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一章
《幕間》雨の中鳴り響く沈黙
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俺と赤里はしばらく電車に揺られると、同じ駅で降りた。あの後、赤里から、傘を貸したことの見返りを当然のように求められた。
そんなわけなので、クロワッサンと言えばここ、『三日月堂』にてクロワッサンをいくつか買うということで、話がまとまった。
よって、二人仲良く、時に言い合いをしながら、談笑をして三日月堂に向かっていると、
「おにい…………ちゃん……?」
なんとなく耳馴染みのある声が聞こえてきたような気がした。ただ、すぐにいるわけないかとも思う。妹のことへの申し訳なさから聞こえてきた幻聴かなんかなんだろうと、そう思った。
けど、次の瞬間、それが聞き間違いなんかじゃなかったことを理解する。だって、そこには妹が、彩華がそこにいたから。傘を二つ持って、瞳には明らかな動揺を携えて、そこにいたから。
「あ、あ……かっ……!?」
俺はまともに声を出すこともできなかった。あまりの事態に、俺も動揺していた。
隣にいる赤里は、この状況についてこれてないのか、啞然としている。
そして、今なお降り続けてる雨はより強くなっていき、駅を行き交う人たちの騒々しさを打ち消すかのように雨音は激しく耳に音を届ける。
「お兄ちゃん。アルバイトだって、言ったよね? そう、言ってたはずだよね? なのに、それなのに、なんで。なんで、私との約束を反故にして、他の女の人と遊んでるわけ? ねえ、お兄ちゃん……」
今にも爆発しかねないその感情を抑え込むかのように、彩華はそう言った。
思いの籠もったその言葉は、俺の心に深く突き刺さる。
それなのに、俺は彩華の言葉を否定するものしか出てこなかった。
「いや、あそんでたわけじゃ──」
「そんなの、そんなこと……信じられるわけないでしょ……! だって、お兄ちゃんはその人と楽しそうに話してた。お兄ちゃんはアルバイトを頑張ってると思ってた。だから、だからわざわざ傘を持ってきて、私、ここで待ってたんだよ? なのに、なのにお兄ちゃんはなんでっ……!」
彩華は俺に何かを言うすき一つ与えず、そう言い切った。それは、腹の底から込み上げてきた怒りに身を任せた、そんな言葉だった。
俺は、そんな妹の様子を見て、呆然とすることしかできない。なんて声をかければいいのかわからない。何をすればいいのかわからない。肝心なときに、何も出てこない。
そうして、なにもできないまま、時間は否応なく過ぎていく。
たくさんの音が鳴っているはずなのに、俺と妹のいる空間だけが、時間が止まってしまったかのように無音だった。
そんな無音を突き破ったのは、妹の甲高い声だった。
「お兄ちゃんなんて……大っ嫌いっ!」
彩華はそれだけ言い残すと、自分の傘すら持たず、バサッという音とともに、雨が激しく降る暗闇に向かって走って行ってしまった。
そんな妹の表情は、とても辛そうで、目からは涙が溢れていたような気がした。
結局なにもできなかった俺は、そこに取り残された、かわいらしいピンク色の傘と紺色の傘を交互に見る。
この状況を目の当たりにしても、俺の頭は未だ理解が追いつかない。
それに、普段仲良くない妹であっても、『大嫌い』なんて言ったことはなかった。これが初めてのことだった。喧嘩は何度もしたが、『大嫌い』なんて言われたこと、一度もない。
だから、その言葉の強さに、戸惑い、困惑していた。
これから俺はどうするのが正解なのか? そんな簡単なことですら、考えることもできなかった。
辺りのざわめきすら、俺の耳には届かず沈黙が支配し、そして俺の目の前には、ただただ暗闇が広がるだけだった。
そんなわけなので、クロワッサンと言えばここ、『三日月堂』にてクロワッサンをいくつか買うということで、話がまとまった。
よって、二人仲良く、時に言い合いをしながら、談笑をして三日月堂に向かっていると、
「おにい…………ちゃん……?」
なんとなく耳馴染みのある声が聞こえてきたような気がした。ただ、すぐにいるわけないかとも思う。妹のことへの申し訳なさから聞こえてきた幻聴かなんかなんだろうと、そう思った。
けど、次の瞬間、それが聞き間違いなんかじゃなかったことを理解する。だって、そこには妹が、彩華がそこにいたから。傘を二つ持って、瞳には明らかな動揺を携えて、そこにいたから。
「あ、あ……かっ……!?」
俺はまともに声を出すこともできなかった。あまりの事態に、俺も動揺していた。
隣にいる赤里は、この状況についてこれてないのか、啞然としている。
そして、今なお降り続けてる雨はより強くなっていき、駅を行き交う人たちの騒々しさを打ち消すかのように雨音は激しく耳に音を届ける。
「お兄ちゃん。アルバイトだって、言ったよね? そう、言ってたはずだよね? なのに、それなのに、なんで。なんで、私との約束を反故にして、他の女の人と遊んでるわけ? ねえ、お兄ちゃん……」
今にも爆発しかねないその感情を抑え込むかのように、彩華はそう言った。
思いの籠もったその言葉は、俺の心に深く突き刺さる。
それなのに、俺は彩華の言葉を否定するものしか出てこなかった。
「いや、あそんでたわけじゃ──」
「そんなの、そんなこと……信じられるわけないでしょ……! だって、お兄ちゃんはその人と楽しそうに話してた。お兄ちゃんはアルバイトを頑張ってると思ってた。だから、だからわざわざ傘を持ってきて、私、ここで待ってたんだよ? なのに、なのにお兄ちゃんはなんでっ……!」
彩華は俺に何かを言うすき一つ与えず、そう言い切った。それは、腹の底から込み上げてきた怒りに身を任せた、そんな言葉だった。
俺は、そんな妹の様子を見て、呆然とすることしかできない。なんて声をかければいいのかわからない。何をすればいいのかわからない。肝心なときに、何も出てこない。
そうして、なにもできないまま、時間は否応なく過ぎていく。
たくさんの音が鳴っているはずなのに、俺と妹のいる空間だけが、時間が止まってしまったかのように無音だった。
そんな無音を突き破ったのは、妹の甲高い声だった。
「お兄ちゃんなんて……大っ嫌いっ!」
彩華はそれだけ言い残すと、自分の傘すら持たず、バサッという音とともに、雨が激しく降る暗闇に向かって走って行ってしまった。
そんな妹の表情は、とても辛そうで、目からは涙が溢れていたような気がした。
結局なにもできなかった俺は、そこに取り残された、かわいらしいピンク色の傘と紺色の傘を交互に見る。
この状況を目の当たりにしても、俺の頭は未だ理解が追いつかない。
それに、普段仲良くない妹であっても、『大嫌い』なんて言ったことはなかった。これが初めてのことだった。喧嘩は何度もしたが、『大嫌い』なんて言われたこと、一度もない。
だから、その言葉の強さに、戸惑い、困惑していた。
これから俺はどうするのが正解なのか? そんな簡単なことですら、考えることもできなかった。
辺りのざわめきすら、俺の耳には届かず沈黙が支配し、そして俺の目の前には、ただただ暗闇が広がるだけだった。
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