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第一区画

64. フラグの回収 ※一部第三者視点

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 俺と桃乃はの前に立っている。

「やっぱりここに来ると入りづらいですよね」

「ああ、穴に入ったのにまた穴に入るんだもんな」

 俺と桃乃は外から穴の中を覗いていた。何が起こるのかわからない穴に入るのは勇気がいる。

「ただの穴なら良いんだがな……」

「それってフラグってやつですよね?」

「おっ、そうなんか?」

「きっとそうですよ。この間から勉強のためにラノベを読むようにしたんですけど、大体フラグ立てたやつは死んで――」
 
「俺を見るなよ」

 どうやら俺は死のフラグを立てたらしい。

「きっと冗談ですよね?」

「……」

「えっ、なんで先輩黙るんですか!?」

「今、一生懸命死のフラグを折ってきた」

 俺は頭の中でフラグを必死に折ってきた。そもそも、死のフラグが何かは分かっていないが、名前からして旗なんだろう。

「先輩、フラグって旗の意味でもあるけど、プログラミングで条件分岐などに使われる変数を意味する単語ですよ?」

 頭が良い桃乃はたまに俺の知らない言葉を話す。条件分岐で変数ってもはや呪文にしか聞こえない。

「それってどうやって折るんだ? パソコンを折ればいいのか?」

 とりあえず俺はパソコンを折る妄想をしてきた。やらないよりはやるべきだろう。ついでに部長のパソコンも俺の頭では真っ二つだ。

「よし、中に入ろうか」

 覚悟を決めた俺達は穴の中に足を踏み入れた。

「先輩って結構天然なんですね」

 桃乃は俺の後を付いてきながらクスクスと笑っていた。





 中は穴だから暗いと思っていたが、壁に松明もあり明るくなっていた。初めて異世界に来た時と雰囲気が似ている。

「なんか嫌な予感がするな」

「先輩またフラグ立ててますよ」

 もうフラグどうこうじゃなくて、体は何か危険信号を感じている。

 そんな時脳内に声が聞こえてきた。

【パパパパーン! 異世界ダンジョンにようこそー! 今日の敵はこの方です】

 普段よりテンションが高く子供のような声で語りかけてくる声に俺はびっくりした。

 隣では桃乃も同じような反応をしていた。そもそもいつもの人物とは違う人なんだろうか。

――ブオン!

 突然音ともに目の前に出されたのは、キラーアントの画像だった。しかし、俺が知っているキラーアントとはどこかが違う。

 俺がさっき見たのは腹部が大きくなったキラーアント。桃乃が見たって言っていたのは全体的に細くなったキラーアントだった。

「これって違う種類なのか?」

 俺の言葉に反応してなのか、また声が聞こえてきた。

【敵の種類はクイーンキラーアントです。体長3mと大型の魔物です】

 とりあえず、普通のキラーアントではないことがわかった。

 見た目はデカイだけではなく、体の至る所が尖っている。

【それでは異世界ダンジョン"豊満な殺戮"スタートです!】

 ダンジョン名からして物騒極まりない。俺はやはりフラグを立てていたのだろう。

 桃乃も同じことを思ったのか、すぐ声を掛けてきた。

「異世界ダンジョンってなんですか!?」

 桃乃はあたふたとしている。それは俺も聞きたいところだ。

 異世界にまたダンジョンがあるとは思いもしなかった。





 女はいつものようにモニター越しで彼らの様子をうかがっていた。

「あれ、キラーアントの姿が見えないわね」

 モニターを切り替えても討伐対象であるキラーアントの姿が見えない。

「あー、あいつらいつのまにか群れを作っていたのね」

 何度もモニターを切り替えると、スノーノイズとともにキラーアントが少しずつ姿を現した。

「ちょ、これってまさか最悪なパターンだわ」

 女がモニターに飛びつくと、さらにスノーノイズは激しくなる。

 何を思ったのか急いで本棚から大きな図鑑を取り出し机の上に広げた。

 そこには"魔物大図鑑"と書いてある。

「やっぱりこのキラーアント進化してるわ」

 その図鑑にはキラーアントの進化後、"ハイキラーアント"と書かれていた。

 ハイキラーアントはキラーアントの進化した姿だ。

 体の一部が異様に変化し腹部が膨らめば鈍足になるが酸を吐き出す遠距離タイプになり、体全体が細くなれば素早い近距離タイプになると図鑑にも書いてある。

 女は図鑑を読んでいるとモニターを見過ごしていた。自分とは違う存在がお気に入りのあの子らに手を出そうとしていたことを……。

「この変化ってまさか……あああああ」

 モニターの中の人物が穴に入った瞬間、女はまたモニターに掴みかかる。必死にモニターを叩いてもノイズが酷くなるだけ。

 急いでマイクの電源を入れても反応はない。女の声はモニターに映るあの子らには届かなかった。

「あー、権限が奪われたわ!」

 女は諦めたのかその場から立ち去り、カップに紅茶を入れて戻ってきた。

「もう見守るしかないわね」

 どうやら女はそのままモニター越しに彼らを見守ることしかできないようだ。

「それにしてもここの紅茶美味しいわね。今度お菓子に使ってみようかしら。きっとあの子らなら美味しく食べてくれるわね」

 モニターの中に映る男と女は大きな蟻の大群に追いかけられていた。
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