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ストーカーライフ

18. 敵は一人じゃない

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 今日も俺は彼女達の後ろを追いかけている。

 そろそろストーカーも板について来たと自負している。

「クロウくん!」

「……」

 あれから街の依頼に明け暮れていると、いつのまにか街を歩いていると声をかけられることが増えてきた。

 これじゃあ必死に隠れているのにバレてしまう。

 ああ、これはダメなやつだ。

 俺は声がする方を見るとそこには女性がいた。

「あはは! そんなに照れちゃって!」

 別に照れているわけではない。

 単純に急に話しかけられても言葉が出てこないのだ。

「私みたいな未亡人のおばさん誰も興味ないってね!」

「……」

 声をかけてくるのはなぜか女性が多かった。

 そもそも街の依頼自体が人手が欲しいか男手が足りない人の依頼が多いのだ。

 内容的には重い家具を運んで欲しいとか高いところの掃除を手伝って欲しいなどが主な依頼になっている。

 どちらも付与術を使えば俺じゃなくてもできることだ。

「エンチャント"精神耐性"強化」

 俺は精神耐性を付与した。これを付与しておかないと女性とはまだ話せないのだ。

「やはりあなたみたいな人と結婚――」

 気づいたらなぜか女性は顔を赤く染めて私の胸に手を当てていた。

 なぜこんな展開になっているのだ?

 全くもって女性という生き物がわからない。

 そして急に触れられると俺は死んでしまう。

「エンチャント"速度強化"」

 俺は急いで付与魔法をかけてその場を離れた。このままでは俺の心が持たないのだ。

 すでに心臓の鼓動は早すぎて手で触れても感じ取れないほどだ。

「あの寡黙で恋愛慣れしてないところが素敵なのよね」

「あら、あなたもクロウ推しなのかしら」

「ええ、無口で優しいところがいいわ」

「私もよ」

 なぜか背中には熱い視線が集まっていた。




「ボス! そんなに急いでどうしました?」

 急いで逃げてきた俺は森に向かった。今あの街にいると何か色々なものを失いそうな気がするのだ。

 コボルトほどではないが俺も人間が嫌いになりそうだ。

「あいつら恐ろしいな」

「ボスでも怖いものがあるんですね」

「ああ、これでも苦手なものばかりだ」

「そんな時は拙者が胸を貸しますよ」

 コボルトは手を大きく広げていた。あれからやけに俺に胸を貸そうとする。

 その胸には胸毛がたくさん生えているのを知っているからな。

「いや、それは大丈夫」

「ぐすん」

 なぜかコボルトは穴を掘っていた。コボルトの習性なんだろうか。

 犬って穴を掘るのが好きだからな。

「やっと装備が揃ったわね」

「武器もそのまま使えるからよかったわ」

「それはあたいも驚いたよ」

 そんな中聞き慣れた声が聞こえてきて。声がする方に目を向けるとやはり彼女達がいた。

 そういえば俺は彼女達を追っていた。

 朝からゴブリンの討伐に行くと話をしていたのだ。

 それが街にいる女性に声をかけられ目的を忘れていた。

「おい、静かにしろ!」

 俺は隠れるようにコボルトが掘った穴に入る。

 ここでバレたらストーカーしていたのがバレてしまう。

「ボス、やっぱり拙者の胸毛が生えた胸を貸して欲しかったんですね」

「ああ、だから静かにしてくれ」

 俺は彼女達の様子を見るために穴から顔を出す。だがコボルトの毛が邪魔で彼女達の姿が見えにくいのだ。

「最近他のコボルトを見かけても近くに寄ってくれないんです。拙者のどこが悪いんですか?」

「おい、毛が邪魔だ」

「最高級のコボルトの毛ですよ?」

「ああ、早く退かしてくれ」

 俺はコボルトの毛をかき分けるとなんとか彼女達の姿をみつけた。

 それでもチラチラと胸毛が邪魔をしてくる。

「よし、追いかけるぞ」

 穴から飛び出た俺は彼女達を追いかけようと振り返るとコボルトは穴の中で何かしていた。

「んー、抜けない! 拙者の毛は剛毛――」

「おい、何やってんだ?」

「ボス! 毛が中々抜けないんですよ!」

 コボルトはなぜ毛を抜こうとしていた。

 そういえば最近気温も高くなってきているから暑かったのだろう。

 確かに穴の中は気温が低かった。コボルトは暑さ対策のために穴を掘っていたのだ。

「あー、わかったわかった!」

「エンチャント"状態異常"脱毛症」

 最近聞いた毛が抜けやすくなる病気をコボルトに付与しておいた。

 これでやつも涼しくなるだろう。

「あっ、ボス抜けました!」

 コボルトは頭を掻くと綺麗に円型に毛が抜けていた。

「おっ、涼しそうでよかったな。じゃあ先に行くぞ!」

 俺は彼女達の後ろを見つからないように追いかける。

「はにゃ? 涼しそう? ボスは短毛種の方が好きなのか? あっ、拙者を置いていかないでくださいよー!」

 その後ろをコボルトが追いかけてきた。風に乗って抜ける毛はどこか白く輝いていた。
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