106 / 176
第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
十一話 地下
しおりを挟む
階段を下り切った先は、まるで世界が違っていた。
ここが本当に流刻園の地下なのかと、疑ってしまうほどに。
階段の途中で、壁は石造りに変わり、灯りは蛍光灯からカンテラに変わっていった。
中世時代の地下牢。例えるならばそんな感じだろうか。
「……なんて場所だ」
「地下だから肌寒いね……こう寒いと気分も悪くなってくる」
どこからか、ぴちゃり、ぴちゃりと水の音も聞こえてくる。他の音がしない分、その水音がやけに耳についた。
降霊術の研究場所だというのに、こんな風に仰々しい装いにする必要はあるのだろうか? どちらかと言えば、もっとハイテクな設備で固められているべきなのではと思うのだが。
何か、地下牢のようにしなければいけない理由でもあったのか。それとも、この外観はどこか別の場所を参考にしたものだったりするのだろうか……。
廊下を進むと、木製の古びた扉があった。ギイイ、という音とともに扉が開かれると、その先には小部屋が。どうやらそこは、研究資料などを保管しておくスペースのようだった。
壁際には錆びたダクト以外に、三つほど本棚が設置されている。そこに並ぶのは全て怪しげな書物ばかりで、日本語で書かれているものもあれば洋書も多かった。
「霧夏邸に、地下室があったという話は聞いたけれど……もしかしたら、そこを真似ているのかもしれないな」
「そう、なんですか」
「うん……まあ、霧夏邸のことはあまり話せないんだけどね。当事者でもないし」
何度か出てくるその邸宅のことは、ミオさんも詳しく話すつもりがないようだ。自分のこと以上に、その話題は出さないようにしている風に見えた。
しかし、霧夏邸というモチーフがあるのなら、ここがやけに古めかしい理由も納得がいった。
本棚に並ぶ書物の背表紙で、オレが何とか読める日本語の表題は、降霊術だの異常心理学だのといったもの。出版社の名前も見当たらないし、これが正式に流通している本なのかも不明だ。
こんな本が、世の中にはあるのだなあと感心してしまう。
「……ん?」
本棚から少し目を離すと、木製の小さな机の上に、メモ書きが残されているのを発見した。随分昔に書かれたものようで、紙は黄色く変色している。
インクも滲み、所々が判別出来なくなってしまっていたが、読み取れるところではこのような文言が記されていた。
『……■■照とい■男はやはり■■■仇の一人に■違いない■■が■■ぜあの■を■■出す度に■■が……』
『……なことはどうでも■■■むしろ■■出守が最も■讐におい■重要で■■■あの男を■さな■限りは……』
ミオさんも、オレが読んでいるメモ書きが気になったようで、近づいてきて一緒に内容を確認した。
彼は顎に手を当て、しばらくその内容を呻吟していたが、結局オレには何も言うことはなかった。
オレにはさっぱりだが、ミオさんはこれを見て、何かを感じただろうか。
もしそうなら、少しくらいは教えてほしいなと、思わなくもなかったが。
「まだ、奥への扉があるね」
「……ですね」
入ってきた扉とは別に、もう一つの扉が部屋にはあった。
しかし、そちらはどういうわけか、木製ではなく鉄製の扉になっていた。
「この奥が一番重要な場所と……そういうことかな」
「かも、しれませんね」
この小部屋はあくまでも前室だ。
研究施設はきっと、この扉の先にある。
扉のノブを握るミオさんの手も、心なしか震えているように見えた。
けれど、彼は恐れに屈することなく、鉄扉を開いていった。
ここが本当に流刻園の地下なのかと、疑ってしまうほどに。
階段の途中で、壁は石造りに変わり、灯りは蛍光灯からカンテラに変わっていった。
中世時代の地下牢。例えるならばそんな感じだろうか。
「……なんて場所だ」
「地下だから肌寒いね……こう寒いと気分も悪くなってくる」
どこからか、ぴちゃり、ぴちゃりと水の音も聞こえてくる。他の音がしない分、その水音がやけに耳についた。
降霊術の研究場所だというのに、こんな風に仰々しい装いにする必要はあるのだろうか? どちらかと言えば、もっとハイテクな設備で固められているべきなのではと思うのだが。
何か、地下牢のようにしなければいけない理由でもあったのか。それとも、この外観はどこか別の場所を参考にしたものだったりするのだろうか……。
廊下を進むと、木製の古びた扉があった。ギイイ、という音とともに扉が開かれると、その先には小部屋が。どうやらそこは、研究資料などを保管しておくスペースのようだった。
壁際には錆びたダクト以外に、三つほど本棚が設置されている。そこに並ぶのは全て怪しげな書物ばかりで、日本語で書かれているものもあれば洋書も多かった。
「霧夏邸に、地下室があったという話は聞いたけれど……もしかしたら、そこを真似ているのかもしれないな」
「そう、なんですか」
「うん……まあ、霧夏邸のことはあまり話せないんだけどね。当事者でもないし」
何度か出てくるその邸宅のことは、ミオさんも詳しく話すつもりがないようだ。自分のこと以上に、その話題は出さないようにしている風に見えた。
しかし、霧夏邸というモチーフがあるのなら、ここがやけに古めかしい理由も納得がいった。
本棚に並ぶ書物の背表紙で、オレが何とか読める日本語の表題は、降霊術だの異常心理学だのといったもの。出版社の名前も見当たらないし、これが正式に流通している本なのかも不明だ。
こんな本が、世の中にはあるのだなあと感心してしまう。
「……ん?」
本棚から少し目を離すと、木製の小さな机の上に、メモ書きが残されているのを発見した。随分昔に書かれたものようで、紙は黄色く変色している。
インクも滲み、所々が判別出来なくなってしまっていたが、読み取れるところではこのような文言が記されていた。
『……■■照とい■男はやはり■■■仇の一人に■違いない■■が■■ぜあの■を■■出す度に■■が……』
『……なことはどうでも■■■むしろ■■出守が最も■讐におい■重要で■■■あの男を■さな■限りは……』
ミオさんも、オレが読んでいるメモ書きが気になったようで、近づいてきて一緒に内容を確認した。
彼は顎に手を当て、しばらくその内容を呻吟していたが、結局オレには何も言うことはなかった。
オレにはさっぱりだが、ミオさんはこれを見て、何かを感じただろうか。
もしそうなら、少しくらいは教えてほしいなと、思わなくもなかったが。
「まだ、奥への扉があるね」
「……ですね」
入ってきた扉とは別に、もう一つの扉が部屋にはあった。
しかし、そちらはどういうわけか、木製ではなく鉄製の扉になっていた。
「この奥が一番重要な場所と……そういうことかな」
「かも、しれませんね」
この小部屋はあくまでも前室だ。
研究施設はきっと、この扉の先にある。
扉のノブを握るミオさんの手も、心なしか震えているように見えた。
けれど、彼は恐れに屈することなく、鉄扉を開いていった。
0
あなたにおすすめの小説
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる