世界一の彼女として、愛してくれますか?──俺は求めてないのだが、ラブコメ展開になるのはどうしてだろうか?

R.K.

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一章

打ち合わせの後は愛合傘? 5

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 それから、二人してたわいない会話をしながら歩いていた。夜の暗い道は明るく輝いてるかの錯覚を覚えながら。

「ねえ、これはただの疑問だから、答えてくれなくてもいいのだけど……」

 そう、小さくぼやくように、擦れるような声で赤里あかりは言った。今までも、いくつか質問されているが、こんな感じではなかった。やはり、出版社の会議室で話をした後から、どこか彼女の様子がおかしい、気がする。
 正直、俺にはよくわからない。彼女の様子が本当にいつもと違うのか、それともただの気のせいなのか。最近知り合った俺に、それを判断することなんてできやしない。けど、それでも、なんとなく会話が噛み合ってそうで噛み合ってなかったと思う。
 赤里あかりは、俺が何も言わないことを肯定ととったらしく、こう言った。

「あんたってさ、人についてどう思ってる? もちろん、日本だけじゃないわよ? 世界中の全ての人類を含めて、人についてあんたはどう思ってる?」

 たぶん、いつも通りの赤里あかりで間違いないだろ。こんなわけのわからないことを言い出してるわけだし。たぶん、大丈夫だ。

「ねえ、なんでさっきから何も言わないわけ? 私は真剣に聞いてるのだけど?」

「えっ? いや、悪い。人についてとか、考えたこともないからな。少し考える時間をくれ」

「あー、そうね。あんたは普段から考えてないのね」

 いや、俺個人が考えてないというより、人類の大半はそんなこと考えてないと思うのだが。というか、考えていてほしくない。

「うーん、長くなりそう?」

「まあ、人についてだし、短時間で答えの出るものでもないだろう」

「それじゃ、そのことはまた今度聞くことにするわ。代わりに日本人の同調性について──」

「お前、急にどうした?」

 前言撤回。こいつ、やっぱりいつも通りなんかじゃない。絶対におかしい。

「いや、別に普通──」

「普通なわけないだろ。普段のお前と比べて、だいぶおかしいだろ。なんていうか、いつもよりもやりづらい」

「や、やりづらいってなによっ!? いつもと同じでしょ! 私がいつもと同じって言ってるんだから、いつも同じなのよ」

 いやまあ、そう言われたらそうなのかもしれないが、でも傍目にみてもそれは通るわけがない。そんな動揺しながら言われても、説得力なんてあるわけないんだから。

「なあ、なんかあったのか? やっぱり、おかしいって」

「うるさいうるさい、うるさーいっ! いいのよ、私のことは。ゆうのくせに生意気なのよ」

「なんだよ、それ。話してくれてもいいだろ」

「とにかく、いいったらいいの! ゆうがyouだったなんて思ってなくて、まだちょっと頭の整理が追いついてないだけだからっ!」

 なんというか、赤里あかりがかなり動揺してるのはわかった。とりあえず、これは聞かなかったにした方がいいやつだろう。俺だって、そんなことぐらいわかってる。わかってるのだが、聞き返せと囁き続ける俺の中の悪魔を抑えるのだって容易ではない。というか──、

「まだちょっと頭の整理が追いついてないだけって、それだけなのか?」

 抑えられるわけがない。だから、言ってしまった。いつものし返しの思いを込めながら。

「なっ……!」

 案の定、赤里あかりはあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしてる。

「なんでもないわよっ!」

 そう言って、赤里あかりはそっぽを向いてしまった。けど、それからしばらくせずに、彼女はこう言った。

「冷たっ!」

 そんな彼女の言葉を皮切りに、ぽつぽつと雨が降り出した。俺は雨具を持ってきていたかなと、鞄の中を探してみる。けど、そこに雨具はない。いくら探しても出てこない、それとは対照的に雨は強くなっていく。これは本降りになるなあと思いながら、赤里あかりを見ると、折りたたみ傘をさして、俺を見ていた。

「なあ──」

「嫌よ」

「そこをなんとかっ! 頼む!」

「…………はあ。仕方ないわね。赤里あかり様、愚かな私を傘に入れてくださいって、言ったらいいわよ」

赤里あかり様、愚かな──」

「なんで本当に言ったるのよ、気持ち悪い」

 よく考えなくても、これは気持ち悪い。てか、なんで傘に入れてもらうだけで、そこまでしなくちゃいけないのか。今、赤里あかりが止めてくれなかったら、人として越えてはいけない何かを越えて、目覚めてはいけないものに目覚めるところだった。

「なにぼさっとしてるのよ。ほら、傘。ただでさえ濡れてるんだし、これ以上濡れて風邪でも引いたら迷惑でしょ」

「そう、だな」

 そう言いながら傘に入ろうとして、

「傘、あんたが持ちなさい」

 俺は彼女から傘を渡される。そりゃそうか。だって──、

「俺のが背、高いからな」
「そういうのは男がするもんでしょ」

 そう呟いた俺の言葉と彼女がそう言ったのは、ほぼ同時だった。

「あんたね……。そういうのは男がするものでしょ」

「いや、悪い。悪気はないんだ」

「そうでしょうねっ! それだから余計に腹立つのよ。それと、もう少しくっついてくれる? さっきから、右側が少し濡れてるのよ」

 彼女の要望に答え、俺は今より彼女に近づく。

「もっと」

 そう言われては仕方ないと、もう少し近づくことにする。そうして、彼女が歩き出すのと同時に、俺も歩き出した。そこで、俺は気づいた。くっついたことによって、さっきから彼女の肩なんかがあたったりしてる。というか、彼女から漂う女の子特有のいい香りが鼻腔を刺激したりしてくるせいで、ドキドキする。しかも、さっき彼女からあんなことを聞いたばかりだ。
 もちろん、それは彼女からしてみれば俺に向けて言った言葉というわけではなく、youへ向けて言った言葉だってことぐらいわかってるのだが、結局のところ、それはどっちにしろ俺なのだ。
 俺からしてみれば、そこに差異はない。
 そして、何よりも問題なのは、この沈黙だ。さっきまで、何かしら会話をしていたから忘れていたのだが、赤里あかりは普通に美少女だ。かわいい。
 そんな状況で、相合傘なんてしてたら、すぐにでも思考停止する。だって、一つ傘の下の男女とか、ほぼ恋人だろ。つまり、俺は疑似恋人体験をしてるわけだ。…………違うか。とにかくそんな状況じゃ、まともに思考なんてできるわけない。
 そして、なによりその沈黙が気まずい。
 だから、俺は少しでも気まずさを紛らわすために人について考えながら、二人して少し顔を赤く染め、駅まで歩いていった。
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