名前に、間延びした……、いいや、とても甘ったるい声をかけてくる。
「……あかね、だねぇ」
僕も相槌を打つように声を吐き出してみる。いや、そんな場合じゃない、と脳が警鐘を鳴らしてはいるけれど、それはそれとしてもとろける感覚がだんだんと楽しくなっていて、どうにかできないような感覚がずっと体の中にとどまっている。
苦しいような、でも楽しいような。
胃袋の奥を通り過ぎた場所から、少し重い痛みのようなものも感じる気がするし、その痛みを和らげるようなぬくもりもそのままそこにある気がする。
ええと、なんだろう。なんか楽しい。
「……おいおい、私の誕生日パーティーとやらをやるんじゃなかったのか?」
「……ん、そうだよー?」と天音。
「おねーちゃんのためにね、いっぱいお酒かってきたー!!」
「そうだよ、あまねがおさけかってきてた。……ぼくはわるくないよ」
「……ろれつが回っていない言葉で言われても信用できねぇって」
朱音はなんか苦笑している。苦笑しながら、こちらをじとっとにらむような、それでいて楽しんでいるような、そんな感じの雰囲気をしている。
「……どうしようかな」
朱音はそんな目で僕と天音を見た、困ったような声音を出していて、ごめんなさい、って気持ちになる。
「とりあえず──」
そうして躊躇われるような朱音の声音。どうすればいいんだろう、悪いことしたから謝らなきゃいけないかな。でも、まずは誕生日おめでとう、って言わなければいけない気もしてきた。
だけれども、朱音はそんな僕たちをじーっと見つめながら、くすぐるような声で言った。
「とりあえず、お手、からだな!」
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