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新たな旅路へ
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王に許可をもらって、リーヌスの部屋を訪ねた。
目眩がしたが気をしっかり持ち直して扉を数回叩く。
中から「どうぞ」と返答があり、その声だけで飛び上がりそうになるが、たえてみせた。
「失礼する」
「ああ」
椅子に座る美青年は、あの時のまま変わらない姿の恋い焦がれた青年のまま。
心臓の音が脳内にまで響く。
ヘルマンは内心で自分を叱咤する。
――し、しっかりしろ! もう二度とこんな機会はないんだ!
「その姿、神官かな?」
「あ、ああ。そうだ」
「何の用だ?」
ぶっきらぼうに聞かれて、咄嗟に咳払いをした。
息をつくと率直に伝える。
「……陛下が、貴殿に街を案内するようにと言われたので」
嘘をついてしまった。
けれど、こうするしか彼と話す機会を得られない。
リーヌスは薄く笑うと頷いた。
それからヘルマンはリーヌスを連れて城下街へと繰り出した。
ぎこちなく噴水広場や名物などと説明して回るが、視線を合わせる事ができない。
――あの、リーヌスとこうして歩けるなんて。
時々盗み見る横顔はただただ美しかった。
店主に頼んで貸し切りにしてもらった店の裏庭で、昼食をとることになった。
ヘルマンが頼んだ名物の肉料理に、リーヌスは満足そうに頬張っている。
――こうして見ると、普通の人間と変わらないのにな。
「ヘルマン」
「ん?」
「ヘルマン、か」
にやり、とリーヌスが嗤う。
その笑みで、彼が自分を思い出したのだと直感した。
ヘルマンはなんともいえない気持ちで、軽く頷いた。
「……思い出したのか」
「ああ。笑えるな、その姿」
リーヌスは食事を進めながらヘルマンに話しかける。
「若かりしあの時のお前は、美しかったのに。老いとは残酷だな」
「そうだな」
「人間は歳を取るのが残念だ」
「……好き勝手なことばかり言って」
「ん?」
「棄てられた私の気持ちなど、魔の者であるお前には分からないか」
「なんだ? まさか、お前いまだに俺を愛してるのか?」
「ち、違う!」
思わず勢いよく立ち上がって否定の言葉を叫んだ。
そうしなければ、心が壊れそうだったからだ。
リーヌスは面倒だとでも言いたそうにため息をつく。
「食事がまずくなる。お前も神官なら、その執着を手放すべきではないのか」
「……そんなことは分かっている」
「なら、何が目的だ? 金か」
「ば、バカにするな!」
「なら、どうしたいんだ」
視線が絡むが、ヘルマンからそらせる。
今になって望む事など……ただ、何も言わなければもう二度と彼とは会えないだろう。
ヘルマンはリーヌスの傍に立ち、瞳を伏せつつある事を口にした。
「私を、連れて行って欲しい」
「なに?」
あんぐりと口をあけたリーヌスは、フォークを皿に落とす。
ヘルマンはたたみかけるように言葉を発する。
「三年だけ、頼む」
「どういう意図なのかは知らないが、俺はお前を抱けないぞ」
「し、知っているそんな事はっ」
「……俺が欲情するのは、若くて美しいオスだ。どの種族でもな」
露骨に拒絶をされると流石に胸がちくちくと痛む。
それでも、ここで引くわけにはいかなかった。
後三年というのは、神官であるヘルマンにとっては貴重な期間なのだ。
「まあ、お前はそこらにいるオヤジよりは綺麗だが、受け付けられないのは変わらない」
リーヌスは酒の入ったグラスを持つと一口飲み、口の端を吊り上げた。
「それでもいいなら来い、ああ、あと俺には恋人がいるぞ」
「――っ」
この機会を逃すわけにはいかない。
ヘルマンは頷いていた。
三日後には、リーヌスと共に国を出立した。
目眩がしたが気をしっかり持ち直して扉を数回叩く。
中から「どうぞ」と返答があり、その声だけで飛び上がりそうになるが、たえてみせた。
「失礼する」
「ああ」
椅子に座る美青年は、あの時のまま変わらない姿の恋い焦がれた青年のまま。
心臓の音が脳内にまで響く。
ヘルマンは内心で自分を叱咤する。
――し、しっかりしろ! もう二度とこんな機会はないんだ!
「その姿、神官かな?」
「あ、ああ。そうだ」
「何の用だ?」
ぶっきらぼうに聞かれて、咄嗟に咳払いをした。
息をつくと率直に伝える。
「……陛下が、貴殿に街を案内するようにと言われたので」
嘘をついてしまった。
けれど、こうするしか彼と話す機会を得られない。
リーヌスは薄く笑うと頷いた。
それからヘルマンはリーヌスを連れて城下街へと繰り出した。
ぎこちなく噴水広場や名物などと説明して回るが、視線を合わせる事ができない。
――あの、リーヌスとこうして歩けるなんて。
時々盗み見る横顔はただただ美しかった。
店主に頼んで貸し切りにしてもらった店の裏庭で、昼食をとることになった。
ヘルマンが頼んだ名物の肉料理に、リーヌスは満足そうに頬張っている。
――こうして見ると、普通の人間と変わらないのにな。
「ヘルマン」
「ん?」
「ヘルマン、か」
にやり、とリーヌスが嗤う。
その笑みで、彼が自分を思い出したのだと直感した。
ヘルマンはなんともいえない気持ちで、軽く頷いた。
「……思い出したのか」
「ああ。笑えるな、その姿」
リーヌスは食事を進めながらヘルマンに話しかける。
「若かりしあの時のお前は、美しかったのに。老いとは残酷だな」
「そうだな」
「人間は歳を取るのが残念だ」
「……好き勝手なことばかり言って」
「ん?」
「棄てられた私の気持ちなど、魔の者であるお前には分からないか」
「なんだ? まさか、お前いまだに俺を愛してるのか?」
「ち、違う!」
思わず勢いよく立ち上がって否定の言葉を叫んだ。
そうしなければ、心が壊れそうだったからだ。
リーヌスは面倒だとでも言いたそうにため息をつく。
「食事がまずくなる。お前も神官なら、その執着を手放すべきではないのか」
「……そんなことは分かっている」
「なら、何が目的だ? 金か」
「ば、バカにするな!」
「なら、どうしたいんだ」
視線が絡むが、ヘルマンからそらせる。
今になって望む事など……ただ、何も言わなければもう二度と彼とは会えないだろう。
ヘルマンはリーヌスの傍に立ち、瞳を伏せつつある事を口にした。
「私を、連れて行って欲しい」
「なに?」
あんぐりと口をあけたリーヌスは、フォークを皿に落とす。
ヘルマンはたたみかけるように言葉を発する。
「三年だけ、頼む」
「どういう意図なのかは知らないが、俺はお前を抱けないぞ」
「し、知っているそんな事はっ」
「……俺が欲情するのは、若くて美しいオスだ。どの種族でもな」
露骨に拒絶をされると流石に胸がちくちくと痛む。
それでも、ここで引くわけにはいかなかった。
後三年というのは、神官であるヘルマンにとっては貴重な期間なのだ。
「まあ、お前はそこらにいるオヤジよりは綺麗だが、受け付けられないのは変わらない」
リーヌスは酒の入ったグラスを持つと一口飲み、口の端を吊り上げた。
「それでもいいなら来い、ああ、あと俺には恋人がいるぞ」
「――っ」
この機会を逃すわけにはいかない。
ヘルマンは頷いていた。
三日後には、リーヌスと共に国を出立した。
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