彼に30歳の誕生日に捨てられた平凡OLですが人気俳優の絶倫ダーリンに溺愛されています

人妻あず。

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「まどか、あのあと結局どうだったの?」

 月曜日の朝。
 出社して席に着く間もなく、真理に腕をつかまれた。

「どうって……?」

「ほら、区役所勤務の人!!」

「ああ……」

 一瞬、頭の中を探ってから思い出す。
 正直に言えば――あの日の夜のことが、あまりにも濃すぎた。

 蓮の顔。
 声。
 熱。

 それに比べたら、婚活相手との会話なんて、すっかり遠い出来事だ。

「バーには行ったよ。でも、私が先に帰っちゃった」

「えー! もったいない!」 
 真理は本気で悔しそうな顔をする。 
「結構、優良物件っぽかったのに!」

「そうかな……」

 曖昧に笑ってごまかす。

「で、真理は? 研究職の人」

「うーん……」  
少し考えるように視線を上に向けてから、肩をすくめた。
 「やっぱり女慣れしてない感じだった。割り勘だったし」

「それ、真理的にはアウト?」

「ううん、別に」
  けろっとした顔で言う。 
「また会うよ。最低でも三回は会わないと、判断できないじゃん」

 相変わらずの行動力だ。

「さすが……」

「でしょ?」 
 真理は満足そうに笑った。

 私は曖昧に相槌を打ちながら、心の中でだけ、別の名前を思い浮かべていた。

 ――蓮。

 月曜の朝のオフィスと、あの夜の温度差が、まだうまく埋まらないままだった。

「はあああ……」

 隣のデスクから、やけに大きなため息が聞こえてきた。

「三上さん、どうしたの?」

 声をかけると、里奈は椅子に深くもたれかかって、こちらを見た。

「聞いてくださいよ、先輩~」 
 半泣きみたいな顔で言う。
 「佐伯蓮くんの舞台、来月あるんですけど……旦那が行くなって言うんです! ひどくないですか!?」

「舞台? お芝居の?」 
「そうです! 来月!」 
 勢いよく頷く。 
「せっかくクリスマス公演、チケット取れたのに!」

 拳をぎゅっと握りしめる里奈。

「出産したら、もう舞台なんて簡単に見に行けなくなるんですよ? なのに!」

「それは……確かに、タイミング悪いね」

「ですよね!?」  
ぐっと身を乗り出してくる。 
「旦那とは毎日会えるじゃないですか。でも、推しにはこの日しか会えないんですよ!?」

 力説する里奈を前に、私は思わず言葉に詰まった。

 ――佐伯蓮。

 その名前が、こんなふうに日常の雑談の中で出てくるたび、胸の奥が小さく揺れる。

 里奈はそんなことお構いなしに、まだ続ける。

「人生で何が大事かわかってないですよね、ほんと」

 (『来週から忙しくなる』ってこれのことだったの……)

「まどか、大丈夫?」
 真理が耳打ちする

 「え、何」

 「彼氏取られたうえに推しが大事とか言われてるよ?ムカつかない?」

 「ああ……」

 そんなこと、考えもしなかった。

 「もういいの、ほんとうに」

 真理がため息をつく。

「あんたいい子すぎ。いい人いたら紹介するから」

 私は曖昧に笑いながら、パソコンの画面に視線を戻した。


 昼過ぎから、なんとなく身体が重いとは感じていた。
 でもそれが、はっきりした不調だと自覚したのは、午後もだいぶ過ぎてからだった。
 頭がぼんやりして、熱がこもっている感じがする。

 総務課に行って体温計を借り、測ってみる。
 表示された数字は、三八・〇度。

 「……あ」

 思わず、小さく声が漏れた。

 「鈴木さん、今日は早退したら?」
 数値を見た課長が、すぐにそう言ってくれる。
 「インフルエンザも流行ってるし、無理しないで」

 その言葉に甘えて、定時を待たずに会社を出た。

 帰りの電車の揺れが、いつもより強く感じる。
 最寄り駅に着いてから、ドラッグストアに寄り、解熱剤とスポーツドリンクだけを買った。

 ――蓮の風邪、うつったのかな。

 そう思うと、不謹慎だとわかっているのに、胸の奥が少しだけあたたかくなる。
 たとえ菌でも、私と蓮をつないでいるものがある気がして。

 家に帰って靴を脱ぎ、リビングに入ったところで、ふと気づく。

 「……しまった」

 冷蔵庫を開けると、中はほとんど空っぽだった。
 この前のおじやで、使い切ってしまったままだ。

 今さら買い物に出る気力もない。
 立っているだけで、じわじわと熱が上がってくる。

 「まあ、いいか……」

 小さく呟いて、薬を飲む準備をする。
 今日はもう、寝てしまおう。

 そのとき、テーブルの上に置いたスマホが、ふっと光った。
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