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第二区画

149.適性装備

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 集落はそこまで大きくないが、笹寺は建物の中に入ったようで中々見つけられないでいた。

「あいつどこに……」

「おっ、すげー!」

 奥の方でゴソゴソと音が鳴っていると思ったら、笹寺は鍛治工房で何かをやっていた。

「誠、さっきは――」

「おい、これ見てみろよ!」

 笹寺は急に棒状の何かを投げつけてきた。俺が咄嗟に受け取ると、そこには鉄の塊があった。

「なんだ……」

 俺はさっき桃乃に言われたことを思い出す。いくら同期で仲が良いからと言って、言葉を選択しないと笹寺を傷つけてしまう。

「んー、すごい棒だな」

 出てきた言葉はこれしかなかったのだ。だって渡されたものは、ただの鉄パイプ・・・・だ。

「お前って語彙力ないな」
 
「なっ!?」

 笹寺は何事もなかったように笑っていた。どうやら心配した俺が馬鹿だったようだ。

 ってか脳筋バカに語彙力がないと言われ、若干この鉄パイプで背後から襲いたくなる。

「それにしてもなんで鉄パイプなんだ?」

「あー、今持ってるやつってその辺にあった材料を使ったんだ」

 笹寺は鉄パイプを掴むと何かスキルを発動させた。鉄パイプは突然ぐにゃりと形が変わると、次第に球体に変化する。

「中々便利なスキルだな」

「んー、それでも剣とか盾にはならないんだ」

 また形を変えようとするが、剣を作ろうとすると歪な剣になり、盾に関しては大きな鍋の蓋が出来てしまう。

「ちょっと貸してくれ」

 俺は鍋の蓋を受け取ると意外に重く、鉄パイプの時と比べて重さが増したように感じた。

 どうやら盾は振り回すのには適していないようだ。

「これだと使い物にならないよな?」

 だが、笹寺が持つと軽々しく持ち上げていた。

「一回スコップを作って貰えないか?」

 俺は笹寺にスコップを作るように頼むと、形状的に簡単なのかすぐにごく普通のスコップが完成した。

 その辺に売っているスコップよりは見た目は良くないが、スコップと識別できるほどだ。ただ、持ち手が真っ直ぐになっている。

 俺はスコップを受け取ると、さっきの盾とは比べようがないほど軽かった。

 風を切るように大きく振り回しても普段使っているスコップと変わりなく、上下左右ともに特に振りにくいことはない。

 むしろ一般のスコップは振り回すものではないため、少し使いやすい気がする。

「反対にちょっとこれを持って装備できるか確認してくれないか?」

 俺は自身が使ってるスコップと魔刀の鋸を渡し、装備できるか確認してもらう。

 反応から見て、俺の思惑通りどちらになっているのだろう。

「やっぱりお前便利だな」

「ああ、力になれるんならよかった」

 笹寺はスコップと魔刀の鋸を装備できていた。俺が剣や盾もどきを持った時に重く感じたのは、単にステータスの問題ではなく、適性装備かどうかってことだ。

 鉄の形を変えても重さが変化しないのは、その影響が大きい。

 そもそも鍛治スキルだけでも便利なのに、笹寺自体に戦いの才能があるのだろう。

 ちなみに俺が重く感じたのは杖のような形だった。鉄パイプから形を変えて杖ぽくすると、さらに重く感じて扱えなくなる。

 俺が杖を装備できないのはこういう理由だ。

 笹寺が手に入れたのは素材を自在に操る鍛治スキルと、どんな武器でも装備できる能力だった。

 魔法が使えなくても充分チート系のスキルだと俺は思っている。

 しばらくは戦い方や笹寺の身体能力を考えて、近接特化型のオールラウンダーとして戦いに参加することになった。

 ヘイトは集めることができないが鍋の蓋でタンクとして敵の攻撃を防いだり、足の速さを生かしながら、物理攻撃でスピード特化型の戦い方もできるだろう。

 実際に地面でどれくらいの威力が出るか確認した。すると鉄パイプで殴るよりも、メリケンサックのような拳に何かを装備する形の方が威力は強かった。

 あれ……?

 投資額も多いはずなのに、特殊な戦い方しかできない自分に泣いてしまいそうだ。

「先輩達仲直りしましたか?」

 俺達が話し合っていると、桃乃が心配して見にきた。

「ああ、誠のスキルが結構便利……有能でその話で盛り上がってたぞ」

 桃乃はまだ気にしているようで、便利と言った瞬間に眉間に皺を寄せ凝視してきた。咄嗟に言い換えると、普段の桃乃に戻っている。

「ならよかったですね」

「ももちゃんってあんなに迫力あったけ?」

 俺の耳元で笹寺が話しかけてきたが俺は無視することにした。目の前にいる母親のような桃乃の眉が、一瞬ピクリと動いたのだ。

 異世界に行く前の弱々しかった桃乃はどこに行ったのだろう。

「次はオークジェネラルを倒せってクエストだったよな?」

 俺はすぐに今回のクエストについて話すことにした。オークジェネラルということは、オークの指揮官のことを言うのだろう。

「もう囮は嫌ですよ?」

「そのようなことはもう致しません」

 桃乃の圧に俺はすぐに頭を下げた。たしかに前回は俺もやりすぎたと思っている。

 気持ち悪い男が下半身露出した状態で追いかけられるとかトラウマになるレベルだろう。しかも、息子を大きくして襲ってくるのだ。

 男の俺でも股間を蹴り上げたくなる。

「今回は正攻法で行く予定だ。笹寺が増えたから少しは戦力になるだろう」

「その正攻法とは?」

「あー、えーっと……正面突破?」

 俺の言葉を聞いて桃乃はがっくりとしていた。アイデアとは中々すぐに出てくるもんではない。

 正攻法といえば正面突破だ!

「正面突破っていいんじゃないか? 俺の強さも確認できるし――」

「貴方達は馬鹿ですか?」

「えっ?」

 俺は桃乃の言葉に戸惑ってしまう。あの頃の可愛い桃乃はもういない。

「オークの原型が豚だとすると、知能はチンパンジー並みに高いので人間よりは高い可能性があるんですよ。きっとお二人よりは賢いでしょう」

「えっ?」

「ちなみにあの体のほとんどは筋肉で体脂肪率が15%程度ってこと知ってますか? 時速40kmで走れるので、秒速で計算すると100mを約9秒で走る存在に正面突破でどうにかなると思いますか?」

「……」

 豚に似ていると思ったが、そこまで考えていなかった。だが、桃乃の言っていることは一理あるだろう。

 コボルトも見た目はただの犬って鑑定結果が出るぐらいだ。

「それでも正面突破でいきますか? しかも、今回はあのオークの指揮官ってなると、さらに頭も体つきも上位になると――」

「すみませんでしたー!」

 俺達は桃乃の圧に負けて頭を下げた。先輩として情けないが桃乃の圧力が怖い。

 今も胸の前で手を組んで怒っている。

 きっと桃乃が上司になったら、色んな意味で上手く会社が回るのだろう。

「わかって貰えたなら大丈夫です。じゃあ、まずはドワーフ達に会いに行って情報を集めましょうか。まだまだ教えないといけないこともありますしね?」

「はい!」

 俺達は桃乃が落ち着くまで桃乃の言う通りに従うことにした。その後もドワーフがいる集落に着くまで、桃乃による豚の生態講習は続いた。
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