彼に30歳の誕生日に捨てられた平凡OLですが人気俳優の絶倫ダーリンに溺愛されています

人妻あず。

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愛梨さんは「まだ仕事が残ってるから」と言って、サロンに戻っていった。

 私は一人、表参道の通りに出る。

 昼下がりの街は人が多く、ショーウィンドウのガラスに冬の光が反射している

 さっきまで守られていた場所を出たせいか、少しだけ心細さが胸に広がった。

「……着替えとか、買わなきゃだよね」

 本当はアパートに戻って、自分の服を取りに行きたかった。

 けれど、それを口にした瞬間、愛梨さんに即座に止められた。
『待ち伏せとか、本当にあるから。油断しちゃダメ』

 その声が、今も頭に残っている。
(とりあえず……ユニクロでいいかな)

 目的地も決めないまま、駅の方へ歩き出す。

 人の流れに身を任せていると、前方に不自然な人だかりが見えた。
 立ち止まる人、スマホを構える人。
 どうやら、何かの撮影らしい。

(なにやってるんだろう)

 興味半分で、人の隙間からそっと覗く。
 ——その瞬間、息が止まった。

 そこにいたのは、蓮だった。
 雑誌か何かの撮影だろうか。

 一月だというのに、春先みたいな薄手の衣装で、スタッフの指示に応じてポーズを取っている。

(……蓮)

 無意識に名前を心の中で呼んでいた。

 薄く施されたメイク。
 カメラに向ける、感情を削ぎ落としたようなクールな表情。

(……かっこいい)

 さっきまで、同じベッドで眠っていた人とは思えない。
 遠くて、眩しくて、触れたら消えてしまいそうな存在。

 ——ああ、そうだった。
 この人は、こういう世界にいる人なんだ。

 「蓮くん!次目線右ね!」

 カメラマンの声で蓮が目線を変えた……ときにバチっと目が合った。
 驚いたように目を見開く蓮。

 次の瞬間、くしゃっと笑った。

 ——いつもの、蓮の笑顔だ。

 カシャ

 シャッター音がした。
「いいね蓮くん!今の表情もいいよ!」

 カメラマンの声が響く。
 私は小さく手を振り、駅に向かって歩き出した。


 「ふう……結構買ったな」
 
 トップス2着とスカートとパンツ一着ずつ、下着2セットとタイツに歯ブラシ。小さい化粧水。
 パジャマは蓮のスウェットを借りるとして、これで当面は大丈夫だろう。
 それから今日の食材と小さいケーキが2つ。
 蓮のカードは結局使わなかった。
 なんとなくそこまで甘えてしまうのが怖かった。

 マンションに荷物を運び込むと、同時にスマホが震えた

(蓮かな)

 着信の相手は、翔太だった。

(翔太……? 今さら、何の用だろう)

 通話ボタンを押す。

「もしもし」

『……もしもし、まどか。今、どこにいる?』

 受話器越しの声は、ひどく疲れ切っていた。

「どこって……?」

『家にも居ないじゃないか。どこ行ったんだよ』

背筋が、ゾクリとした。

『里奈が……入院したんだ』  
一拍置いて、続く。
 
『切迫早産で』

「……そう」
 なんてかそれだけ答えると、沈黙が落ちた。

『それでな……』 
 翔太は言葉を探すように、息を吸う。 

『今日、病院に警察が来た。事情聴取だ』

「……そう」
 胸の奥が、じわりと冷えていく。

『まどか……』  

声が、少しだけ低くなる。 

『被害届、取り下げてくれないか』

「……え?」
『あいつ、事情聴取だけでも相当ショック受けててさ……』 

『このままだと、精神的にもよくない』

 『お腹の子の母親が犯罪者になるなんて……』  

言い訳のように、言葉が重ねられる。 

『母さんにも、どう説明したらいいか……』

 唇を噛む。

「……里奈は、なんて言ってるの?」

『自分は悪くなかったって』 

 その一言で、心臓が跳ね上がった。

『なあ、まどか』  

急に、諭すような口調になる。 

『ちょっとした生き違いだろ?喧嘩両成敗っていうし里奈も悪いけどまどかにも原因あるんだろ?』 

『これ以上騒ぎ立てないでさ……まどかも恥かくよ』 

『大人になって、穏便に済ませようよ』

 ——私の中で、何かが静かに音を立てて崩れた。

「……もう、私に関わらないで」

『え?』 

 電話越しに、明らかに意外そうな声。

『まどかがそんなこと言うなんてさ。性格きつくなったな』 
『昔はもっと優しくて、周りを気遣える子だったのに』
 
 胸の奥が、ひやりと冷える。

『元恋人の頼みだろ? それくらい聞いてくれてもいいじゃん』 
『俺だって、追い詰められてるんだ』

 必死さを装った、その言葉に嫌悪感が募る。

『なあ……』  

 一拍置いて、声が甘くなる。

『俺のこと、本当は今でも好きだろ?今どこにいるんだよ』

 ぞわり、と全身に鳥肌が立った。
 これ以上、ひと言も聞きたくない。

(アパート、戻らなくてよかった……)
 
 私は何も答えず、通話を切った。
 直後から、スマホが何度も震える。  

 着信。着信。着信。
 
 全部、無視した。



(……蓮、早く帰ってきて)

 胸に渦巻く不快感と怖さを、どう処理していいかわからない。
  私はソファに座り込み、クッションを強く抱きしめた。
 クッションからも蓮の匂いがする。

 誰かに触れていないと、壊れてしまいそうだった。
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