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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
二十八話 山口貴樹②
しおりを挟む『僕の本当の名前が力本発馬ってことは、気が付いていたんだろう? メディアはもちろん本名を伏せていたけど、町ではそこそこ噂になっていたから。ちょっと調べたら僕がその犯人ではないかということも、証拠はなくても予想できたはずだ。……あの頃の僕は、最低なガキだった。自分が世界で一番偉いんだって、本気で思っていた馬鹿だった。だから、僕は取り返しのつかない過ちを犯した。人一人……いや、一つの家族の明るい未来を奪ってしまったんだ』
幸せに満ちていたであろう河南家。ずっと続いていくはずだったその幸せを、彼は幼稚過ぎる動機によって呆気なく、奪い去ってしまった。
いや……それは動機とも呼べるものではないか。
『捕まって、閉じ込められて、両親からも見離されてから。僕は自分が如何に醜かったかということに気付いた。それはあまりにも遅すぎることで、もうどんなに自分を変えようとしても、その行いは無意味なように思われた。……でも、監獄の中で、一人の男の人が救いの手を差し伸べてくれたんだ。それが今の父さん……山口雄一だった。彼には息子がいたんだが、その息子も非行少年だったらしい。そんな息子の行いを恥じた母親が、ある日息子の部屋に火をつけ……そして、父さん一人が生き残ったんだとか』
「……なるほど。どういう理由でと思ってたが、山口さんは自分の息子とお前を重ね合わせていたのか」
ソウシは納得した、という風に頷く。
『僕は父さんに引き取られ、自分を変えようと決心した。父さんのためにでもあるし、自分自身のためでもあるし、何より……被害者である河南洋子さんのために。それから僕は、良き人間であろうと生きてきた。ずっとずっと、生きてきたんだ』
良き人間になるため、ひたすらに努力し続けたからこそ。彼は俺たちの友人になったわけだ。
秘めた過去が明らかになっても。それを簡単には信じられないわけだ。
『ある日僕は、偶然にもユリカちゃんと友だちになった。親しくなったサツキを通して知り合ったんだ。河南という名前で僕はすぐ気付いたよ、この子は僕が傷付けた人の子どもなんだと。……だから、僕はいつかユリカちゃんに真実を伝えて謝ろうと思った。僕が力本発馬なんだと打ち明けて、心から謝らなければと、そう思ったんだ。そして――良い機会がやって来たと、ハルナの誘いに乗った』
「……てっきり、お前は嫌々サツキに付いてきたんだとばかり思ってたが、そういうことだったんだな……」
『許してもらえるかは分からなくても、僕は今の気持ちを伝えたかったんだ。それはひょっとしたら、相手の心より自分の苦しみを軽くしたいというワガママだったのかもしれないけれど。こんな風に巡り会ったこと、無駄にはしたくなかったんだよ』
タカキの言葉は、心からのものだと自然に受け入れられた。
それは、彼の目と言葉がどこまでも真っ直ぐだったからだろう。
そこには嘘なんて、僅かもなかった。
『……だけど。僕は少しばかり思い違いをしていた。それが結果的に、自分自身を……いや、あいつまで巻き込んで破滅させることになってしまった。過去を乗り越えようとしていた僕は、その過去に呑み込まれることになってしまったんだ』
「……それって」
俺の中で、バラバラだったピースが繋ぎ合わさっていった。
けれど、形作られたその全体像は、とても救いのない真実で。
だから、あのときサツキは。
声を張り上げて怒り狂っていたのだ……。
『サツキは、僕の素性まで行き着いているわけじゃなかったけれど、最近の僕の態度を訝しんでいたようだった。それで夜遅く、僕を部屋に呼んで聞いてきたんだよ。隠し事があるんじゃないのか……ってね。食事の時の一件もあったから、素直に白状するかどうかは当然迷った。でも、ここで嘘を吐くようじゃ山口貴樹として胸を張れない。そう思って僕は、サツキに全てを告白したんだ。過去の罪も、これからしようとしてることも全部。……はは、サツキは烈火のごとく怒り狂ったよ。ミツヤが部屋にいたとしたら、壁越しに聞こえてたかもしれないな。僕は詰られ、叩かれ、そしてユリカちゃんに二度と近づくなと言われて。ただただ謝って、部屋を出るしかなかった』
盗み聞きしていたとはとても言えないが、あのやりとりにはそういう経緯があったのだ。
そして、彼は……。
『……どれだけ変わろうとも、罪人の過去を無くせるわけじゃないことは理解してたよ。だから、サツキに否定されたことも諦められた。でも、せめてユリカちゃんへの謝罪だけはどうしてもしたくて。その後二度と近づかなくてもいいから、謝りたくて……僕は零時前に部屋を出た。ユリカちゃんの部屋へ、行こうとしたんだ』
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