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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
三十三話 悲しき対峙
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それから十分ほどで俺たちは屋敷の一階をぐるりと一周した。しかし、念入りに探してもサツキの姿はなく、彼女は二階にいるらしいと結論付けられた。
玄関ホールから階段を上がり、二階へ。そして再びぐるりと一周し、彼女を見つけようとしていたそのとき。
ふいに俺たちを、寒気が襲った。
「な、何だ……?」
室温が下がったというわけではない。この感じは多分――霊だ。
「あっ……!」
ハルナが遠くの方を指さした。そこには、ぼんやりとだが何かの輪郭が浮かんでいる。
輪郭はだんだんと濃くなっていき……そして、五秒も経つころには、ハッキリとした形をとっていた。
「あれ……ユリカちゃん!?」
確かに、ハルナの言う通りユリカちゃんの面影が多少はあった。
髪型や服装は、彼女と同じだと辛うじて分かる。
けれど――これまでの悪霊と同様に。
彼女もまた悪霊として、見るに堪えないズタズタの姿に変質してしまっていた。
「こ、こんなときに現れちまうなんて……!」
タカキが悪霊化してしまった以上、ここで死んだ人間は悪霊になってもおかしくはない。分かってはいたはずだが、油断していた。
「……ユリカ」
ソウシは無残な姿に変わり果てたユリカちゃんの悪霊を見て、拳を強く握りしめる。
そして、覚悟を決めた様子で俺たちにこう告げた。
「三人とも、ここは俺に任せて、サツキのところへ行ってやってくれ」
「馬鹿、何言ってるのよソウシくん!」
悪霊を一人で相手するという無謀な提案に、ハルナは当然無茶だと怒る。
しかし、ソウシの意思は固い。
「……ユリカのことは、俺が責任を持ちたいんだ。助けられなかったならせめて……俺の手であいつの魂を浄化してやりたいんだよ」
「ソウシ……」
「ミツヤ。お前なら分かってくれるだろ。それが俺のすべき、せめてもの償いなんだよ……」
ソウシは、親友として俺を信じてくれている。引き受けさせてほしいと言っている。
それがどんなに危険でも。……俺に止める権利などありはしなかった。
俺だってそう変わらないのだから。
「分かった、ユリカちゃんのことはお前に任せる。……けど、しっかりやれよ。お前はまだ生きてるんだから」
ソウシも、生を捨てようとしているわけではない。必ず……無事にやり遂せるはずだ。
だから俺は、俺たちは信じる。
「ソウシくんなら大丈夫だよね!」
「頼んだよ、僕らも早く戻るから!」
「ああ、待ってるぜ!」
俺たちは二階へ、そしてソウシは一階へ。
わざとユリカちゃんを引き付けるように動きながら、彼は階段を下りていき、誘いに乗るように霊も後を追った。
これで、俺たちに危険は及ばなくなった。
「……よし、サツキのところに行こう!」
「サツキちゃんを説得して、急いでソウシくんのところに戻らなくちゃね!」
俺たちは三人で頷き合い、廊下を駆けていった。
玄関ホールから階段を上がり、二階へ。そして再びぐるりと一周し、彼女を見つけようとしていたそのとき。
ふいに俺たちを、寒気が襲った。
「な、何だ……?」
室温が下がったというわけではない。この感じは多分――霊だ。
「あっ……!」
ハルナが遠くの方を指さした。そこには、ぼんやりとだが何かの輪郭が浮かんでいる。
輪郭はだんだんと濃くなっていき……そして、五秒も経つころには、ハッキリとした形をとっていた。
「あれ……ユリカちゃん!?」
確かに、ハルナの言う通りユリカちゃんの面影が多少はあった。
髪型や服装は、彼女と同じだと辛うじて分かる。
けれど――これまでの悪霊と同様に。
彼女もまた悪霊として、見るに堪えないズタズタの姿に変質してしまっていた。
「こ、こんなときに現れちまうなんて……!」
タカキが悪霊化してしまった以上、ここで死んだ人間は悪霊になってもおかしくはない。分かってはいたはずだが、油断していた。
「……ユリカ」
ソウシは無残な姿に変わり果てたユリカちゃんの悪霊を見て、拳を強く握りしめる。
そして、覚悟を決めた様子で俺たちにこう告げた。
「三人とも、ここは俺に任せて、サツキのところへ行ってやってくれ」
「馬鹿、何言ってるのよソウシくん!」
悪霊を一人で相手するという無謀な提案に、ハルナは当然無茶だと怒る。
しかし、ソウシの意思は固い。
「……ユリカのことは、俺が責任を持ちたいんだ。助けられなかったならせめて……俺の手であいつの魂を浄化してやりたいんだよ」
「ソウシ……」
「ミツヤ。お前なら分かってくれるだろ。それが俺のすべき、せめてもの償いなんだよ……」
ソウシは、親友として俺を信じてくれている。引き受けさせてほしいと言っている。
それがどんなに危険でも。……俺に止める権利などありはしなかった。
俺だってそう変わらないのだから。
「分かった、ユリカちゃんのことはお前に任せる。……けど、しっかりやれよ。お前はまだ生きてるんだから」
ソウシも、生を捨てようとしているわけではない。必ず……無事にやり遂せるはずだ。
だから俺は、俺たちは信じる。
「ソウシくんなら大丈夫だよね!」
「頼んだよ、僕らも早く戻るから!」
「ああ、待ってるぜ!」
俺たちは二階へ、そしてソウシは一階へ。
わざとユリカちゃんを引き付けるように動きながら、彼は階段を下りていき、誘いに乗るように霊も後を追った。
これで、俺たちに危険は及ばなくなった。
「……よし、サツキのところに行こう!」
「サツキちゃんを説得して、急いでソウシくんのところに戻らなくちゃね!」
俺たちは三人で頷き合い、廊下を駆けていった。
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