【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

文字の大きさ
36 / 176
第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】

三十三話 悲しき対峙

しおりを挟む
 それから十分ほどで俺たちは屋敷の一階をぐるりと一周した。しかし、念入りに探してもサツキの姿はなく、彼女は二階にいるらしいと結論付けられた。
 玄関ホールから階段を上がり、二階へ。そして再びぐるりと一周し、彼女を見つけようとしていたそのとき。
 ふいに俺たちを、寒気が襲った。

「な、何だ……?」

 室温が下がったというわけではない。この感じは多分――霊だ。

「あっ……!」

 ハルナが遠くの方を指さした。そこには、ぼんやりとだが何かの輪郭が浮かんでいる。
 輪郭はだんだんと濃くなっていき……そして、五秒も経つころには、ハッキリとした形をとっていた。

「あれ……ユリカちゃん!?」
 
 確かに、ハルナの言う通りユリカちゃんの面影が多少はあった。
 髪型や服装は、彼女と同じだと辛うじて分かる。
 けれど――これまでの悪霊と同様に。
 彼女もまた悪霊として、見るに堪えないズタズタの姿に変質してしまっていた。

「こ、こんなときに現れちまうなんて……!」

 タカキが悪霊化してしまった以上、ここで死んだ人間は悪霊になってもおかしくはない。分かってはいたはずだが、油断していた。

「……ユリカ」

 ソウシは無残な姿に変わり果てたユリカちゃんの悪霊を見て、拳を強く握りしめる。
 そして、覚悟を決めた様子で俺たちにこう告げた。

「三人とも、ここは俺に任せて、サツキのところへ行ってやってくれ」
「馬鹿、何言ってるのよソウシくん!」

 悪霊を一人で相手するという無謀な提案に、ハルナは当然無茶だと怒る。
 しかし、ソウシの意思は固い。

「……ユリカのことは、俺が責任を持ちたいんだ。助けられなかったならせめて……俺の手であいつの魂を浄化してやりたいんだよ」
「ソウシ……」
「ミツヤ。お前なら分かってくれるだろ。それが俺のすべき、せめてもの償いなんだよ……」

 ソウシは、親友として俺を信じてくれている。引き受けさせてほしいと言っている。
 それがどんなに危険でも。……俺に止める権利などありはしなかった。
 俺だってそう変わらないのだから。

「分かった、ユリカちゃんのことはお前に任せる。……けど、しっかりやれよ。お前はまだ生きてるんだから」

 ソウシも、生を捨てようとしているわけではない。必ず……無事にやり遂せるはずだ。
 だから俺は、俺たちは信じる。

「ソウシくんなら大丈夫だよね!」
「頼んだよ、僕らも早く戻るから!」
「ああ、待ってるぜ!」

 俺たちは二階へ、そしてソウシは一階へ。
 わざとユリカちゃんを引き付けるように動きながら、彼は階段を下りていき、誘いに乗るように霊も後を追った。
 これで、俺たちに危険は及ばなくなった。

「……よし、サツキのところに行こう!」
「サツキちゃんを説得して、急いでソウシくんのところに戻らなくちゃね!」

 俺たちは三人で頷き合い、廊下を駆けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...