【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

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第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】

十一話 地下

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 階段を下り切った先は、まるで世界が違っていた。
 ここが本当に流刻園の地下なのかと、疑ってしまうほどに。
 階段の途中で、壁は石造りに変わり、灯りは蛍光灯からカンテラに変わっていった。
 中世時代の地下牢。例えるならばそんな感じだろうか。

「……なんて場所だ」
「地下だから肌寒いね……こう寒いと気分も悪くなってくる」

 どこからか、ぴちゃり、ぴちゃりと水の音も聞こえてくる。他の音がしない分、その水音がやけに耳についた。
 降霊術の研究場所だというのに、こんな風に仰々しい装いにする必要はあるのだろうか? どちらかと言えば、もっとハイテクな設備で固められているべきなのではと思うのだが。
 何か、地下牢のようにしなければいけない理由でもあったのか。それとも、この外観はどこか別の場所を参考にしたものだったりするのだろうか……。
 廊下を進むと、木製の古びた扉があった。ギイイ、という音とともに扉が開かれると、その先には小部屋が。どうやらそこは、研究資料などを保管しておくスペースのようだった。
 壁際には錆びたダクト以外に、三つほど本棚が設置されている。そこに並ぶのは全て怪しげな書物ばかりで、日本語で書かれているものもあれば洋書も多かった。

「霧夏邸に、地下室があったという話は聞いたけれど……もしかしたら、そこを真似ているのかもしれないな」
「そう、なんですか」
「うん……まあ、霧夏邸のことはあまり話せないんだけどね。当事者でもないし」

 何度か出てくるその邸宅のことは、ミオさんも詳しく話すつもりがないようだ。自分のこと以上に、その話題は出さないようにしている風に見えた。
 しかし、霧夏邸というモチーフがあるのなら、ここがやけに古めかしい理由も納得がいった。
 本棚に並ぶ書物の背表紙で、オレが何とか読める日本語の表題は、降霊術だの異常心理学だのといったもの。出版社の名前も見当たらないし、これが正式に流通している本なのかも不明だ。
 こんな本が、世の中にはあるのだなあと感心してしまう。

「……ん?」

 本棚から少し目を離すと、木製の小さな机の上に、メモ書きが残されているのを発見した。随分昔に書かれたものようで、紙は黄色く変色している。
 インクも滲み、所々が判別出来なくなってしまっていたが、読み取れるところではこのような文言が記されていた。


『……■■照とい■男はやはり■■■仇の一人に■違いない■■が■■ぜあの■を■■出す度に■■が……』
『……なことはどうでも■■■むしろ■■出守が最も■讐におい■重要で■■■あの男を■さな■限りは……』

 ミオさんも、オレが読んでいるメモ書きが気になったようで、近づいてきて一緒に内容を確認した。
 彼は顎に手を当て、しばらくその内容を呻吟していたが、結局オレには何も言うことはなかった。
 オレにはさっぱりだが、ミオさんはこれを見て、何かを感じただろうか。
 もしそうなら、少しくらいは教えてほしいなと、思わなくもなかったが。

「まだ、奥への扉があるね」
「……ですね」

 入ってきた扉とは別に、もう一つの扉が部屋にはあった。
 しかし、そちらはどういうわけか、木製ではなく鉄製の扉になっていた。

「この奥が一番重要な場所と……そういうことかな」
「かも、しれませんね」

 この小部屋はあくまでも前室だ。
 研究施設はきっと、この扉の先にある。
 扉のノブを握るミオさんの手も、心なしか震えているように見えた。
 けれど、彼は恐れに屈することなく、鉄扉を開いていった。
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