ある神官の告白

彩月野生

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僕となった日

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リーヌスは潔癖なところがあり、歳をくったヘルマンにさわられるのを嫌った。
宿の部屋も別々にとり、食事もたまにしか一緒に食べない。
いつも彼の隣には、恋人であるダークエルフの少年が連れ添っている。
ヘルマンがくっついてくる事に大反対しており、ことあるごとに乱暴な言葉で噛みついてきた。

「ほんっとうに信じられない! なんでリーヌス様にこんなきったないオヤジがくっついてくんだよ!」
「口を慎めシーロ」
「だってさ~ずっとリーヌス様と二人旅だったのにい!」

ヘルマンは部屋の隅で咳払いをすると、わめく子供をなだめようと声をかけた。

「心配しないでくれ、私はリーヌスと君が嫌がる事はしない。部屋も別々だ。それに、三年の間だけだ」
「長いってば!」
「そうかな? 君にとってもリーヌスにとっても一瞬ではないのか?」
「それは……」
「そうだな。三年くらいどうってことはない、ただし、俺の邪魔をするなよ」
「ほんとうにずっとついてくるの!?」
「……」

これは思った以上にしんどいぞ。

ヘルマンは早速気持ちが沈むのを感じて、与えられた部屋で考え込んでいた。
傍にいることはできても、触れることは叶わない。
それに、彼の恋人から煙たがられて三年も過ごさなければならないのは、一定の距離を保って人と付き合ってきたヘルマンにとっては少々気が重かった。

人と深く関わらないということは、激情とも無縁だったからだ。
彼の恋人の少年はいささか気性が荒そうだった。

――まいったな。

自分はリーヌスとどう接すれば良いのだろう。
どうすれば、邪魔にならないように過ごせるだろうか。

結局一睡もできずに考え抜いたヘルマンは、朝食時に二人に導き出した答えを告げた。

「使用人扱いでかまない」
「……それっておっさんをこき使っていいってこと?」
「あ、ああ」
「――ははっ」

吹き出したリーヌスが、笑い続ける様子を眺めて拳を震わせる。

仕方がない。自分はいるだけで邪魔な存在なのだから。

「いいぞ! なら、今日からお前は俺とこいつの僕ってことだな」
「し、しもべ?」
「そうだよねえ! じゃあ、さっそく買い物の荷物持ちでも頼もうかなあ」
「……」

使用人と言った筈だが。
二人は聞く耳を持たず、食事を進める。
二人の向かいの椅子に座り、自分もパンでも齧ろうとしたが……手は動かなった。

――リーヌスとただ、思い出が欲しい。

そんな一心で強引に付いてきたが、三年間、こんな状態で耐えられるか不安だった。

午後、予定通り市場に買い物に出かけた、二人の後をついてまわるが、余分な買い物ばかりするので荷物は増えるばかりだ。

「荷物落とさないでね僕!」
「距離を取って歩けよ」
「……ぐ」

自ら望んだ事とはいえ、屈辱的である。
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