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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
三十話 託される思い
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彼の口から、真相が語られ。
俺たちはしばらく呆然と立ち尽くしていた。
「……じゃあ、お前を殺したのは」
『そう……サツキだ』
サツキが、人殺し。
タカキを殺した、罪人。
驚きもあったけれど、その真相を俺たちは存外すんなりと受け入れていた。
サツキがタカキを手に掛けたのは悲し過ぎることには違いなかったが、そこに至るまでの過程は、彼女を追いこんでしまうのには十分なものだった。
『でも、どうか二人とも。あいつを責めないでやってほしいんだ。……許してあげてほしい』
「タカキ……」
『あいつは、家の事情から暴力というものに嫌悪感を持っていたから。傷害事件を起こした奴なんかと付き合っていたなんていう事実に、酷いショックを受けたんだよ。なんたって、自分の母親も暴力的な男と結婚してしまったんだしさ。それが嫌だったのに、自分まで同じ道を進んでたと知って……どんなに辛かったことか。挙句には、暴力を拒絶するあまりに自分自身が暴力で以て、僕を殺してしまったんだから。あいつは今も耐え難い苦しみに、自己嫌悪に苛まれているはず……』
否定され、殺されてもなお、タカキはサツキのことを思い続けているようだった。
それはとても儚い愛だけれど……美しいものでもあると思えた。
「お前も、後悔の中生きてきたんだな。お前がそれでいいって言うんなら、俺たちはその言葉をきちんと守るよ」
『……ありがとう、ミツヤ』
「でも、罪は罪だ。それはサツキに認めてもらわなくちゃいけない。なるべく傷つけないようにはしたいが……それで構わないか?」
『ああ、それが一番正しいあり方だと思う』
罪を許すと口で言うことは簡単だ。しかし、それで自分は許されたなどとサツキが思うはずもない。
罪を認め、この世界のルールで償ってもらうこと。それが、彼女にしてやれる一番良い行いだろう。
『全ては僕のせいだけれど。あいつは傷つくべきじゃなかった。だから……絶望なんてしなくていいはずさ』
タカキは、力なく笑う。
その姿が、少しずつ光を帯び始めた。
「……時間か」
『そうみたいだ。出来れば僕も、近くで見守りたかったけど……サツキのことは、二人に託すよ』
「はは、大役だな」
それでも任された以上、しっかりその務めを果たすしかない。
これは、俺たちにしか出来ないことなのだから。
『頼んだよ……ソウシ、ミツヤ。二人が僕の友人で、本当に良かったと思ってる――』
青臭い台詞を最後に。
彼は眩い光に包まれ――あちら側の世界へと、旅立っていった。
「……逝っちまった、か」
再び暗くなった地下室。スマートフォンのライトを前方に向けながらソウシは呟く。
「あいつの口から色々と聞けたのは良かったよ。あいつ自身も、そりゃ苦しんでたんだよな。本当に、あいつは昔の自分と訣別しようとしていた。そして……きっと変われていたんだ」
「俺も、そう思うよ」
「……さよなら、タカキ。お前の最期の言葉、守らないとな」
ソウシにも、色々と思うところはあるだろう。だけど、彼もまたタカキを許すことができたわけだ。
――良かったな、ソウシ。
俺は心の中で、そう思うのだった。
「……よし。また水を汲んでから、サツキのところへ行こう」
「二人とも使っちまったもんな。さっさと汲んで戻るとするか」
俺たちは頷き合い、そして清めの水がある部屋へと向かう。
あともう一息頑張れば、ここから出られるのだと言い聞かせながら。
俺たちはしばらく呆然と立ち尽くしていた。
「……じゃあ、お前を殺したのは」
『そう……サツキだ』
サツキが、人殺し。
タカキを殺した、罪人。
驚きもあったけれど、その真相を俺たちは存外すんなりと受け入れていた。
サツキがタカキを手に掛けたのは悲し過ぎることには違いなかったが、そこに至るまでの過程は、彼女を追いこんでしまうのには十分なものだった。
『でも、どうか二人とも。あいつを責めないでやってほしいんだ。……許してあげてほしい』
「タカキ……」
『あいつは、家の事情から暴力というものに嫌悪感を持っていたから。傷害事件を起こした奴なんかと付き合っていたなんていう事実に、酷いショックを受けたんだよ。なんたって、自分の母親も暴力的な男と結婚してしまったんだしさ。それが嫌だったのに、自分まで同じ道を進んでたと知って……どんなに辛かったことか。挙句には、暴力を拒絶するあまりに自分自身が暴力で以て、僕を殺してしまったんだから。あいつは今も耐え難い苦しみに、自己嫌悪に苛まれているはず……』
否定され、殺されてもなお、タカキはサツキのことを思い続けているようだった。
それはとても儚い愛だけれど……美しいものでもあると思えた。
「お前も、後悔の中生きてきたんだな。お前がそれでいいって言うんなら、俺たちはその言葉をきちんと守るよ」
『……ありがとう、ミツヤ』
「でも、罪は罪だ。それはサツキに認めてもらわなくちゃいけない。なるべく傷つけないようにはしたいが……それで構わないか?」
『ああ、それが一番正しいあり方だと思う』
罪を許すと口で言うことは簡単だ。しかし、それで自分は許されたなどとサツキが思うはずもない。
罪を認め、この世界のルールで償ってもらうこと。それが、彼女にしてやれる一番良い行いだろう。
『全ては僕のせいだけれど。あいつは傷つくべきじゃなかった。だから……絶望なんてしなくていいはずさ』
タカキは、力なく笑う。
その姿が、少しずつ光を帯び始めた。
「……時間か」
『そうみたいだ。出来れば僕も、近くで見守りたかったけど……サツキのことは、二人に託すよ』
「はは、大役だな」
それでも任された以上、しっかりその務めを果たすしかない。
これは、俺たちにしか出来ないことなのだから。
『頼んだよ……ソウシ、ミツヤ。二人が僕の友人で、本当に良かったと思ってる――』
青臭い台詞を最後に。
彼は眩い光に包まれ――あちら側の世界へと、旅立っていった。
「……逝っちまった、か」
再び暗くなった地下室。スマートフォンのライトを前方に向けながらソウシは呟く。
「あいつの口から色々と聞けたのは良かったよ。あいつ自身も、そりゃ苦しんでたんだよな。本当に、あいつは昔の自分と訣別しようとしていた。そして……きっと変われていたんだ」
「俺も、そう思うよ」
「……さよなら、タカキ。お前の最期の言葉、守らないとな」
ソウシにも、色々と思うところはあるだろう。だけど、彼もまたタカキを許すことができたわけだ。
――良かったな、ソウシ。
俺は心の中で、そう思うのだった。
「……よし。また水を汲んでから、サツキのところへ行こう」
「二人とも使っちまったもんな。さっさと汲んで戻るとするか」
俺たちは頷き合い、そして清めの水がある部屋へと向かう。
あともう一息頑張れば、ここから出られるのだと言い聞かせながら。
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