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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
三十七話 数奇な巡り合わせ
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ソウシの口から語られた、二つの家の悲しき真実。
その内容に、ハルナもマヤも絶句していた。
「……俺はその話を聞いてから、色々と考えたよ。そうして出た結論は……俺から直接、ユリカにそれを伝えたいってものだった。それから伊吹さんに相談して……河南家、俺の本当の両親にも話をして……俺から事実を告げてもいいっていう許可をもらうことが、できた」
「そんなことが、あったなんて……」
「……全く、奇妙な巡り合わせだったよ。好き合った同士が、互いの家の実子だなんて。取り違えられたまま育った者同士だったなんて……」
何もかもが運命だったのかもしれない。そんな風に思っても仕方のないような巡り合わせだった。
偶然と呼ぶには、あまりにも出来過ぎた……。
「俺は今日。その事実を……ユリカに伝えようと思ってた。夜にでも、落ち着いて話し合える時間ができるだろうって、思ってたんだ。でも、こんなことが起きちまって……あいつが生きているうちに、それを告げることができなかったのが辛かった。……だからさ。たとえ悪霊としてでも、あいつがまだ存在してくれたことに……希望を持ったのさ」
「……じゃあ、ユリカちゃんに?」
ハルナが問うと、ソウシは微笑を浮かべる。
「ああ……元に戻したユリカに、何とか伝えることができたよ。それで、俺のやりたいことは、終わった」
「……そう、か」
生きているうちではなかったけれど。
ソウシは、僅かな可能性に賭け、そしてそれを掴むことが出来たのだ。
自らの命と引き換えにして。
「……はは、今更後悔したって、遅いけどよ」
ソウシの目が……少しずつ、虚ろになっていく。
「こんなところを告白の場所になんか、するんじゃなかった……ぜ……」
満たされたような笑顔を湛えたまま。
彼は静かにまぶたを閉じ、動かなくなった。
「ソウシ……? おい、ソウシ!」
「ソウシくんッ!」
どれだけ体を揺さぶろうが、もうその肉体が答えを返してくれることはない。
彼の命はもう、この世から切り離されてしまったのだ。
そこに、光が放たれる。
霊が浄化されるときの、眩く暖かな光だ。
その光の中から、人影が二つ浮かび上がってくる。
一人はソウシで、もう一人は……ユリカちゃんだった。
『……悪いな。そういうわけで、俺たちは一足お先に退場させてもらうとするぜ。お前たちは……最後まで生き残れよ』
「ソウシ……」
俺たちを寂しがらせないためわざと軽い調子で話すソウシに、俺は馬鹿野郎と呟いた。
『さよならです。皆』
「ユリカちゃんも……」
二人は手を繋ぎ、幸せそうに互いを見つめる。
そこだけを切り取ったのなら。本当に幸せに満ちた瞬間のようにも思えた。
『なあミツヤ。最後に一つだけ、お前に言っとくことがある』
「……何だ、ソウシ」
『お前を良く知る親友としての、忠告さ』
忠告、か。
他ならぬ親友の言葉なら、耳を貸さないわけにはいかないな。
『もしもお前が、ここで何かをしでかそうとしてるなら……俺がとやかく言う筋合いはないかもしれねえけどよ。……やめとけ』
「……はは。シンプルだな」
『きっとそんなことしたって、この悲劇の最後を飾るくらいにしかなりゃしねえ。お前はそれをちゃんと分かってるのに、目を瞑ってるんだろう』
「……さて」
『お前はただ一つのことしか見ていないのかもしれないが。お前を大切に思ってる人はすぐ傍にもいるんだ。悲しませたりするんじゃねえぞ』
余計なお節介だ。そう口を挟みたい気持ちをぐっと堪えて、俺は最後まで彼の忠告を聞いてやった。
答えを返すことは、しなかったけれど。
『……まあ、俺はお前を信じてやるさ。必ず、残った全員で生きて帰ってくれよ――』
言い終わると、ソウシとユリカちゃんは仲良く手を繋いだまま。
再び現れた光の中へとゆっくり歩いていき……そして、消えていった。
残されたのは俺たち三人と、彼らが現世にいた証……肉体だけ。
物言わぬ骸は、二つとも静かに目を閉じているのだった。
「……二人とも、逝っちゃったね」
「そうだな……」
皆で生きて帰ろうと誓ったのに。
もう、残されたのは三人だけだ。
それも、よりによってこの三人とは。
つくづく運命の悪戯というやつを、呪いたい気分だった。
「ねえ、ソウシは何を言おうとしてたんだろ? ミツヤ、心当たりあるんでしょ?」
「……さあ。あいつ、変に勘繰るところがあるからさ」
「ふうん……?」
マヤは俺に、疑いの眼差しを向けてくる。無理もない、死に際――というか死んだ後のソウシから、あんな忠告をされたのだから。
俺が何かを企んでいる。そう怪しまれるのは当然のことだった。
――でも。
「……一度、食堂へ戻ろう。ここにいたって気持ちが塞ぐだけだ」
「え、ええ……そうよね」
すまないな、ソウシ。
俺は……立ち止まるわけにはいかないんだ。
皆がそれぞれ目的を持ってこの霧夏邸に来たように。
俺にだって、どうしても成し遂げたい目的があるのだから……。
その内容に、ハルナもマヤも絶句していた。
「……俺はその話を聞いてから、色々と考えたよ。そうして出た結論は……俺から直接、ユリカにそれを伝えたいってものだった。それから伊吹さんに相談して……河南家、俺の本当の両親にも話をして……俺から事実を告げてもいいっていう許可をもらうことが、できた」
「そんなことが、あったなんて……」
「……全く、奇妙な巡り合わせだったよ。好き合った同士が、互いの家の実子だなんて。取り違えられたまま育った者同士だったなんて……」
何もかもが運命だったのかもしれない。そんな風に思っても仕方のないような巡り合わせだった。
偶然と呼ぶには、あまりにも出来過ぎた……。
「俺は今日。その事実を……ユリカに伝えようと思ってた。夜にでも、落ち着いて話し合える時間ができるだろうって、思ってたんだ。でも、こんなことが起きちまって……あいつが生きているうちに、それを告げることができなかったのが辛かった。……だからさ。たとえ悪霊としてでも、あいつがまだ存在してくれたことに……希望を持ったのさ」
「……じゃあ、ユリカちゃんに?」
ハルナが問うと、ソウシは微笑を浮かべる。
「ああ……元に戻したユリカに、何とか伝えることができたよ。それで、俺のやりたいことは、終わった」
「……そう、か」
生きているうちではなかったけれど。
ソウシは、僅かな可能性に賭け、そしてそれを掴むことが出来たのだ。
自らの命と引き換えにして。
「……はは、今更後悔したって、遅いけどよ」
ソウシの目が……少しずつ、虚ろになっていく。
「こんなところを告白の場所になんか、するんじゃなかった……ぜ……」
満たされたような笑顔を湛えたまま。
彼は静かにまぶたを閉じ、動かなくなった。
「ソウシ……? おい、ソウシ!」
「ソウシくんッ!」
どれだけ体を揺さぶろうが、もうその肉体が答えを返してくれることはない。
彼の命はもう、この世から切り離されてしまったのだ。
そこに、光が放たれる。
霊が浄化されるときの、眩く暖かな光だ。
その光の中から、人影が二つ浮かび上がってくる。
一人はソウシで、もう一人は……ユリカちゃんだった。
『……悪いな。そういうわけで、俺たちは一足お先に退場させてもらうとするぜ。お前たちは……最後まで生き残れよ』
「ソウシ……」
俺たちを寂しがらせないためわざと軽い調子で話すソウシに、俺は馬鹿野郎と呟いた。
『さよならです。皆』
「ユリカちゃんも……」
二人は手を繋ぎ、幸せそうに互いを見つめる。
そこだけを切り取ったのなら。本当に幸せに満ちた瞬間のようにも思えた。
『なあミツヤ。最後に一つだけ、お前に言っとくことがある』
「……何だ、ソウシ」
『お前を良く知る親友としての、忠告さ』
忠告、か。
他ならぬ親友の言葉なら、耳を貸さないわけにはいかないな。
『もしもお前が、ここで何かをしでかそうとしてるなら……俺がとやかく言う筋合いはないかもしれねえけどよ。……やめとけ』
「……はは。シンプルだな」
『きっとそんなことしたって、この悲劇の最後を飾るくらいにしかなりゃしねえ。お前はそれをちゃんと分かってるのに、目を瞑ってるんだろう』
「……さて」
『お前はただ一つのことしか見ていないのかもしれないが。お前を大切に思ってる人はすぐ傍にもいるんだ。悲しませたりするんじゃねえぞ』
余計なお節介だ。そう口を挟みたい気持ちをぐっと堪えて、俺は最後まで彼の忠告を聞いてやった。
答えを返すことは、しなかったけれど。
『……まあ、俺はお前を信じてやるさ。必ず、残った全員で生きて帰ってくれよ――』
言い終わると、ソウシとユリカちゃんは仲良く手を繋いだまま。
再び現れた光の中へとゆっくり歩いていき……そして、消えていった。
残されたのは俺たち三人と、彼らが現世にいた証……肉体だけ。
物言わぬ骸は、二つとも静かに目を閉じているのだった。
「……二人とも、逝っちゃったね」
「そうだな……」
皆で生きて帰ろうと誓ったのに。
もう、残されたのは三人だけだ。
それも、よりによってこの三人とは。
つくづく運命の悪戯というやつを、呪いたい気分だった。
「ねえ、ソウシは何を言おうとしてたんだろ? ミツヤ、心当たりあるんでしょ?」
「……さあ。あいつ、変に勘繰るところがあるからさ」
「ふうん……?」
マヤは俺に、疑いの眼差しを向けてくる。無理もない、死に際――というか死んだ後のソウシから、あんな忠告をされたのだから。
俺が何かを企んでいる。そう怪しまれるのは当然のことだった。
――でも。
「……一度、食堂へ戻ろう。ここにいたって気持ちが塞ぐだけだ」
「え、ええ……そうよね」
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俺は……立ち止まるわけにはいかないんだ。
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