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第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
十二話 清水
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「……これは」
「……と、とんでもないな……」
扉の先に広がる大部屋。
ざっと見た感じでも二十畳以上はありそうなその部屋には、今まで生きてきて一度も見たことがない、異様な光景があった。
全長二メートル以上もある、不気味な機械装置。ワープロのキーボードのようなものが付いていて、各ボタンで操作が出来るようだがちんぷんかんぷんだ。
その奥にもまた機械があったが、その上部には怪しげな液体がたっぷり入った試験管が幾つも刺さっている。
機械の端からはダクトが伸びており、それはまた別の機械に繋がっていた。
他にも異臭のするコンテナや割れたフラスコ、ボロボロになって読めなくなった本の山と、気味の悪い物が沢山散らばっていた。
マッドサイエンティストの隠れ家、というのがピッタリな場所だ。
まさか人間の死体までは無いだろうが……こういうところなら、出てきてもおかしくないという考えにさせられる。
あまりの異常さに、胃がキリキリと痛んだ。
「……まさしく、実験室といった趣だね」
ミオさんが、ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。彼とて落ち着いた風には見えるけれど、やはり緊張しているのだ。
それほどに、この場所はおぞましい雰囲気を放っていた。
すっかり部屋の空気に呑まれ、吐き気すら感じ始めたとき。
オレは逸らした視線の先に、不可解なものがあるのに気付いた。
「……あれは」
「うん?」
ミオさんも、少し遅れてそのあるものに気付く。
この研究室の左側には、四角く枠取りをするようにタイルが張られ、その枠の中には溝が作られていたのだ。
まるで小さなプールのよう、と言えば分かりやすいだろうか。
そう、溝の中にはプールのように、澄んだ水が蓄えられていた。
「……これは、ひょっとして『清めの水』か……?」
「これが……ですか」
「うん。一体この空間が誰の思いによって作られているのかはまだ分からないけれど。この水があれば、きっとこの空間を解放することができるよ……」
勿論、それには使用者の頑張りが必要なわけだけれど。
とりあえず、スタートラインには立てたというか、戦闘準備はこれで出来たということだな。
「よし、フタ付きの空き瓶が捨てられてるし、これに水を入れておこう。ほら……僕と君とで二人分。とりあえず、霊が現れてもこれで絶体絶命というわけじゃあなくなる。微かな光明は差したっていう感じかな」
「ええ、打つ手無しというわけじゃない……」
怪物が襲ってきても、さっきのミオさんのように退けることが出来る。
情けなく逃げなくとも、ミイちゃんを守ることが出来る。
「しかし、こうなると誰がこの場を作り出したのかが重要になってくるね。そちらの方も探っていかないといけないかもしれない……」
「まあ、現れる霊を清めていけばいずれ……という気もしますけど」
「はは、確かに。真実は案外、勝手に紐解かれるものなのかもしれないか」
真実、か。それはどのような構図なのだろう。
ここで起きた、或いは起きていることのカタチそのものが、オレには全く分からない。
どうしてオレとリクは仮面の男に呼ばれ、実験の被験者にされ、気絶させられたのか。
どうしてミイちゃんのお母さんが死に、校内に化物どもが現れたのか……。
頭の痛いことだらけだ。
「ううん、これ以上の収穫はないかもだけど、念のためにちょっとここを調べてみようかな?」
「……そうしましょうか」
それから十分ほど、ミオさんと二人で研究室内を漁ってみたものの、彼が最初に言った通り、清めの水以上の収穫は無かったのだった。
「……と、とんでもないな……」
扉の先に広がる大部屋。
ざっと見た感じでも二十畳以上はありそうなその部屋には、今まで生きてきて一度も見たことがない、異様な光景があった。
全長二メートル以上もある、不気味な機械装置。ワープロのキーボードのようなものが付いていて、各ボタンで操作が出来るようだがちんぷんかんぷんだ。
その奥にもまた機械があったが、その上部には怪しげな液体がたっぷり入った試験管が幾つも刺さっている。
機械の端からはダクトが伸びており、それはまた別の機械に繋がっていた。
他にも異臭のするコンテナや割れたフラスコ、ボロボロになって読めなくなった本の山と、気味の悪い物が沢山散らばっていた。
マッドサイエンティストの隠れ家、というのがピッタリな場所だ。
まさか人間の死体までは無いだろうが……こういうところなら、出てきてもおかしくないという考えにさせられる。
あまりの異常さに、胃がキリキリと痛んだ。
「……まさしく、実験室といった趣だね」
ミオさんが、ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。彼とて落ち着いた風には見えるけれど、やはり緊張しているのだ。
それほどに、この場所はおぞましい雰囲気を放っていた。
すっかり部屋の空気に呑まれ、吐き気すら感じ始めたとき。
オレは逸らした視線の先に、不可解なものがあるのに気付いた。
「……あれは」
「うん?」
ミオさんも、少し遅れてそのあるものに気付く。
この研究室の左側には、四角く枠取りをするようにタイルが張られ、その枠の中には溝が作られていたのだ。
まるで小さなプールのよう、と言えば分かりやすいだろうか。
そう、溝の中にはプールのように、澄んだ水が蓄えられていた。
「……これは、ひょっとして『清めの水』か……?」
「これが……ですか」
「うん。一体この空間が誰の思いによって作られているのかはまだ分からないけれど。この水があれば、きっとこの空間を解放することができるよ……」
勿論、それには使用者の頑張りが必要なわけだけれど。
とりあえず、スタートラインには立てたというか、戦闘準備はこれで出来たということだな。
「よし、フタ付きの空き瓶が捨てられてるし、これに水を入れておこう。ほら……僕と君とで二人分。とりあえず、霊が現れてもこれで絶体絶命というわけじゃあなくなる。微かな光明は差したっていう感じかな」
「ええ、打つ手無しというわけじゃない……」
怪物が襲ってきても、さっきのミオさんのように退けることが出来る。
情けなく逃げなくとも、ミイちゃんを守ることが出来る。
「しかし、こうなると誰がこの場を作り出したのかが重要になってくるね。そちらの方も探っていかないといけないかもしれない……」
「まあ、現れる霊を清めていけばいずれ……という気もしますけど」
「はは、確かに。真実は案外、勝手に紐解かれるものなのかもしれないか」
真実、か。それはどのような構図なのだろう。
ここで起きた、或いは起きていることのカタチそのものが、オレには全く分からない。
どうしてオレとリクは仮面の男に呼ばれ、実験の被験者にされ、気絶させられたのか。
どうしてミイちゃんのお母さんが死に、校内に化物どもが現れたのか……。
頭の痛いことだらけだ。
「ううん、これ以上の収穫はないかもだけど、念のためにちょっとここを調べてみようかな?」
「……そうしましょうか」
それから十分ほど、ミオさんと二人で研究室内を漁ってみたものの、彼が最初に言った通り、清めの水以上の収穫は無かったのだった。
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