彼に30歳の誕生日に捨てられた平凡OLですが人気俳優の絶倫ダーリンに溺愛されています

人妻あず。

文字の大きさ
28 / 40

28

しおりを挟む
「ちょっと、どうしたのその顔!」

 出社して席に着くなり、真理が覗き込んできた。

「顔……?」

 「目、真っ赤。どう見ても“一晩中泣きました”って顔してる」

 思わず視線を逸らす。
  どうして真理は、こういうところだけ無駄に勘が鋭いんだろう。

 昨日は、ほとんど眠れなかった。 
 泣いて、泣いて、目を閉じるたびに胸が苦しくなって。

「……別れちゃった」

 喉の奥に引っかかっていた言葉を、ようやく外に出す。
  声は思ったより小さかった。

 真理が、はっと目を見開く。

「ほら言ったでしょ。年下イケメンなんて、ろくなもんじゃないって!」
  勢いよく肩を叩かれる。
 「次、行こ!次! まどかは可愛いんだから、すぐいい人見つかるって!」

「……ありがとう」

 そう言って笑ったつもりだったけど、  自分でも分かるくらい、力のない笑顔だった。

 そのとき。

「先輩、会議室に……ちょっといいですか?」

 声をかけてきたのは里奈だった。 
 珍しく、冗談も愛想もない、やけに真剣な表情。

(何だろう。設定で分からないことでもあったのかな……)

 朝イチは会議が入っていたはずだ、と 頭の中でぼんやりスケジュールボードを思い浮かべながら、私は立ち上がった。

 会議室に入ると、会議のお茶や資料がまだそのままだった。

 ドアを閉める里奈

「先輩……」

 背後から、里奈の声がした。
 さっきまでの事務的な口調とは違う、抑えた低さ。

「週刊誌の、あれ……先輩ですよね……?」

 ゆっくり振り返ると、里奈は机の前に立っていた。
 表情は穏やかなのに、目だけが笑っていない。
 光のない、底を覗かせるような視線。

「あれは……」

 喉が詰まり、言葉が続かない。
 口だけが、情けなく開閉する。

「先輩ですよね、って聞いてるんですよ」

 声が、さらに低くなる。
 次の瞬間だった。
 里奈が一歩で距離を詰め、私の髪を掴む。
 抵抗する間もなく、ペットボトルの冷たい液体が頭から降りかかった。

「冷たっ……!」

 思わず声が漏れる。
 制服も髪も、一瞬で濡れて重くなる。
 怖い。
 息が詰まって、声が続かない。

「私にゴミみたいな男押し付けて」
 里奈の声が耳元で囁く。

「その裏で、蓮くんと繋がってたなんて……」

 投げ捨てられたペットボトルが、床を転がる音。
 次の瞬間、里奈の手が机の上に伸びる。

 ――ハサミ。
「……人を舐めるのも、いい加減にしたほうがいいですよ?」
 銀色の刃先が、ゆっくりと私の顔の前に近づく。

(刺される――)

 本能的に身を引いた瞬間、
 頬に、ひりっとした鋭い痛みが走った。

「っ……!」

 指で触れるとぬるりと温かい感触。

「逃げないでくださいよ」

 里奈は、楽しそうに笑った。
「ダッサイ先輩を、おしゃれにしてあげてるんですから」

 ザク、ザク、と音を立てて、髪が切り落とされていく。
 肩に、床に、黒い束が散っていくのが視界の端に映る。
 ふと里奈の視線が下に落ちた。

 ――胸元。

 そこにあるのは、蓮からもらったネックレス。

「……ヴァンクリ……」

 里奈の声が、ねっとりと絡みつく。

「これも……もらったんですね……」

 白いクローバーに、指先が触れる。

「やめて!」

 叫び声が、ようやく喉を突き破った。

「触らないで!誰か――!」

 必死の悲鳴が、会議室の壁にぶつかって消えていった。


ガチャリ、と乱暴にドアが開いた

「鈴木さん!? 三上さん!? 何をしてるんですか——!」

駆け込んできた課長が、血相を変えて私たちの間に割って入る。
 引き離そうと腕を伸ばすが、里奈は私の胸元を掴んだまま離さない。

「離しなさい!」

その瞬間——

——ブチっ。

乾いた、嫌な音がした。

宙に弧を描いて、白いクローバーが飛ぶ。

「……いやっ……!」

声にならない悲鳴が漏れ、私は床に落ちたそれに飛びついた。
 拾い上げたネックレスは、無惨にちぎれている。

——これだけだったのに。 
——私を支えていた、たった一つの証だったのに。

頭が真っ白になる。

「……うう……お腹……痛い……」

力が抜けたように、里奈が尻もちをつき、腹部を押さえてうずくまった。

「本田さん! 救急車呼んで!」
 課長の怒鳴り声に、入り口から覗き込んでいた真理がはっとして電話をかけに行く。
 課長は、壊れたネックレスを握りしめたまま座りこむ私を見て、言葉を失ったようだった。

「……鈴木さんも怪我してるじゃないか!」 
「今日は早退でいい、すぐ病院に行って!事情はあとで聞く!」

「……怪我……?」

 現実感のないまま、そっと頬に手を当てる。
 ぬるりとした感触。
 指先を見ると、真っ赤な血がべったりと付いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...