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十一章 ワタル六日目
真実 ②
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彷徨うように、はっきりとしない足取りで、俺は村までの道を下っていた。
父さんは、もう少しだけこの場所で残りたいからと、墓場に留まった。
だから、俺は一人で村まで戻ることにしたけれど。
正直、全てを打ち明けられて、どう思えばいいのか、どうすればいいのか。それが、分からなかった。
知りたかったはずの答えなのに。
「……ワタルくん」
名前を呼ぶ声に、顔を上げると、そこにはカナエさんがいた。決して動きやすいとは言えない普段の服装で、この道を上って来たらしい。
「どうしてここに……」
カナエさんは目を丸くしているが、俺はその問いに答えることはせず、
「……父さんなら、墓地にいますよ」
「……お父さんは、お母さんのこと、話してた? 悲しそうな顔……してた?」
……ああ、この人はやっぱり、父さんのことが好きなんだな。
カナエさんの口振りから、俺はそれをとても当たり前のように感じ取れた。
「……行ってあげたらどうです。カナエさんも、話を聞くくらいはできるでしょうから……」
「……ええ」
カナエさんは一つ頷くと、俺の前をゆっくりと、通り過ぎていく。
そして、その姿が背後に回ってから、
「……ねえ、ワタルくん」
「はい?」
「あの人は……お父さんは、どこまで話したの? 全部……話したの?」
「……多分」
俺はぎこちなく微笑み、
「昔のことを聞いて。……村が買い取られるって聞いて。自由に生きろって、言われました」
「……」
俺の言葉に、カナエさんは悲しそうに表情を歪ませ、言った。
「ワタルくん。君は……君たちは、明日村を出なさい。できればそう……鴇祭が始まるまでに。そして、ふもとの村でカズヒトさんを待ちなさい。……そうすれば、きっとあの人は、後の面倒くらいは見てくれるでしょうから」
「……カナエさんは?」
俺が問うと、カナエさんは寂しげな笑みを浮べたあと、
「私は……どこへだって飛んでいけるわ」
そう言い残して、森の奥へと消えていった。
*
「……ああ。……だろうな。……でも、本当のことらしいんだ」
受話器の向こうで、返答が聞こえる。
「明日。何か発表とか、されるんじゃないかと思う」
慌てたような声。
「いや。……俺もそこまでは。……ああ。じゃあ、また」
そして、ガチャリと受話器を置く。
俺は電話で、ヒカルとクウに簡単な事情説明をした。
村がなくなるという話に、二人とも飛び上がらんばかりに驚いていた。それは当然だ。
思えば、この一週間で色々なことがあった。そして、その一週間で、全ては終わってしまう。
意外と落ち着いているように思えるかもしれない。だけど、これは気持ちにわずかの整理もついていないせいだ。ただただ事実を認識している、それだけ。心は振り回され、何一つ十分に理解できていないのだ。
やがて、時がきたら。
俺は思うままに、泣くことができるのだろうか。
「……はあ。さて、と」
俺はもう一度受話器を上げ、今度は真白家に電話をかける。
数度の接続音の後、ツバサの声が聞こえた。
『もしもし、真白です』
「ああ、ツバサ。俺だ」
『あ、ワタルくん。おはよう。……どうしたの?』
「いや、ちょっと……話があってさ。今日の昼頃から、会えないかなって」
『お昼から? うん、いいよ。あ、でも……お母さん、まだ調子悪いままだから、家事とか一通り終わったらでいいかな?』
カエデさんはまだ、治っていないのか。それを聞いて、少し胸が痛んだ。
「それでいいよ。何時ごろになりそう?」
『じゃあ、二時ごろで』
「了解。じゃ、川原の土管のある場所にしよう」
『はーい。それじゃ、またね』
「おう。……またな」
ツバサが切るのを確認してから、俺はゆっくりと受話器を下した。
「……どう思うかな、あいつは。村がなくなるなんて、聞いたら」
リビングで一人、俺は呟く。
ツバサの困り顔を、思い浮かべながら。
「どう思うんだろうな。……村から出ようなんて、言ったら」
父さんは、もう少しだけこの場所で残りたいからと、墓場に留まった。
だから、俺は一人で村まで戻ることにしたけれど。
正直、全てを打ち明けられて、どう思えばいいのか、どうすればいいのか。それが、分からなかった。
知りたかったはずの答えなのに。
「……ワタルくん」
名前を呼ぶ声に、顔を上げると、そこにはカナエさんがいた。決して動きやすいとは言えない普段の服装で、この道を上って来たらしい。
「どうしてここに……」
カナエさんは目を丸くしているが、俺はその問いに答えることはせず、
「……父さんなら、墓地にいますよ」
「……お父さんは、お母さんのこと、話してた? 悲しそうな顔……してた?」
……ああ、この人はやっぱり、父さんのことが好きなんだな。
カナエさんの口振りから、俺はそれをとても当たり前のように感じ取れた。
「……行ってあげたらどうです。カナエさんも、話を聞くくらいはできるでしょうから……」
「……ええ」
カナエさんは一つ頷くと、俺の前をゆっくりと、通り過ぎていく。
そして、その姿が背後に回ってから、
「……ねえ、ワタルくん」
「はい?」
「あの人は……お父さんは、どこまで話したの? 全部……話したの?」
「……多分」
俺はぎこちなく微笑み、
「昔のことを聞いて。……村が買い取られるって聞いて。自由に生きろって、言われました」
「……」
俺の言葉に、カナエさんは悲しそうに表情を歪ませ、言った。
「ワタルくん。君は……君たちは、明日村を出なさい。できればそう……鴇祭が始まるまでに。そして、ふもとの村でカズヒトさんを待ちなさい。……そうすれば、きっとあの人は、後の面倒くらいは見てくれるでしょうから」
「……カナエさんは?」
俺が問うと、カナエさんは寂しげな笑みを浮べたあと、
「私は……どこへだって飛んでいけるわ」
そう言い残して、森の奥へと消えていった。
*
「……ああ。……だろうな。……でも、本当のことらしいんだ」
受話器の向こうで、返答が聞こえる。
「明日。何か発表とか、されるんじゃないかと思う」
慌てたような声。
「いや。……俺もそこまでは。……ああ。じゃあ、また」
そして、ガチャリと受話器を置く。
俺は電話で、ヒカルとクウに簡単な事情説明をした。
村がなくなるという話に、二人とも飛び上がらんばかりに驚いていた。それは当然だ。
思えば、この一週間で色々なことがあった。そして、その一週間で、全ては終わってしまう。
意外と落ち着いているように思えるかもしれない。だけど、これは気持ちにわずかの整理もついていないせいだ。ただただ事実を認識している、それだけ。心は振り回され、何一つ十分に理解できていないのだ。
やがて、時がきたら。
俺は思うままに、泣くことができるのだろうか。
「……はあ。さて、と」
俺はもう一度受話器を上げ、今度は真白家に電話をかける。
数度の接続音の後、ツバサの声が聞こえた。
『もしもし、真白です』
「ああ、ツバサ。俺だ」
『あ、ワタルくん。おはよう。……どうしたの?』
「いや、ちょっと……話があってさ。今日の昼頃から、会えないかなって」
『お昼から? うん、いいよ。あ、でも……お母さん、まだ調子悪いままだから、家事とか一通り終わったらでいいかな?』
カエデさんはまだ、治っていないのか。それを聞いて、少し胸が痛んだ。
「それでいいよ。何時ごろになりそう?」
『じゃあ、二時ごろで』
「了解。じゃ、川原の土管のある場所にしよう」
『はーい。それじゃ、またね』
「おう。……またな」
ツバサが切るのを確認してから、俺はゆっくりと受話器を下した。
「……どう思うかな、あいつは。村がなくなるなんて、聞いたら」
リビングで一人、俺は呟く。
ツバサの困り顔を、思い浮かべながら。
「どう思うんだろうな。……村から出ようなんて、言ったら」
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