隷属神官の快楽記録

彩月野生

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隷属神官が願うのは

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城に戻ったリアムは、クロヴィスの姿を探し回っていた。
大抵は広間で作戦会議をしているのに、今日に限って見当たらない。
昨夜は無断で戻らなかったので、早く顔を見せたかった。

寝室や食堂、風呂場も確認するがやはりどこにもいない。
誰に聞いてもどこにいるのか知らない様子で、渋々自室に戻ろうと通路を歩いていると、人影が見えて駆け寄った。
リアムの部屋の扉が開かれており、誰かが声を荒げて話し込んでいるのが聞こえ、焦ってしまう。

リアムは慌てて自室に飛び込むと、そこには見知った魔族の男二人が対峙していた。
クロヴィスとサンドロである。

「サンドロ?」
「リアム! どこ行ってたんだよ!」

サンドロが近寄ろうとしたが、クロヴィスが腕で邪魔をする。
クロヴィスは不機嫌そうな表情でリアムを見据えていた。

――やっぱり、そうだよね。

サンドロが口を尖らせる。

「何だよ」
「さっさと出て行け」
「俺はリアムに用があるんだよ!」

食い下がるサンドロにクロヴィスが睨み付けて一触触発の状況だ。
リアムはここは止めるべきだと割って入る。

「やめて二人とも」
「あ? 奴隷が指図するな」
「ご、ごめんなさい」

クロヴィスに睨めつけられると萎縮してしまうが、ここで乱闘騒ぎを起こされても面倒な事になってしまうのは、目に見えていた。

「僕がクロヴィスと話がしたくて……ごめんなさい」
「……あ~」

サンドロが不満そうに声を上げて、頭をがしがしかくとクロヴィスの腕を払う。

「分かったよ、様子を見に来ただけだからよ」
「また今度」
「ああ」

笑顔を浮かべて立ち去ってくれたのでリアムは胸をなで下ろす。
本番はここからだ。
不機嫌そうな顔つきのクロヴィスに緊張しながらもリアムはその前に進み出る。
自分が何処にいたのか、誰と会っていたのかを伝えると舌打ちをされた。

「クロヴィスはわざと僕にあの場所を教えたんでしょう?」
「……何故そう思う」
「リュカ様とディランは、お墓の近くにある湖の傍で暮らしてた」
「だったら、なんだ」

開き直りとも取れるクロヴィスの態度に、リアムは目を丸くする。
クロヴィスが自分の反応を見たいが為にこんな真似をしたのかは分からないが、胸の内には喜びが広がっていた。

――やっぱりクロヴィスは……僕が思っていたとおりだ。

頬が熱くなるのを感じながら一言伝えた。

「ありがとう」

高ぶった気持ちをそのまま言葉に代えて伝えると、クロヴィスが目を見開いて薄く口を開く。
リアムは更に言葉を続けた。

「リュカ様を殺さないでくれたこと、二人を赦してくれた事、本当に、感謝してます」

リアムはクロヴィスの手を両手で取るときつく握りしめる。
自然と涙が溢れてきた。
もう一度お礼を述べてクロヴィスの手を放す。

「それじゃ部屋を片付けるから、また後で」
「待て」

腕を掴まれて引っ張られたかと思うと、寝台の上に押し倒されてしまった。
仰向けに寝転がらされてクロヴィスの腕の中に捕らえられる。
突然の行為に、リアムは息を飲むとクロヴィスの目を見据えた。

彼の口元がつり上がる。

「俺の子を産ませてやる」

「!?」

一体なんの話だろう。
リアムは思考が停止する。
クロヴィスの手の平が、リアムの腹の上を布越しになで始めた。
そこから熱が放出されているのが分かる。

――何か、術を?

紫色の光が強くなり、やがてリアムの全身を包み込むがバシッと消えてしまった。
リアムは痛みにうめく。

「んうっ?」
「……チッ、効かねえか」
「え、あ?」

今度は衣服に手をかけてくるのでリアムは慌てた。

「ど、どういう意味なの? 僕は、男だよ!?」
「性別や種族関係なく、受胎可能な身体に作りかえる術を俺は使える」
「で、でも」
「俺には世継ぎが必要だ。サンドロの野郎が妻を娶れとうるさくてな、めんどくせえからお前が孕め」
「サンドロが?」

サンドロは独自に政治について勉強していたらしく、今ではクロヴィスの右腕となり、この国を動かしていた。
それにクロヴィスとは幼なじみで、クロヴィスが子供の頃、例の神官に殺されかけて瀕死だった際に助けたという。

――僕が、クロヴィスの子を?

それはなんて幸せな事なのだろう。
愛する者の子供を授かるのだから喜ばしい事だ。

――でも。

脳裏にクロヴィスの家族が蘇る。

リアムは何よりも、クロヴィスの幸福を願う。

「お前を妻にしてやる、お前にとっては至上の喜びだろう」

リアムは瞳を閉じて一呼吸置くと、双眸を開いた。

「駄目だよ」

まっすぐに赤い瞳を見つめて語る。

「貴方の子供は、僕が産むべきじゃない」
「何だと?」

面食らったような表情になるクロヴィスから視線をそらして、リアムは言葉を続けた。

「奴隷を妻にして子供を作るなんて。王がそんな真似をしたら、王の権威が地に落ちてしまう」

リアムは瞳を伏せて震える声を絞り出す。
クロヴィスの頬を両手で包み込んだ。

「いつか、クロヴィスが誰かを愛する時がきっと来るから……その時、愛する人と子供を作って」

リアムはクロヴィスが後百年は生きる事を知っている。
クロヴィスの性奴隷として不老と延命の術をかけられた際にそれを知った。

リアムはクロヴィスに愛してもらうという願いは捨てていた。

本当は、リアムが傍にいる事でクロヴィスがいつまでも憎しみから解放されないと悩んでもいたが、クロヴィスがリアムを欲望のはけ口として傍に置くことを望むのであれば、贖罪として受け止めようと決意したのだ。

クロヴィスは無言でリアムを見つめている。
リアムは首をかしげた。

「クロヴィス?」

何だか硬直している様に見えて不安になった。

だが、次の瞬間、クロヴィスの目は冷酷な光を宿す。
リアムは恐怖に身体が震えたのを自覚した。

クロヴィスが額をリアムの額に擦りつけてくる。

「奴隷の意見なぞきくか。お前を奴隷妻として、明日婚姻の儀を国民の前で行う」
「!? そ、そんな事をしたら」
「お前は、国民へ俺の力と欲望を誇示し、恐怖心を植え付ける役目も担っている。役目を果たせ」
「でも」
「正妻はいずれ娶ってやる。気が向いたらな」
「……」
「お前には保険としてガキを孕ませてやる」

つまり、万が一クロヴィスが正妻を娶らない場合は、リアムが生んだ子供を王にするというのだ。

リアムは胸が締めつけられるように切なく疼くのを感じる。
頬が熱い。

――いいのかな、僕がクロヴィスの子供を産んで。でも、正妻は娶るって言ってるし……。

リアムはそっとクロヴィスに抱きついて、背中に腕を回してその胸に顔をすり寄せた。
その身体がいつもよりも逞しく感じる。

「分かりました。でも、僕は、クロヴィスに誰かを愛して欲しい。だから、僕は、貴方が誰かを愛してくれるように、ずっと願っているから」
「……うっとうしい野郎だ」

リアムは顔を上げてクロヴィスの頬に祈りを込めて口づけをした。
胸の内は切ない疼きがおさまらず、気付けば涙を流していた。
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