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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
二十九話 殺人の真相
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――午後十一時五十五分。
「……あんた、こんな時間にどこ行こうって言うのよ」
タカキを呼び止めたのは、サツキだった。彼女はまるで汚らわしいものでも見るような冷たい目で、タカキを睨みつけていた。
「僕は、ユリカちゃんに謝ろうと……」
「そんなこと、信じられると思う? あんた、本当はユリカを脅しに行こうとか……殺そうとか、思ってるんじゃないの? 自分が力本発馬だってことがバレたら、またお先真っ暗の人生に逆戻りだものね!」
「ち……違う。僕は本当に思ってるんだよ、あの子に謝りたいって……」
「嘘よ!」
有無を言わせぬ剣幕だった。サツキは最早、タカキの全てを拒絶していた。
そして彼女は、怒りで自制心を失ってしまったのか、近くに突き刺さっていた剣を引き抜き、タカキの方へとその切先を向けたのだ。
「ユリカに近づかないで。あの子に手を出そうもんなら、私は……私は、あんたを絶対に許さない」
サツキの持つ剣は、決して装飾品ではなかった。女の子の腕力だとしても、力任せに振るえば十分な殺傷能力があることを、タカキは理解していた。
今は頭に血が上っているだけ。落ち着かせるしかない。そう思って、タカキは両手を挙げてサツキににじり寄っていく。
「よせよ……僕はそんなつもりじゃないんだって……」
「来るんじゃないわよッ!」
サツキの手は震え、今にも剣を取り落としそうだった。
安心させてやろう。タカキはゆっくりと彼女の傍までやってきて、それから彼女の肩に触れた。
だが――それは逆効果だった。
「きゃ! は、離してよッ!」
「うわっ……」
サツキはタカキの全てを拒絶していた。
それまでは彼女を安心させていたはずの手も、今の彼女にとっては汚らわしいものでしかなかった。
だから、彼女はそれを振り払おうと暴れ。
彼女が握る剣は、不規則な軌跡を描いた。
そして――。
「嫌あッ!」
タカキは、サツキの叫び声とともに、腹部に激痛を感じた。
焼き鏝を押し付けられたような痛みと、じわじわと広がっていく染み。
「……あ……ああ、う」
口から何かが溢れ、もう意味のある言葉も発することは出来なくて。
視界は霞み、やがて……完全なる暗黒が支配した。
「……タ……タカ、キ……」
消えていく意識の片隅で。
彼は微かに、サツキが自身の名前を涙ながらに呼ぶのを聞いた。
それが……タカキの最期だった。
「……あんた、こんな時間にどこ行こうって言うのよ」
タカキを呼び止めたのは、サツキだった。彼女はまるで汚らわしいものでも見るような冷たい目で、タカキを睨みつけていた。
「僕は、ユリカちゃんに謝ろうと……」
「そんなこと、信じられると思う? あんた、本当はユリカを脅しに行こうとか……殺そうとか、思ってるんじゃないの? 自分が力本発馬だってことがバレたら、またお先真っ暗の人生に逆戻りだものね!」
「ち……違う。僕は本当に思ってるんだよ、あの子に謝りたいって……」
「嘘よ!」
有無を言わせぬ剣幕だった。サツキは最早、タカキの全てを拒絶していた。
そして彼女は、怒りで自制心を失ってしまったのか、近くに突き刺さっていた剣を引き抜き、タカキの方へとその切先を向けたのだ。
「ユリカに近づかないで。あの子に手を出そうもんなら、私は……私は、あんたを絶対に許さない」
サツキの持つ剣は、決して装飾品ではなかった。女の子の腕力だとしても、力任せに振るえば十分な殺傷能力があることを、タカキは理解していた。
今は頭に血が上っているだけ。落ち着かせるしかない。そう思って、タカキは両手を挙げてサツキににじり寄っていく。
「よせよ……僕はそんなつもりじゃないんだって……」
「来るんじゃないわよッ!」
サツキの手は震え、今にも剣を取り落としそうだった。
安心させてやろう。タカキはゆっくりと彼女の傍までやってきて、それから彼女の肩に触れた。
だが――それは逆効果だった。
「きゃ! は、離してよッ!」
「うわっ……」
サツキはタカキの全てを拒絶していた。
それまでは彼女を安心させていたはずの手も、今の彼女にとっては汚らわしいものでしかなかった。
だから、彼女はそれを振り払おうと暴れ。
彼女が握る剣は、不規則な軌跡を描いた。
そして――。
「嫌あッ!」
タカキは、サツキの叫び声とともに、腹部に激痛を感じた。
焼き鏝を押し付けられたような痛みと、じわじわと広がっていく染み。
「……あ……ああ、う」
口から何かが溢れ、もう意味のある言葉も発することは出来なくて。
視界は霞み、やがて……完全なる暗黒が支配した。
「……タ……タカ、キ……」
消えていく意識の片隅で。
彼は微かに、サツキが自身の名前を涙ながらに呼ぶのを聞いた。
それが……タカキの最期だった。
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