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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
三十八話 解けていく謎
しおりを挟む「今この空間を支配しているのはナツノちゃん、か。彼女を解放してあげない限り、やっぱりこの場所からは出られないのかな……」
「……多分、ね」
場所を食堂に移し、俺たちは話し合っていた。
三人になってしまった今、食堂はとても広く、寂しく感じられる。
腕組みをしながら歩き回るマヤの靴音がやけに大きく響いて。
それが俺の心をざわつかせるのだった。
「……なあ、二人とも。肝心なことを忘れてないか」
「うん?」
マヤは立ち止まり、こちらに目を向ける。
「ナツノちゃんは、どうして悪霊になったんだと思う? どうしてこの場所で死んで、悪霊として現れたのか」
「そ、それは……」
「湯越さんは、実のところ人体実験なんかはしちゃいなかった。それどころか、かつての犠牲者たちを救ってやっていたんだ。であれば、ナツノちゃんは湯越郁斗に殺されたんじゃない。ナツノちゃんを殺した奴が他にいる」
「……確かにね。ナツノちゃんは誰が……か」
顎に手を当てて考える仕草をしつつ、マヤは再び食堂内を歩き回った。
やがてテーブル付近までやってくると、何気なく部屋割りの紙を拾い上げる。
……そこで、マヤの顔が不意に歪んだ。
「え……?」
「どうした、マヤ」
「いや――なんでもない」
そう言って取り繕うものの、彼は明らかに何か気付いた様子だった。
気付いたからこそ、その顔は引きつり、青ざめたのだ。
ハルナだけは蚊帳の外といった感じで、首を傾げている。
しばらく沈黙が続いたが、それを破るようにマヤは突然宣言した。
「……僕、行くよ」
「おいおい、どこへだよ?」
「ナツノちゃんを解放するために、僕も彼女の体を探そうと思う。タカキのときだって、解放したあいつから直接犯人を聞いたんでしょ? だったら、ナツノちゃんを解放してあげられれば……彼女を殺した犯人だって、直接彼女から聞けるだろうからさ」
「……まあ、そうかもしれないけど」
マヤの話は筋が通っている。というか、俺とソウシが実際にしたことと同じだ。
しかし、急に一人で探索に出ようとするのはおかしな行動だった。
「大丈夫。ちゃんと水を汲んでから行くし、危なかったらちゃんと逃げるよ。だからほら、三人で手分けして頑張ろう? ソウシに言われた通り……生きて帰るためにさ」
ソウシがいたら、馬鹿言うなと引き留めるだろう。
強引に行こうとすれば、更に強引に止めさせるだろうな。
でも――もうあいつはいない。
「……分かった。頼むよ」
「え……?」
俺があっさり許可したのに、ハルナは虚を突かれて呆けた声を出した。
「うん、任せて」
探索を許されたマヤは、まるで逃げるようにそそくさと食堂から去って行くのだった。
「ね、ねえ……良かったの? 一人で行かせて……」
「ああ……あれでいい」
「いいって、何で……」
「そうする必要があったからだよ」
説明したくなかったので、俺は話をすり替える。
「それよりハルナ、お前こそ言いたいことがあるんじゃないのか。口数が減ってる」
「……バレてたんだ」
何が言いたいかまでは分からなくとも、隠し事をしてるかどうかくらいは察せられる。
誇れた話じゃないが、俺はそういうのが得意だし、色々な人の秘密を知る機会にも恵まれていたから。
「あのね、ミツヤくん。こんなことになっちゃってから言うなんて、もう遅すぎるけど……謝らないといけないことが、あるの」
「謝らないといけない?」
「……ここに閉じ込められ、霊に命を狙われるようになった理由は全部、私にあるのよ」
それはここに来てから何度か聞いたことだ。確かに、ハルナは俺たちを霧夏邸へ誘った張本人ではあるが、だからと言って悪霊の出現や殺人事件には関わっていないはず。
「この屋敷へ連れてきたことなら気にしなくてもいいって言ってるだろ」
「それだけじゃないの!」
違う、とハルナは訴える。
ここへ連れてきたことが理由でないなら、彼女が考える理由とはいったい何だと言うのか。
「……私は、皆で霧夏邸に訪れるよりも前にね」
彼女は悲痛な声で……自らの行いを懺悔した。
「一人でここへ忍び込んで、降霊術を試したんだよ――」
*
電気を消した、暗い部屋の中。
降霊術の本を幾つも読み漁り、その準備を終えたハルナは、緊張を解そうと深呼吸していた。
「ふう。これで……合ってるのかな。まあ、書かれてる通りなんだから大丈夫よね」
降霊術の噂に誘われるようにして、いつしか足を運ぶようになっていた霧夏邸。
放置された数々の本から、彼女は霊を呼ぶ術式を知ることが出来ていた。
ほとんどが眉唾な書物の中で最も頼りになったのが、とある学者によって記された研究書籍だ。
風見照というその人物は、薬学方面の研究者だったようだが、何故かこのようなオカルト本を著しているのだった。しかも、本の体裁は成しているものの、公に出版されているものではないらしく、奥付のようなものは一切なかった。
ハルナはこの本を見た瞬間に、これだと確信を抱いたのだ。
「もしもこれが成功して、ナツノちゃんの霊が現れたら。どうしていなくなってしまったのかが聞ける。それは裏を返せば、ナツノちゃんが死んでしまっているってことだけれど……」
それがハルナの願いだった。
親友がどうしていなくなってしまったのかを知りたかったのだ。
警察の捜査にも期待できず、未解決になってしまいそうな事件だったからこそ。
永久に知ることが出来ない可能性に憤りを感じ、ここまで来てしまった……。
「あのときから長いこと調べ続けて……ようやくここまで来たんだ。やってみよう」
降霊術は、想像していた以上に簡単なものだった。
というよりも、簡単な方法をこの学者が編み出したのだろう。
そのおかげで、ハルナのような中学生にも何とか準備が整えられた。
そして彼女は、禁忌に触れる――。
「――黄泉の亡者たちよ、聞き給え。……どうか、霧岡夏乃の御霊を呼び戻し給え――」
ハルナの求めに呼応するかのように。
世界は赤く明滅を始め。
やがてそれは、一つのイメージを彼女に与えた。
――殺された。
死者からの、短いメッセージを。
「……え?」
決して気のせいなどではない鮮烈なイメージに、ハルナは思わず立ち上がっていた。
今のは間違いなくナツノからのメッセージなのだと、確信していた。
「ナツノちゃん!? ねえ、ここにいるの!? ……貴方は一体、誰に殺されたっていうの――」
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