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一章
兄が妹を思うのは自然なことだろ? 2
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彼からの電話を聞き終えた俺は、どうしていいのかわからず呆然としていた。
これからどうするのが正解なのか、結局わからなくなった。絶望に等しいほどの衝撃が、俺を支配していたから。
彼からの電話の内容は、端的に言えば俺の妹を誘拐したというものだった。そして、このことを警察に連絡すれば、妹の無事は保証できないと。
ただし、俺が約束さえ守れば、妹に危害一つ加えないとも言っていた。
その結果、頭の中は完全にパニックになっていて、俺はどうしていいかわからなくなった。
相手の要求はただ一つ。妹を返して欲しければ、金を用意しろ。
その金額は、もちろん一介の高校生がおいそれと用意できるような額じゃない。
妹を助けるためには正攻法ではどうにもならない。それは、今の俺ではどうしようもない。どうもできない。妹を見殺しにするしかないと、そういうことと同義だった。
なにもできない。高校生が対処できるレベルを超えている。
もし、警察に連絡したことが、相手にバレれば即終わり。バレなくても、すぐに動いてくれるかもわからない。
いや、さすがに動いてくれるだろうが、それだけでどうにかなる問題じゃない。
結局のところ、俺には解決方法がわからない。どんなに考えても、妹を助けられない。
そう思うと、俺は罪悪感と自分の不甲斐なさに、涙が込み上げてきた。
どうして、俺はあのとき、妹との約束を反故にしてまで、仕事を優先してしまったのか。
もちろん、仕事が大事なのはわかってるし、どれだけ迷惑が掛かるのかも理解している。
けど、それでも、俺があそこで仕事を優先していなければ、こうはならなかった。
それに、俺がもっとしっかりと赤里のことを説明できていたら、あの場で妹が雨の降る夜道を走って行くなんてこともなかった。
自分がとても情けない。自分なんて、価値がないと本気で思えてしまう。
地面に打ちつけるような雨は、まるで俺のことを罰するかのような鋭さがあった。
そうして、俺は深い深い海の底に苛まれるように、これからのことがどうでもよくなっていく。
今の俺では、妹一人を助けることすらできない。そんな事実が俺の頭を支配する。
そして、妹が誘拐されたという、現実味のないその言葉は、俺の頭は理解することを拒否していた。
そんなことをしても、なにも解決しないとわかっているのに、俺は無意識になにかの間違いだと信じてしまう。
そんなとき、俺はふと、これは夢なのでは? と思った。きっと、これは悪い夢なんだ。
けど、これが夢でないことをすぐにわかった。だって、俺の心が痛むから。
こんなに気持ちを刺激するものがもし夢だなんてあり得ない。
俺はそうして、これが現実に起きてることで、どんなにあがいても変わらない事実なのだと実感させられる。
けど、俺は理解することはおろか、認めることを拒否する。
違う。これは違う。なにかの間違いなんだ。そう思いたくて仕方ない。
こんなのは嘘だと、誰かに言ってもらいたい。
そうして、俺の心がボロボロと崩れ去っていこうとしたそのとき、また電話が鳴り響いた。
ぐちゃぐちゃになって、どうしようもない顔の俺は、電話を見たまま固まる。
誰からだろう。もしかしたら、さっきの電話は本当に嘘で、新手の詐欺で、妹からの電話かもしれない。そう思った。本気でそうだと思った。
そんなことがあるわけないとわかっていながら、そう思わずにはいられなかった。
さっきのはたちの悪いイタズラだ。妹が怒って、そんなことをしたんだ。
そう思いたくて仕方なかった。
そして、俺は恐る恐る、それでも淡い期待を込めて受話器を取る。
『あっ……!』
明るく高い、女の人の声が聴こえてきた瞬間、俺は妹だと、本当にそう思った。
けど、次に続く言葉を聞いて、俺の淡い期待は儚く散った。
『悠くん、その大丈夫? 息も切らして辛そうだけど……』
その声は彩華じゃなく、葵だった。葵は俺の様子に心配したようにそう声をかけてくれたが、俺はそんな言葉すら、まともに耳には入らなかった。
「悪い。今は──」
『悠くん本当に大丈夫? なにかあったら話して?』
「いや、大丈夫、だから」
全然大丈夫じゃない。けど、今は葵と話していたくなかった。そんな余裕なんてなかった。
もう、どこかに消えてしまいたかった。
『全然大丈夫じゃないよ。悠くん、私でよかったら力になるから、だから話して』
「本当に、今は──」
『悠くんになにかあったのはわかる。けど、悠くん一人でどうにかできなかったとしても、私がいればどうにかできるかもでしょ? 私は、全部わかってるから。悠くんが今、辛いってことも。だから、話して?』
「…………」
俺はどうしていいのかわからず、黙ってしまう。もし、ここで葵に話せばなにか変わるのか? 現状をどうにかできるのか? そう考えるが、なにもわからない。思考がまとまらない。
なにを考えても、ずっと妹が誘拐されたということが頭を過ぎる。そして、その事実を否定する。
『悠くん。私だけは悠くんの味方だから。悠くんのことを助けてあげられるのは私だけだから』
そんな優しい葵の言葉に、本当にどうにかなるならと思った。
だから、俺は葵にこう言った。
「葵、助けてくれ。今から俺の家まで会いに来てほしい」
『わかった。すぐ行くね』
これからどうするのが正解なのか、結局わからなくなった。絶望に等しいほどの衝撃が、俺を支配していたから。
彼からの電話の内容は、端的に言えば俺の妹を誘拐したというものだった。そして、このことを警察に連絡すれば、妹の無事は保証できないと。
ただし、俺が約束さえ守れば、妹に危害一つ加えないとも言っていた。
その結果、頭の中は完全にパニックになっていて、俺はどうしていいかわからなくなった。
相手の要求はただ一つ。妹を返して欲しければ、金を用意しろ。
その金額は、もちろん一介の高校生がおいそれと用意できるような額じゃない。
妹を助けるためには正攻法ではどうにもならない。それは、今の俺ではどうしようもない。どうもできない。妹を見殺しにするしかないと、そういうことと同義だった。
なにもできない。高校生が対処できるレベルを超えている。
もし、警察に連絡したことが、相手にバレれば即終わり。バレなくても、すぐに動いてくれるかもわからない。
いや、さすがに動いてくれるだろうが、それだけでどうにかなる問題じゃない。
結局のところ、俺には解決方法がわからない。どんなに考えても、妹を助けられない。
そう思うと、俺は罪悪感と自分の不甲斐なさに、涙が込み上げてきた。
どうして、俺はあのとき、妹との約束を反故にしてまで、仕事を優先してしまったのか。
もちろん、仕事が大事なのはわかってるし、どれだけ迷惑が掛かるのかも理解している。
けど、それでも、俺があそこで仕事を優先していなければ、こうはならなかった。
それに、俺がもっとしっかりと赤里のことを説明できていたら、あの場で妹が雨の降る夜道を走って行くなんてこともなかった。
自分がとても情けない。自分なんて、価値がないと本気で思えてしまう。
地面に打ちつけるような雨は、まるで俺のことを罰するかのような鋭さがあった。
そうして、俺は深い深い海の底に苛まれるように、これからのことがどうでもよくなっていく。
今の俺では、妹一人を助けることすらできない。そんな事実が俺の頭を支配する。
そして、妹が誘拐されたという、現実味のないその言葉は、俺の頭は理解することを拒否していた。
そんなことをしても、なにも解決しないとわかっているのに、俺は無意識になにかの間違いだと信じてしまう。
そんなとき、俺はふと、これは夢なのでは? と思った。きっと、これは悪い夢なんだ。
けど、これが夢でないことをすぐにわかった。だって、俺の心が痛むから。
こんなに気持ちを刺激するものがもし夢だなんてあり得ない。
俺はそうして、これが現実に起きてることで、どんなにあがいても変わらない事実なのだと実感させられる。
けど、俺は理解することはおろか、認めることを拒否する。
違う。これは違う。なにかの間違いなんだ。そう思いたくて仕方ない。
こんなのは嘘だと、誰かに言ってもらいたい。
そうして、俺の心がボロボロと崩れ去っていこうとしたそのとき、また電話が鳴り響いた。
ぐちゃぐちゃになって、どうしようもない顔の俺は、電話を見たまま固まる。
誰からだろう。もしかしたら、さっきの電話は本当に嘘で、新手の詐欺で、妹からの電話かもしれない。そう思った。本気でそうだと思った。
そんなことがあるわけないとわかっていながら、そう思わずにはいられなかった。
さっきのはたちの悪いイタズラだ。妹が怒って、そんなことをしたんだ。
そう思いたくて仕方なかった。
そして、俺は恐る恐る、それでも淡い期待を込めて受話器を取る。
『あっ……!』
明るく高い、女の人の声が聴こえてきた瞬間、俺は妹だと、本当にそう思った。
けど、次に続く言葉を聞いて、俺の淡い期待は儚く散った。
『悠くん、その大丈夫? 息も切らして辛そうだけど……』
その声は彩華じゃなく、葵だった。葵は俺の様子に心配したようにそう声をかけてくれたが、俺はそんな言葉すら、まともに耳には入らなかった。
「悪い。今は──」
『悠くん本当に大丈夫? なにかあったら話して?』
「いや、大丈夫、だから」
全然大丈夫じゃない。けど、今は葵と話していたくなかった。そんな余裕なんてなかった。
もう、どこかに消えてしまいたかった。
『全然大丈夫じゃないよ。悠くん、私でよかったら力になるから、だから話して』
「本当に、今は──」
『悠くんになにかあったのはわかる。けど、悠くん一人でどうにかできなかったとしても、私がいればどうにかできるかもでしょ? 私は、全部わかってるから。悠くんが今、辛いってことも。だから、話して?』
「…………」
俺はどうしていいのかわからず、黙ってしまう。もし、ここで葵に話せばなにか変わるのか? 現状をどうにかできるのか? そう考えるが、なにもわからない。思考がまとまらない。
なにを考えても、ずっと妹が誘拐されたということが頭を過ぎる。そして、その事実を否定する。
『悠くん。私だけは悠くんの味方だから。悠くんのことを助けてあげられるのは私だけだから』
そんな優しい葵の言葉に、本当にどうにかなるならと思った。
だから、俺は葵にこう言った。
「葵、助けてくれ。今から俺の家まで会いに来てほしい」
『わかった。すぐ行くね』
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