ある神官の告白

彩月野生

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愛しい男の執着に戸惑う

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あの醜い身体に戻るなど、認められない!

「帰ってくれ! リーヌス!」

ヘルマンは、顔を振りながら声を張り上げた。
彼の目的が分からないし、何よりもまたあの虚しい日々を繰り返すのかと思うと、泣きそうになる。

「ヘルマン! 何故、拒絶する!?」
「お前こそ! どうしてここに来た!? 私はもう元の身体に戻るつもりはない! 帰れ!!」
「……ヘルマン、結界を解け」

リーヌスが結界の向こうで静かに言葉を紡ぐ。

ヘルマンは顔を背けて拳を震わせた。

――今更、何を言われても、私は……!

「話を聞け。俺はシーロとは別れた」
「だ、だからなんだ!」
「あの犬には、俺が宿っていたんだ!」
「……まさか、そんな」

犬とは、あの黒い犬の事であろう。
ヘルマンは困惑してリーヌスを見据えた。
この男が分からない……。

「ヘルマン、俺と熱を交わしたのを覚えているか?」
「なんの話だ……?」
「あれは、夢じゃないぞ!」
「……」

ヘルマンの脳裏には、リーヌスと身体を重ねた甘い夢が蘇っていた。

――あれが、現実だと?

「俺は、女神からお前を守ろうと抗ったが、無駄に終わった……でも、こうしてお前を迎えに来る事ができた……」

すっとリーヌスが手を伸ばした瞬間、結界が砕け散り、淡い光りが霧散する。
ヘルマンはあとずさるが、リーヌスに腰を抱かれて捕まってしまった。

「は、離せ!!」
「大人しくしてろ!」

リーヌスがもう片方の手を宙にかざすと、空間に裂け目ができて、ヘルマンを連れて無理矢理入り込もうとする。

――このままでは、またあの醜い身体になってしまう!

怯えるヘルマンの脳内に、突然声がひびく。

“拒絶しろ!”

「女神様!」
「女神か! また邪魔を!」

リーヌスが怒声を張り上げ、大きく開いた空間に飛び込もうとするが、ヘルマンは己の意思で拒絶し、力を使って彼から離れた。

「ヘルマン!」

リーヌスが必死に手を伸ばして、ヘルマンの腕を掴むが、その瞬間、彼は凄まじく身体を揺さぶらせ、絶叫した。

「ぐああああっ」
「リーヌス!?」

“お前に私の力を流し込んだ、今のお前に触れてもこやつは力を扱えず、激痛に襲われるだけだ”

「そんな……!」

女神の言葉に愕然としたヘルマンは、リーヌスを引き剥がそうと腕を振ろうとするが、少しも動けない。

「うぐ……があっ……ヘルマンっ来い……!」
「うわっ!?」

リーヌスは血を吐きながらヘルマンを引っ張り、空間の裂け目へと飛び込んだ。

――まさか、女神様の力を跳ね除けるなんて!

“ヘルマン!”

女神の声は遠くなり、世界が目まぐるしく変わる。
やがて身体を何かに固定されたまま、ヘルマンは目を覚ます。

「……ん」

身体を確認すると、己はリーヌスに抱きしめられているのだと知り、叫んだ。

「は、離せ!」
「そればかりだな……離すか」   
「……っ!?」

さらにきつく抱きしめられてしまい、ヘルマンは胸の高鳴りに、めまいを覚えた。

「どうした、どこか痛いか?」
「……い、いや。むしろお前の方が!」

慌てて答えたヘルマンは、我に返り、顔を背ける。
そんなヘルマンに、リーヌスは頭を撫でてきて、楽しそうに囁いた。

「なんだ、心配してくれるのか」 
「え、そ、それは……」

リーヌスの態度が以前とまるで違う。
ヘルマンは戸惑いつつも、喜んでいる己にため息をついた。

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