彼に30歳の誕生日に捨てられた平凡OLですが人気俳優の絶倫ダーリンに溺愛されています

人妻あず。

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「……じゃあ、俺としてみる?」

 一瞬、意味を理解するのに時間がかかった。
 だって――嘘みたいだから。

 目の前にいるのは、元特撮ヒーロー。
 今でも雑誌にドラマに引っ張りだこの国民的イケメン、佐伯 蓮(さえき・れん)。

 その佐伯蓮が、私だけを見つめて、セックスをしようと言っているのだ。

 胸の奥が、どくん、と大きく跳ねる。
 婚約破棄されたばかりの私には断る理由はない。

 「……う、うん」

 自分でも驚くほど素直に、私は頷いていた。
 憧れの存在だった人が、こんな距離で、こんな目で私を見ている。

 ――少し、怖い。
 でも、それ以上に。

 私は小さく息を吸い込み、覚悟を決める。
 佐伯蓮という“現実”に、触れてみたいと思ってしまったのだから。
 
 
 なんで、こんなことになってしまったんだろう。
 ――話は、少しさかのぼる。

 私は鈴木円(すずき・まどか)、都内にある従業員五十人ほどの中小企業で事務員をしている、ごく普通のOLだ。
 派手でもなければ特別な才能があるわけでもない。毎朝満員電車に揺られ、定時になればパソコンを落とし、週末は溜まった洗濯物を片付ける。そんな、どこにでもいる人生。

 新卒で入社したとき、同じ研修班だった営業の新井翔太(あらい・しょうた)と付き合い始めたのは、もう七年も前になる。
 不器用だけど真面目で、数字に追われて疲れた顔をしながらも「円がいるから頑張れる」なんて言う人だった。

 転職もせず、浮ついた噂もなく、セックスが淡泊だったり記念日を忘れることはあっても、誕生日には必ずケーキを買ってきてくれた。
 だから私は、疑いもしなかったのだ。

 ――この人と、このまま結婚するんだろうな、と。

 二十代後半になってからは、結婚式場の広告や友人の入籍報告を見るたびに、少しだけ胸がざわついたけれど、焦らなかった。
 七年も一緒にいるのだから、わざわざ言葉にしなくても、同じ未来を見ていると思っていた。

  そして迎えた、私の三十歳の誕生日。

 翔太が予約してくれたのは、駅から少し離れた路地裏にあるイタリアンレストランだった。
 白い外壁に小さなアイアン看板。ガラス越しに見える店内は、オレンジ色の照明に包まれていて、落ち着いた大人の空気をまとっている。

 扉を開けると、バジルとオリーブオイルの香りがふわりと鼻をくすぐった。
 木目のテーブルにキャンドルが置かれ、壁にはワインボトルがずらりと並んでいる。
 「記念日ですか?」と自然に聞いてくる店員の笑顔が、ここが“そういう場所”なのだと教えてくれた。

 ――ああ、やっぱり。
 今日は特別な日なんだ。

 私は胸の奥で、小さく期待していた。
 三十歳という節目。七年付き合った恋人。
 この雰囲気なら、きっと――。

 乾杯用のスパークリングワインが運ばれ、グラスの中で泡が静かにはじける。
 翔太は料理の説明に曖昧に頷きながら、どこか落ち着かない様子でグラスを指先で回していた。

 その表情が、少しだけ気になった。

 コースの前菜が下げられ、次の料理が来るまでの、ほんの短い沈黙。
 キャンドルの炎が揺れ、周囲のテーブルから楽しげな笑い声が聞こえてくる。

 そのときだった。

 翔太が、珍しく背筋を伸ばし、私をまっすぐ見た。

 「……円、大事な話がある。」

 私は、その言葉の続きを当然
「プロポーズ」だと、期待していた。

 けれど彼の口から出てきたのは、指輪でも未来の話でもなかった。

 「他に、好きな人ができた。……別れてくれ」

 一瞬、意味がわからなかった。
 言葉が頭に届く前に、世界から音が消えた気がした。

 続けて告げられたのは、さらに残酷な現実だった。
 相手は、新卒で入社してきた二十三歳の営業の女の子――
 三上 里奈(みかみ・りな)。

 何度か、社内ですれ違ったことがある。
 小柄で、華奢な体つき。肩口で揺れるサラサラの茶色い髪は、いつもきれいに整えられていて、照明を受けるたびに柔らかく光っていた。

 大きな目に長い睫毛。少し丸みのある頬。
 口角がきゅっと上がりやすくて、話しかけられるとすぐに笑う。
 その笑顔は無防備で、年上の男性から「守ってあげたい」と思われるタイプだと、一目でわかる可愛らしさだった。

 スーツ姿も、まだどこか制服を着ているみたいで。
 営業用のパンプスすら、背伸びして大人の世界に踏み込んでいる途中――そんな印象。

 私は思い出してしまう。
 コピー機の前で、先輩に囲まれて楽しそうに笑っていた姿。
 「三上さん、若いねえ」と言われて、照れたように肩をすくめていた横顔。

 ――ああ、そうか。
 翔太が惹かれたのは、こういう「守ってあげたくなるタイプ」だったんだ。
 視界が、ぐらりと揺れた。

 七年間、何だったの。
 私が一緒に過ごしてきた時間も、信じてきた未来も、全部。

 自分の男を見る目のなさ。
 三十歳になった瞬間に「フリー」になったという事実。
 もう「若さ」で許される年齢ではないという現実。

 頭の中が真っ白になり、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 ――私は、何も特別じゃない。
 なのに、当たり前だと思っていた人生まで、こんな形で奪われるなんて。

 その日、私は初めて、自分が底なしの絶望に落ちていく音を聞いた。

 そのあとのことはあまり覚えていない。


 気が付いたら、私は駅裏の雑居ビルの二階にある行きつけのバーに逃げ込んでいた。
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