90 / 176
第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
終章 少女の夜明け
しおりを挟む
伍横町から電車で数駅のところにある某大学。
その中庭で、僕と彼女は二人、行き交う生徒たちを眺めながら言葉を交わしていた。
陽射しは眩しいくらいで、夏の訪れをだんだんと感じさせる暖かさになってきている。
日向にいると汗をかくほどなので、僕たちは日陰ができている校舎の壁に寄りかかっているのだった。
「……もうすっかり、元気になったね?」
隣の彼女――アキノちゃんは、可愛らしいワンピースを着込み、髪を後ろで束ねていて清楚な感じだ。男子学生たちが時折立ち止まるのが面白い。
目が覚めた直後は不健康で髪も伸び切っていたけれど……あの頃の面影はもうすっかり無くなっていた。
「最初は大変だったけど……マスミさん、リハビリ手伝ってくれたから」
「そばについてただけさ。頑張ったのはアキノちゃんだよ」
「……えへへ」
アキノちゃんは照れ臭そうに笑う。
その笑顔は、どことなく幼げに見えた。
肉体的には十七歳だが、やはり精神的にはまだ十四歳。
体と心には、三年分の開きがあるのだ。
だから今、彼女はそれを取り戻そうと毎日頑張っている。
「私、絶対この大学に入るからね。……三年分遅れちゃってるけれど、必死に勉強するから」
校舎を見上げながら、アキノちゃんは強い口調で僕に告げる。
「だから……マスミさん、また手伝ってね?」
「うん、もちろん。……頼まれちゃったからね」
彼女の姉二人から、しっかり面倒を見てほしいと頼まれたのだ。
その約束を反故にするつもりはない。
僕は必ずこの子を幸せにすると、誓ったのだ。
……何だかそう表現すると婚約したみたいだが……まあ、近からずとも遠からず、なのかもしれないか。
「……ミオさん、最近見かけないね?」
「ミオは、しばらく大学には来ないと思う」
事件以降、何度か話す機会があったのだが、最後に会ったとき、彼の決意を聞かせてもらっていた。
だから、彼が今何をしようとしているかは知っている。
「……例の人を、探しに?」
「ああ。ドールと名乗った謎の人物をね」
全てが謎に包まれた仮面の男、ドール。
彼の目的は降霊術による死者の蘇生だと言うが……具体的にこの町で何をしているかが分からない。
これからこの町で、何が引き起こされるのかが分からない。
「……復讐したいから、とか?」
「ううん、それは違う。ミオは、ちゃんと僕に告げていった。ドールを追う理由をね」
ドールの思うがままに操られ、一連の悲劇の引き金を引く役割を担ってしまったミオ。
そんな彼の思いは、けれども決してマイナスなものではなかった。
「降霊術によって悲しい結末を迎えてしまう人が、もうこれ以上増えないように。……そのために、ミオはドールを追っていったんだよ――流刻園にね」
流刻園。
三神院にてドールと対峙した際、奴が口にしていた次の目的地。
次なる悲劇の舞台。
その引き起こされるであろう悲劇を防ぐため、ミオは旅立ったのだ。
「……ミオさんなら、できると思う。私には、分かるよ」
でも少し寂しいけれど、とアキノは呟く。
「そうだね、僕も寂しいよ。だけど……応援してる」
「……うん」
悲劇の連鎖を断ち切るために。
ドールの目論見を、彼が止められることを。
それを信じながら、僕たちはこの町で生きていく。
残された僕たちは、幸せを創っていかなくちゃならないから。
「……ね、アキノちゃん」
「何? マスミさん」
アキノちゃんは、可愛らしく小首を傾げる。
やっぱり姉妹らしく、ヨウノやツキノちゃんの面影を感じさせる顔立ちだ。
「ええっと。……今日、僕の家に来てくれないかな?」
「え? えっと、その……どうして?」
「……快気祝いのつもりもあるし、それにさ」
ちょっと勇気が必要だったけど……僕は彼女へ告げる。
「……ほら、もう過ぎちゃったけれど。君の誕生日会だって、まだ開いてなかったんだしさ――」
その中庭で、僕と彼女は二人、行き交う生徒たちを眺めながら言葉を交わしていた。
陽射しは眩しいくらいで、夏の訪れをだんだんと感じさせる暖かさになってきている。
日向にいると汗をかくほどなので、僕たちは日陰ができている校舎の壁に寄りかかっているのだった。
「……もうすっかり、元気になったね?」
隣の彼女――アキノちゃんは、可愛らしいワンピースを着込み、髪を後ろで束ねていて清楚な感じだ。男子学生たちが時折立ち止まるのが面白い。
目が覚めた直後は不健康で髪も伸び切っていたけれど……あの頃の面影はもうすっかり無くなっていた。
「最初は大変だったけど……マスミさん、リハビリ手伝ってくれたから」
「そばについてただけさ。頑張ったのはアキノちゃんだよ」
「……えへへ」
アキノちゃんは照れ臭そうに笑う。
その笑顔は、どことなく幼げに見えた。
肉体的には十七歳だが、やはり精神的にはまだ十四歳。
体と心には、三年分の開きがあるのだ。
だから今、彼女はそれを取り戻そうと毎日頑張っている。
「私、絶対この大学に入るからね。……三年分遅れちゃってるけれど、必死に勉強するから」
校舎を見上げながら、アキノちゃんは強い口調で僕に告げる。
「だから……マスミさん、また手伝ってね?」
「うん、もちろん。……頼まれちゃったからね」
彼女の姉二人から、しっかり面倒を見てほしいと頼まれたのだ。
その約束を反故にするつもりはない。
僕は必ずこの子を幸せにすると、誓ったのだ。
……何だかそう表現すると婚約したみたいだが……まあ、近からずとも遠からず、なのかもしれないか。
「……ミオさん、最近見かけないね?」
「ミオは、しばらく大学には来ないと思う」
事件以降、何度か話す機会があったのだが、最後に会ったとき、彼の決意を聞かせてもらっていた。
だから、彼が今何をしようとしているかは知っている。
「……例の人を、探しに?」
「ああ。ドールと名乗った謎の人物をね」
全てが謎に包まれた仮面の男、ドール。
彼の目的は降霊術による死者の蘇生だと言うが……具体的にこの町で何をしているかが分からない。
これからこの町で、何が引き起こされるのかが分からない。
「……復讐したいから、とか?」
「ううん、それは違う。ミオは、ちゃんと僕に告げていった。ドールを追う理由をね」
ドールの思うがままに操られ、一連の悲劇の引き金を引く役割を担ってしまったミオ。
そんな彼の思いは、けれども決してマイナスなものではなかった。
「降霊術によって悲しい結末を迎えてしまう人が、もうこれ以上増えないように。……そのために、ミオはドールを追っていったんだよ――流刻園にね」
流刻園。
三神院にてドールと対峙した際、奴が口にしていた次の目的地。
次なる悲劇の舞台。
その引き起こされるであろう悲劇を防ぐため、ミオは旅立ったのだ。
「……ミオさんなら、できると思う。私には、分かるよ」
でも少し寂しいけれど、とアキノは呟く。
「そうだね、僕も寂しいよ。だけど……応援してる」
「……うん」
悲劇の連鎖を断ち切るために。
ドールの目論見を、彼が止められることを。
それを信じながら、僕たちはこの町で生きていく。
残された僕たちは、幸せを創っていかなくちゃならないから。
「……ね、アキノちゃん」
「何? マスミさん」
アキノちゃんは、可愛らしく小首を傾げる。
やっぱり姉妹らしく、ヨウノやツキノちゃんの面影を感じさせる顔立ちだ。
「ええっと。……今日、僕の家に来てくれないかな?」
「え? えっと、その……どうして?」
「……快気祝いのつもりもあるし、それにさ」
ちょっと勇気が必要だったけど……僕は彼女へ告げる。
「……ほら、もう過ぎちゃったけれど。君の誕生日会だって、まだ開いてなかったんだしさ――」
0
あなたにおすすめの小説
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾書籍発売中
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
西伊豆の廃屋から東京のタワマンへ。美しき食人鬼たちは、人間を喰らって愛を成す
秦江湖
ライト文芸
【美しき兄妹、実は食人鬼】
西伊豆の心中屋敷に踏み込んだ者たちは、二度と帰ってこない。 そこにいたのは、か弱い兄妹ではなく、獲物を待つ「捕食者」だった。
精神病棟から帰還した妹・世璃(より)は、死んだ姉の皮を被った「人食いの怪物」。 足の不自由な兄・静(しずか)は、妹に「肉」を与える冷徹な支配者。
遺産目当ての叔父、善意を押し付ける教師、興味本位の配信者、そして因習に縛られた自警団……。 「弱者」を狩りに来たつもりの愚か者から順番に、今日の献立が決まっていく。
それは食事であり、共犯の儀式であり、二人だけの愛の証明。
西伊豆の廃屋から、東京のタワーマンションへ。 最上階を新たな「城」にした二人の、残酷で美しい捕食記録が幕を開ける。
「お兄様、今日のごはんはなあに?」 「――ああ、今日はとても元気のいい『獲物』が届いたよ」
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢
秋野 林檎
恋愛
「わ……私と結婚してください!」と叫んだのは、男爵令嬢ミーナ
プロポーズされたのは第一騎士団の団長、アークフリード・フェリックス・ブランドン公爵
アークフリードには、13年前に守りたいと思っていた紫の髪に紫の瞳をもつエリザベスを守ることができず死なせてしまったという辛い初恋の思い出があった。
そんなアークフリードの前に現れたのは、赤い髪に緑の瞳をもつミーナ
運命はふたりに不思議なめぐりあいの舞台を用意した。
⁂がついている章は性的な場面がありますので、ご注意ください。
「なろう」でも公開しておりますが、そちらではまだ改稿が進んでおりませんので、よろしければこちらでご覧ください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる