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いつも貴方を想っている
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ヴィレクを看取り、せめてもの慈悲として神官に白魔術によって、聖なる炎で浄化してもらい、その蒼い輝きが空にいくのを見守る。
傍らに寄り添うアロイスが、ライマーの肩を抱き寄せて髪に口づけをしてくれた。
優しい仕草に胸が温かくなる。
「お前は、何も言わないな」
「……全て、終わったんだ」
ヴィレクが死んだ事により、ライマーにかけられた呪いは消滅した。
――アロイスが、知る必要はない。
余計な苦しみで負担を与えたくはない。
彼は、聖騎士であり、この国とって大切な存在なのだ。
ライマーは視線を落とすと、尻尾を振ってじゃれついてくる犬の頭を撫でてやる。
「よく尽くしてくれたな、これからは贅沢な暮らしができるぞ」
「なにか言ったか?」
「さようならって言ったんだ……」
顔を寄せて、アロイスの唇に口づけをする。
心の内で、記憶を消去する呪文を唱えた。
「――ぐッ」
短いうめき声を上げると、アロイスはゆっくりと瞳を閉じた。
そのまま草の上に寝かせてやると、神官に歩み寄り、ライマーの意志を伝えた。
神官は何度も頷くと、犬を預かり、アロイスの元へと駆け寄る。
そんな光景を見つめて、胸が切なく疼く。
――恋は、運命を狂わせてしまう。
――俺も、ヴィレクも、間違えてしまった。
ライマーをアロイスの元へ行かせた後、ヴィレクは仲間と亀裂が生じて、結果的に殺してしまったのだと知った。
戦争がない今くらい、享楽にでも耽って愉しく暮らせば良かったものの……。
ライマーは一人、森の中を歩き出した。
目的地は特にないが、生きる理由ならばある。
落ち着いたら、アロイスの様子を見に来よう。
これからの生きる理由は、アロイスの生涯を見届ける事にしよう。
いずれ、彼は結婚して子供をもうけて、幸せになるのだ。
光の道を歩き続けて欲しい。
――闇に浸り、穢れた自分は彼にはいらない。
それでも、一時、アロイスが自分に心を寄せてくれたのは、大切な思い出として心にしまっておこうと思った。
それから数ヶ月後。
新しい年を、アーオイの隣国の小さな街で迎えたライマーは、住人からある噂話を聞いて青ざめた。
「……アロイスが、死んだだと」
そんな、馬鹿な。
最初は信じられなかったが、アーオイの騎士団と知能の低く、ただ力ばかりが強い魔物の軍団が衝突したようで、聖騎士が命を奪われたのを、目撃した民がいたという話には真実味があった。
ライマーはいてもたってもいられず、アーオイへと旅立った。
*
アーオイの王都へたどり着いたライマーは、兵士に囲まれる羽目となってしまった。
その中心には若い騎士が腕を組み、口元を吊り上げてライマーを見据えていた。
「来ると思っていたぞ、闇魔術師よ」
「エドヴィン、これはいったい」
アロイスの弟であり、騎士団副団長であるエドヴィンが、ライマーを待ち構えていたのだ。
兵士に言いつけて、ライマーを捕らえるため、見張らせていたのだという。
――罠か。
ならば、アロイスは生きているのではないのか。
そんな淡い期待はすぐに消え失せた。
最初にエドヴィンに案内されたのは、墓地であり、花がたむけられた墓石には、確かにアロイスの名が刻まれていたのだ。
「そんな……」
膝をつき涙を流すライマーの背に、エドヴィンが声をかける。
「兄は隙をつかれてな……」
「あの、アロイスが」
こんな簡単にやられるなんて。
項垂れるライマーを抱き起こしたエドヴィンが、二人で酒でも飲もうと、誘ってきた。
そんな気分ではなかったが、このまま帰る気にもなれず、導かれるまま、アロイスとエドヴィンの実家である屋敷にやって来た。
数名の使用人が出迎えて、夕食の準備が整っていると伝えてくる。
泊まっていくように促され、渋々頷いた。
誘導されるまま席についたライマーに、酒とご馳走が運ばれてくる。
広々とした机上に並べられる見た目も鮮やかな料理が、鼻腔と空いた腹を刺激した。
きゅるると小さく腹が鳴ってしまい、恥ずかしくなって俯く。
「はははっ、遠慮せずに食べるといい」
「しかし」
「どれもこれも、兄の好物だぞ」
「……そうか」
考えてみれば、アロイスが何が好きで嫌いかまでは、知らなかったな。
そんな苦い気持ちで慎重に料理を口に運ぶ。
肉料理も根菜や新鮮な野菜を使った料理も、上品な見た目に反して、味の主張が濃い。
まるで、アロイスのようだ。
「聞きたい事がいろいろあってな。わざとお前に噂が届くようにしむけた」
「え?」
「お前のいどろを探るくらいは、有能なのだよ、我が騎士団は」
「そ、そうか」
いつの間に突き止められていたのだろうか。
気まずい気分に陥りながらも、酒を勧めるエドヴィンにグラスを差し出す。
ライマーからもエドヴィンのグラスに酒を注ぎ、お互いに一口啜る。
酒に弱いライマーは、すぐに頭がぼんやりとして顔を振った。
「まずは、お前が兄が目的で騎士団にやってきたのか、というところから知りたい」
「……それは」
「兄はいない。教えてくれてもいいだろう? 一体、お前は何者なのだ?」
「……」
確かに。もう隠す事など何もないか。
傍らに寄り添うアロイスが、ライマーの肩を抱き寄せて髪に口づけをしてくれた。
優しい仕草に胸が温かくなる。
「お前は、何も言わないな」
「……全て、終わったんだ」
ヴィレクが死んだ事により、ライマーにかけられた呪いは消滅した。
――アロイスが、知る必要はない。
余計な苦しみで負担を与えたくはない。
彼は、聖騎士であり、この国とって大切な存在なのだ。
ライマーは視線を落とすと、尻尾を振ってじゃれついてくる犬の頭を撫でてやる。
「よく尽くしてくれたな、これからは贅沢な暮らしができるぞ」
「なにか言ったか?」
「さようならって言ったんだ……」
顔を寄せて、アロイスの唇に口づけをする。
心の内で、記憶を消去する呪文を唱えた。
「――ぐッ」
短いうめき声を上げると、アロイスはゆっくりと瞳を閉じた。
そのまま草の上に寝かせてやると、神官に歩み寄り、ライマーの意志を伝えた。
神官は何度も頷くと、犬を預かり、アロイスの元へと駆け寄る。
そんな光景を見つめて、胸が切なく疼く。
――恋は、運命を狂わせてしまう。
――俺も、ヴィレクも、間違えてしまった。
ライマーをアロイスの元へ行かせた後、ヴィレクは仲間と亀裂が生じて、結果的に殺してしまったのだと知った。
戦争がない今くらい、享楽にでも耽って愉しく暮らせば良かったものの……。
ライマーは一人、森の中を歩き出した。
目的地は特にないが、生きる理由ならばある。
落ち着いたら、アロイスの様子を見に来よう。
これからの生きる理由は、アロイスの生涯を見届ける事にしよう。
いずれ、彼は結婚して子供をもうけて、幸せになるのだ。
光の道を歩き続けて欲しい。
――闇に浸り、穢れた自分は彼にはいらない。
それでも、一時、アロイスが自分に心を寄せてくれたのは、大切な思い出として心にしまっておこうと思った。
それから数ヶ月後。
新しい年を、アーオイの隣国の小さな街で迎えたライマーは、住人からある噂話を聞いて青ざめた。
「……アロイスが、死んだだと」
そんな、馬鹿な。
最初は信じられなかったが、アーオイの騎士団と知能の低く、ただ力ばかりが強い魔物の軍団が衝突したようで、聖騎士が命を奪われたのを、目撃した民がいたという話には真実味があった。
ライマーはいてもたってもいられず、アーオイへと旅立った。
*
アーオイの王都へたどり着いたライマーは、兵士に囲まれる羽目となってしまった。
その中心には若い騎士が腕を組み、口元を吊り上げてライマーを見据えていた。
「来ると思っていたぞ、闇魔術師よ」
「エドヴィン、これはいったい」
アロイスの弟であり、騎士団副団長であるエドヴィンが、ライマーを待ち構えていたのだ。
兵士に言いつけて、ライマーを捕らえるため、見張らせていたのだという。
――罠か。
ならば、アロイスは生きているのではないのか。
そんな淡い期待はすぐに消え失せた。
最初にエドヴィンに案内されたのは、墓地であり、花がたむけられた墓石には、確かにアロイスの名が刻まれていたのだ。
「そんな……」
膝をつき涙を流すライマーの背に、エドヴィンが声をかける。
「兄は隙をつかれてな……」
「あの、アロイスが」
こんな簡単にやられるなんて。
項垂れるライマーを抱き起こしたエドヴィンが、二人で酒でも飲もうと、誘ってきた。
そんな気分ではなかったが、このまま帰る気にもなれず、導かれるまま、アロイスとエドヴィンの実家である屋敷にやって来た。
数名の使用人が出迎えて、夕食の準備が整っていると伝えてくる。
泊まっていくように促され、渋々頷いた。
誘導されるまま席についたライマーに、酒とご馳走が運ばれてくる。
広々とした机上に並べられる見た目も鮮やかな料理が、鼻腔と空いた腹を刺激した。
きゅるると小さく腹が鳴ってしまい、恥ずかしくなって俯く。
「はははっ、遠慮せずに食べるといい」
「しかし」
「どれもこれも、兄の好物だぞ」
「……そうか」
考えてみれば、アロイスが何が好きで嫌いかまでは、知らなかったな。
そんな苦い気持ちで慎重に料理を口に運ぶ。
肉料理も根菜や新鮮な野菜を使った料理も、上品な見た目に反して、味の主張が濃い。
まるで、アロイスのようだ。
「聞きたい事がいろいろあってな。わざとお前に噂が届くようにしむけた」
「え?」
「お前のいどろを探るくらいは、有能なのだよ、我が騎士団は」
「そ、そうか」
いつの間に突き止められていたのだろうか。
気まずい気分に陥りながらも、酒を勧めるエドヴィンにグラスを差し出す。
ライマーからもエドヴィンのグラスに酒を注ぎ、お互いに一口啜る。
酒に弱いライマーは、すぐに頭がぼんやりとして顔を振った。
「まずは、お前が兄が目的で騎士団にやってきたのか、というところから知りたい」
「……それは」
「兄はいない。教えてくれてもいいだろう? 一体、お前は何者なのだ?」
「……」
確かに。もう隠す事など何もないか。
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