弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ

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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち

7、ドラゴンの塔

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「ここが勝負の場所か?」
「そうだ」

 地図に示された場所に着いて馬車を降りる。周囲を見渡すも何もない荒野。の真ん中にポツンと佇む大きな塔。
 どう考えてもここが目的の場所、勝負場所なのだろう。
 一体周囲何メートルあるのか、と目を見張るほどの太く大きい塔。高さも何階まであるのか、てっぺんは雲がかかっていて見えない。頂上に行くまでに何年かかるんだとか思ってしまう。
 俺の問いにホッポが頷くのを確認してから、もう一度塔を見上げた。首、痛くなるなこの高さは。
 太陽の眩しさに目を細めていると、横で「なんで……」と呟く声が聞こえた。

「ライド?」

 どうした? と振り返れば、戸惑った顔で塔を見上げてるライドがいた。
 だがライドに俺の声は届いてないらしく、奴は慌ててホッポを振り返った。

「おいホッポ、これは……この塔は、あの時の……!」
「そう、ドラゴンの塔だ」

 え、と思ってもう一度塔を見上げる。
 塔は立派に立ってはいるが、外壁の文様はかなり崩れている。だが確かにドラゴンが彫られてるのが見て取れた。

「ここが? お前らの因縁の場所?」

 こんな、荒野にポツンとの塔だったのか?
 そんな俺の沈黙の問いが聞こえたのだろう、ホッポはふふんと鼻で笑って頷いた。

「俺らが挑戦したときはここいら一体木が生い茂って森だったんだけどな。近年の酷い干ばつであっという間に砂漠化しちまった。おかげでこんなに目立つ。もうお宝はないかもな」
「じゃあ一体なんのための勝負だよ」
「見ろ、上を。最上階が見えないだろ? この塔はな、最上階に辿り着けないと言われてるんだ」
「お宝はないんだろ?」
「それはあくまで人が到達できる範囲。平凡な冒険者どもが行くレベルの話。だが俺は違う、かつての俺とは違う。俺は勇者だ。ならば最上階を目指してもおかしくなかろう?」
「他の勇者が来てないって保障は?」
「無職のお前は知らんだろうが、勇者職には独自のコミュニティがあるんだよ。そこで様々な情報を交換してる。かなり特別な情報をな。そこでこの塔について聞いたが、誰も知らなかった。だから俺が挑戦する旨を名乗り出たから、俺からの申告がないかぎり、少なくとも他の勇者職のやつらは来ない」

 ただし平凡な冒険者は来るかもな、とはホッポ。

「どうせ大したことない冒険者に最上階は到達できない。到達できたとしても命を落とすだけさ」
「どうしてわかる?」
「わかるさ。だって俺はそこで背に傷を受けたんだから」

 どういうことだと首を傾げれば、ライドも首をひねっている。

「俺はあの時、逃げた。突然現れたドラゴンから逃げて……もちろんライドも付いて来てると思ってた。だって俺らは仲間だから」

 まさか真逆方向に逃げてると思わなかったホッポは、塔の上に向かって逃げたらしい。
 いや、それ逃げるっていうのか? なぜ敵地である塔の奥に入り込むんだよ。どう考えてもお前が無謀なだけだろ。
 という俺の声はホッポには届かない。

「俺は上った。どんどん階段を駆け上がって……そして窓の外に雲が見えた」
「息が苦しそうだな」
「そう、それよ!」

 俺のツッコミに、ビシッと指をさしてくるホッポ。人に指をさすんじゃねえよ。

「一気に駆け上がったせいで苦しくなってよお。ドラゴンは居なくなったが、息苦しくて意識が朦朧……気付けば俺の目の前にドラゴン」
「いきなりだなおい」
「ホント、いきなりだよな。多分意識が飛んでんだろうけど。でもって慌てて逃げようとした俺の背にズバッとドラゴンの爪が食い込んだってわけよ」
「それは最初に出くわしたドラゴンだったのか?」
「いんや。最初のは真っ黒なブラックドラゴンだったが、あれはきんだった」
「金……」
「そう、黄金だ。ゴールドドラゴン。この世界最強とうたわれるドラゴン」
「そんなものがこの塔に?」

 何で黙ってたんだよと視線で非難するも、ホッポは軽く肩をすくめてはぐらかす。
 疑うわけではない、だが信じるわけでもない。
 ゴールドドラゴンは他のブラックやホワイトと違って、伝説に残るだけでその姿が確認されたことはないのだ。
 出てくるのは伝承の世界だけ。絵物語の世界だ。
 そんな存在が不確かなものが、こんなところに?

「この塔を制覇した者はいない。俺らの勝負に相応しいと思わないか?」
「思わねえよ。ドラゴン出たらどうすんだ」
「そりゃ俺が倒すだけのこと」

 簡単に言ってくれるねえ。

「俺はもうあの頃の俺とは違う。ライド、たとえお前みたいに仲間に見捨てられたとしても、もう俺は大怪我を負うことはないさ。ドラゴンを返り討ちにしてみせる」
「かもな」

 出来ると信じてるのだろうか。それとも相手に合わせてるだけだろうか。
 わからないがライドは頷いた。
 それが合図。勝負のスタートの合図となる。

「じゃあ始めるか。塔の入り口は二つ。今目の前にある、かつて俺らが入った箇所と、正反対の向こう側と。ライド、お前どっちがいい? 俺は寛大だからな、お前に選ばせてやる」
「どちらでも」
「じゃあこっちから入れ。入ってかつて俺を見捨てたあの日のことをジックリと思い出すがいいさ」

 そう言って、鎧をガチャガチャ言わせてホッポは反対側に回るべく歩き出した。

「そいじゃライド、またあとでね~」

 ウィンクしてエヴィアがそれに付いて行く。

「生きてるお前らを見るのはこれが最後かもな」

 余計なひと言を残していくのは、盗賊ザジズ。

「さっさと終わらせてお風呂はいりたーい」

 伸びをしてセハも歩いて行った。
 四人が見えなくなるまでその背を見送ってから、ようやく見えなくなったところで塔に向き直った。
 そして俺は「よし、帰るか」と回れ右するのであった。

「いや帰んなよ!」

 ライドのツッコミが入る。

「だってこんなでかい塔、明らかになんかいるだろ」
「だからって帰るなよ! 勝負に付き合ってくれるんじゃないのかよ!」
「めんどくさい」

 俺の根本、それだから。

「めんど……ち、わかったよ。無事に戻れたら、一週間飯当番代わってやる」
「徒歩だと次の村までどれくらいだろ」
「わかったわかった、風呂掃除当番も代わってやる!」
「っしゃあ、行くぞライド、目指すは塔のてっぺんだあ!」
「俺、お前のそういうとこ大好きだわ」

 男に好きと言われても全然嬉しくないな。
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