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共通ルート
EP7_⑪
しおりを挟む「では……お言葉に甘えて御足を。」
「はい///」
傍から見ると、なかなかに滑稽な景色だ。
密室に立つ裸婦と、その足元に膝を着き、脚を撫でようと手を伸ばす老紳士。
老いた狂執を孕んだセックスの前戯にも、医師による真剣な検診にも見える。
「……あぁ、すまない忘れてた。」
「?…………あっ///」
差し伸ばした手を引き取り、領主は丁寧かつ念入りに、指の消毒を済ませた。
手首から指の付け根、爪と指の間まで、細かく滑らかに消毒液を練り込んで、一切の菌を残さんとす。
「……ありがとうございます。」
まだ粘膜には触れないが、まずは誠意の問題だ。
ベタベタと触られるのも嫌いではないセレアだが、この一動作を挟まれると、相手に対する気持ちが変わる。
(ヴィルくんより……手慣れてる……。)
ヴィルが未熟なのは仕方ないと、分かっている。その未熟さが気に入っているのも事実だ。
しかし面影の重なる相手がこうも紳士であると、シャワーを浴びずに迎えた初夜が残念に思えるのも事実だ。
それはヴィルの落ち度より、エスコートするセレアの落ち度。だが、そもそも領主は導く必要が無い。――これは、大きな心理的差異だった。
「当然の事だよ。 それでは、今度こそ失礼。」
「はい……///」
領主の指先が、セレアのふくらはぎに触れる。
ゆったりとした指圧が細やかな皮膚を包み込み、脂肪を透過して筋肉と骨格を見定めていく。
「……どうでしょう?」
「健康的な足だ。 よく歩き、よく食べ、よく寝ている生活が容易に思い浮かぶ。
筋肉はあるが硬すぎず、むしろ抜群の柔らかさ。 バネと脂肪のバランスがよく整って、跳ねやすく衝撃を吸収しやすい。……走るのも早いかね?」
「その……揺れが凄いので……。」
はにかんだ笑みを浮かべ、セレアは両手で胸を隠す。
色鮮やかに魅力的な乳輪を手首で覆い抱え、零れ落ちそうな光景を暗示する。
「あぁ、失礼。 余計なお世話だった。」
「いえ、大丈夫です!」
走るのは嫌いではないが、かなり念入りにスポーツブラを選ばされる。
その手間を考えると、有酸素運動は他の種目を嗜んだ方が、日々のエクササイズとして手頃だった。
――そんな事を、考えていた時だった。
「…………? なんだこれは?」
「どうされました?」
領主の目の色が、急に変わる。
セレアのカラダに何かを見出し、頭を捻って考え始めた。
「……セレア殿、大きな病院で検査した事はあるかね?」
「いえ……その……恥ずかしながら、万年健康優良児ですので……///」
ここ20年、何の検査にも引っ掛かっていない。
体重は適正で、身長は伸び続け、バストもヒップも毎年更新する。育ち盛りの体育会系男児を彷彿とさせる、恥ずかしいほどの健康さ。
「いやいや、何も恥ずかしい事ではないよ。 たいへん結構な事だ。」
「ンフフ……ありがとうございます。 しかし、何かありましたか?……もしや病気ですか?」
「いや、そういうわけではないのだが。」
領主の落ち着いた口調に安堵する反面、年甲斐もなく慌ててしまった自分を恥じる。
大病した事が無い身だ。触診で些細な兆候でも見つかったなら、心穏やかにいられない。これは仕方ないのだ!と、セレアは自分を納得させる。
「君は体毛が極端に薄いね。……これは魔法で生えなくしているのかな?」
「あ……えぇと……/// 部位によります……///
デリケートゾーンの周りなどは、ホルモンを調整して無毛を保っています……///」
セレアは目を細めて苦笑しながら、体毛の処理事情を語る。
真面目に語るべきなのかよく分からない話だが、領主は真剣に聞いている。
「部位ごとに分けているのかね?」
「大半の場所は魔法で良いのですが……その……なんというか。 お腹に不自然な魔力を当てるのは、女性としては憚られる面もあるので……。」
セレアが労るように円を描いて下腹部を揉み摩ると、「おっしゃる通りだ」と言わんばかりに相槌を打って理解を示す。
エセ健康法のようにも思えるが、女性淫魔の子宮は魔力の心臓部だ。膨大な量のエネルギーが、常に規則正しく循環している。
その付近に外部から不必要な刺激を与えるのは、事故に繋がりかねない。良くて魔力不全、最悪の場合は不妊。家庭を持ちたいセレアにとっては、到底容認出来ないリスクだ。
「ホルモン調整は医学的処置で? それとも、自力で?」
「???……はい、自力です。 近寄って念じれば、他の女の子の体毛も生えなく出来ますわ。」
「…………なんと。」
娼婦に髪以外の体毛は要らない。
これは20年の経験が導き出した、確固たる結論だ。
客の趣味によっては無毛が興を削ぐ事もある。だが、そんな特殊な相手に配慮していられない。
陰毛が無い方が広く受け入れられる。仕事の後処理も楽で、日常生活にも便利だ。生やす理由が無い。
可愛い後輩たちにも、考えを共有した。
羞恥から抵抗する者もいたが、最後にはセレアの意見に賛同するようになる。これは娼婦生活に適応したのか、彼女に心を許したのか、曖昧な変化だ。
「もしや君は、フェロモンのような物を分泌して、自他のホルモンを操作できる……のか?」
「そう……なのでしょうか?」
「うぅむ……ますます興味深くなって来た……。」
「???」
セレアとしては、何が興味深いのか分からない。
泡姫専用の大浴場で、後輩全員を労い洗う。仲良くみんなで湯船に浸かり、肩を寄せ合って歌を歌い、悩みや幸せを共有する。
そんなありふれた日常の中で、軽く念じる。
本能と直感に任せて目を閉じると、事は済む。すぐには効果が分からないが、なんとなく効いていると分かる。――その程度の事だ。何も特異な点は無い。
「次の部位を触っても?」
「はい……臀部も……どうぞ……んっ💕」
膝裏を撫でる領主の指が、太腿の裏筋に沿って浮上する。肌をくすぐる感触が仙骨まで昇り切った時、その爽快感だけでオーガズムに達しかけた。
(お尻……触られてる……///)
足よりも格段に、内臓へと接近される感覚。
領主の指が骨盤を触診し、「子を孕むカラダ」として自分を見定める興奮。
二重のスリルが下腹を満たし、身震いする――。
「その……いかがですか……?」
「形が良いな。」
「まぁ……///」
「赤子がしがみ付き、膂力を鍛えるのにちょうど良い。
大きさも柔らかさも形も、全てが最適だ。 足と同様に筋肉と骨盤と脂肪が、見事に噛み合って背部に出ている。 出産育児共に理想的だね。」
「それはそれは……たいへんな好評ですわ……///」
常日頃、密かに美点と自負している部分を悉く褒めちぎられる。これは嬉しい。ニヤけて止まらなくなる。
魅力が伝わり、認められ、思われたい印象を持たれている。これを相性と言うのだろう、とセレアは思った。
「さっきの話の続きだが……君は自身を健康優良児と言った。 非礼を承知でお聞きするが、何か感染症に罹ったことは?」
「それが……思い出す限り一度もありません。」
「本当に、一度も?」
「疲労で体調を崩した事はありますが、それも15年ほど前が最後です。」
「…………ますます興味深い。
たしか、性感染症には完全耐性が有るんだったね?」
「はい。 あぁ、ご安心ください。
月一回、ちゃんと検査は受けていますので……♡」
「あぁうん、まぁそれは結構なのだが。」
不衛生に偏った話題を掻き消すように、清楚な愛嬌を込めた笑みを振り撒くセレア。
しかし、領主はあまり関心が無いようだ。
娼館の検診はもちろん、自己負担や献血など折を見て頻繁に検査している。
高級娼婦なので不潔な仕事が回って来ない、というのもあるが、過去20年の性生活で陽性が一度も無いのは密かに自慢に思っていた。
「多方面での君の凄さは……どうにも、淫魔の血脈だけでは説明が付かんね。」
「ンフフ♡ 淫魔の中でもスタイルは良い方ですので……///」
「あぁうむ、それもあるのだが。 ここでの問題は体質だ。」
「体質……ですか?」
セレアはてっきり、足と尻を見た感想として、淫魔の中でも優れていると賛美されると思っていた。
だが、領主の分析は全く違う方向性であり――。
「性感染症への強さと、ホルモンの調整。
一見すると器用に成長した淫魔として、ありふれた体質にしか思えない。」
「はい。」
「だが、これが……全ての病原体への完全耐性と自他問わず人型種のホルモン調整能力が備わっているなら……かなり、話は変わって来る。」
「…………と、言いますと?」
「君は……バイオレット家のご令嬢だね?」
「っ。……はい。」
種違いの兄弟姉妹の最期が、頭痛として脳裏をかすめた。
鮮血と炎、暴力の嵐が吹き荒れ、日常を破壊した日の幻が、一瞬よぎって消える。クーデターの記憶だ。
血の海に自ら潜って死んだフリをし、やり過ごした、あの日。
捕縛された姉が裸に剥かれ、目前で凄惨なレイプを受け、何処かに連れ去られて行く光景。
どんな女性だったのか、仲が良かったのかすら思い出せないが、一等星のごとき美貌が恐怖と絶望で歪められた様だけは、今も鮮明に覚えている。
去り際に、泡立つピンクの液体を、ふんだんに注射されていた。
苦しそうに悶えた後、瞳の光がトロンとして、これまでが嘘のように幸せそうに笑う。それが、最後に見た姿。
姉妹は皆、今も消息が一切不明だ。
きっと、皆が同じ末路を辿った。それは確信できる。
――大丈夫だ、と言い聞かせ、平静を保つ。
「…………いや、まさか。」
「???」
「やはり、何でもない。」
「どういう事です?」
「Vにも耐性が有るなんて……流石にそれは有り得ないか……。」
「ぶい?」
「いや、何でもない。 忘れてくれたまえ。」
忘れろ、と言われると気になる。
バイオレット家の令嬢だから、一体なんだと言うのか。その真意を聞きたい、と前のめりになる。
だが、そんな好奇心も、領主が見せた次のステップにより、白紙へと返されてしまう。
「それでは……その……次だ……。」
「っ。…………はぃ///」
セレアは目を背け、首を振り、か細く了承した。
頬は赤らみ動悸は加速する。
残る触診は性器と哺乳器、あるいは繁殖器だけ。女性特有のデリケートな部分を、いよいよ差し出すのだ。
(領主様……意外と奥手……。)
口ごもる様子に、ヴィルの面影を感じる。
羞恥とは違う、これは遠慮だ。女性への思いやりから来る、紳士的な配慮。
(なら……私から誘わないと……。)
――セレアの心に、小悪魔の囁きが宿る。
淫魔としての本分をカラダが理解するように、全身の緊張が一斉に解れて行く。
「それでは……心ゆくまで、ご堪能ください……♡」
腕を開き、膝を開き、体全体を開き切る。
警戒を完全に解き、食べられるのを座して待つ姿勢。
獲物として殊勝な心と、食べ頃に熟れた豊満な裸を、無防備にアピールする。
領主の手が、カラダに伸びる。
セレアは微かに唾を飲み、その侵食を受け入れた――。
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