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第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
二十七話 黒靄
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教室から出ると、その先には廊下が伸びていた。
しかし、崩壊しかけのリクの心象世界というだけあって、その風景は普通じゃない。
ネガポジが反転しているのはさっきと同じとして、この廊下には殆ど壁が無かった。
廃墟のように崩れてしまっているのだが、その先には地獄のような赤と黒のグラデーションが広がっている。
少しだけ、崩れた壁から顔を出して下を見てみると、そのグラデーションは下にも続いていた。
直感で分かる。心象世界の中で、この教室と廊下だけが辛うじて形を留めているのだから、ここから外れてしまったら身動きが取れなくなりそうだ。赤と黒の空間を、永遠に落ち続けることになったりするのだろうか。
「落ちないようにしなきゃな」
「うん。離れないようにしないとね」
ミイちゃんは、その細い体を寄せてくる。
冷たい世界の中で、彼女だけが温かい存在だった。
「……先に進むしかないんだろうけど」
廊下の先に目を向ける。
しかし、進む先は壁だけでなく、床すらも崩落してしまっている状態だ。
二年一組以外の教室も形だけは何とかあるようなので、迂回しながら進んでいくことになるだろう。
完全に途切れているところは、飛び越すしかなさそうだが。
「……ん?」
前方を見つめ続けていると、そこに黒いもやのようなものがあることに気が付く。
色は黒いのだが、何となくオレはガラス瓶に詰めていたリクの魂を思い出した。
「これは……」
「何だろう……思念?」
ミイちゃんも同じような想像をしたらしい。
ある程度丸みを持っているそのもやは、ふわりふわりと空間内を漂っている。
「もしかして、これ……」
この記憶世界はリクのものだが、リクは今、オレたちの魂を全て取り込んでいる。
なら、ここに漂う思念の数々は、リクやオレたちのものなんじゃないだろうか。
「もしこれが、私たちの魂の欠片みたいなものだったら」
「この中からリクのものだけを追い出すようなことが出来れば……」
最終的にはリクの魂を弾き出すことも出来るかもしれない。
「試してみようよ、ユウくん」
「ま、それしかねえかな」
ここまで来たら、難しいことを考えていても仕方がない。
なるようになれ――いや、なるようにしてみせるだけだ。
オレは、黒いもやに手をかざす。
すると、触れた手を通して記憶の断片が、オレの頭の中に流れ込んできた。
放課後の教室。
クラスメイトたちがいなくなった教室で、ミイちゃんと二人、語り合った日の光景。
校庭で熱心に部活動に励む生徒たちを見下ろしながら、オレたちは仲良く話をしていた。
「……だから、これは七不思議とはちょっと違うかもしれないんだけどね」
いつ頃の記憶だろうか。多分、オレがこうなるより二ヶ月ほど前のことだろうか。
ただ、一つだけ確実に言えるのは、これは他の誰でもない、オレの記憶だということ。
「メイさんが学生だった頃一緒だったその子は、素敵な人だけど近寄りがたいって感じだったみたい」
「へえ……。その子の名前は?」
「何だったかなー。マイちゃんとかマミちゃんとかだった気がするなあ……」
いつもの、他愛のないお喋り。
確かこの日は、流刻園にその昔在籍していた不思議な学生の話をしていた筈だ。
その子の名前がマイちゃんなのかマミちゃんなのかは、ついぞ分からなかったけれど。
まあ普段通り、半分聞き流しながらも楽しい時間を過ごしていたものだ。
記憶を、オレの中へ取り込む。
さほど難しいことではなかった。
記憶世界というものは、そういうことが出来るようになっているらしい。
取り込みが終わると、手を触れていた黒いもやは輪郭を無くし、やがて消えていった。
「……これで、一つ」
「上手くいったの?」
「ああ、何とかなりそうだ」
この調子で全ての記憶を選別し、リク以外のものは取り込み、リクのものだけは弾き出す。
そうすることで、リクの思惑を打ち破ることは出来そうだった。
しかし、崩壊しかけのリクの心象世界というだけあって、その風景は普通じゃない。
ネガポジが反転しているのはさっきと同じとして、この廊下には殆ど壁が無かった。
廃墟のように崩れてしまっているのだが、その先には地獄のような赤と黒のグラデーションが広がっている。
少しだけ、崩れた壁から顔を出して下を見てみると、そのグラデーションは下にも続いていた。
直感で分かる。心象世界の中で、この教室と廊下だけが辛うじて形を留めているのだから、ここから外れてしまったら身動きが取れなくなりそうだ。赤と黒の空間を、永遠に落ち続けることになったりするのだろうか。
「落ちないようにしなきゃな」
「うん。離れないようにしないとね」
ミイちゃんは、その細い体を寄せてくる。
冷たい世界の中で、彼女だけが温かい存在だった。
「……先に進むしかないんだろうけど」
廊下の先に目を向ける。
しかし、進む先は壁だけでなく、床すらも崩落してしまっている状態だ。
二年一組以外の教室も形だけは何とかあるようなので、迂回しながら進んでいくことになるだろう。
完全に途切れているところは、飛び越すしかなさそうだが。
「……ん?」
前方を見つめ続けていると、そこに黒いもやのようなものがあることに気が付く。
色は黒いのだが、何となくオレはガラス瓶に詰めていたリクの魂を思い出した。
「これは……」
「何だろう……思念?」
ミイちゃんも同じような想像をしたらしい。
ある程度丸みを持っているそのもやは、ふわりふわりと空間内を漂っている。
「もしかして、これ……」
この記憶世界はリクのものだが、リクは今、オレたちの魂を全て取り込んでいる。
なら、ここに漂う思念の数々は、リクやオレたちのものなんじゃないだろうか。
「もしこれが、私たちの魂の欠片みたいなものだったら」
「この中からリクのものだけを追い出すようなことが出来れば……」
最終的にはリクの魂を弾き出すことも出来るかもしれない。
「試してみようよ、ユウくん」
「ま、それしかねえかな」
ここまで来たら、難しいことを考えていても仕方がない。
なるようになれ――いや、なるようにしてみせるだけだ。
オレは、黒いもやに手をかざす。
すると、触れた手を通して記憶の断片が、オレの頭の中に流れ込んできた。
放課後の教室。
クラスメイトたちがいなくなった教室で、ミイちゃんと二人、語り合った日の光景。
校庭で熱心に部活動に励む生徒たちを見下ろしながら、オレたちは仲良く話をしていた。
「……だから、これは七不思議とはちょっと違うかもしれないんだけどね」
いつ頃の記憶だろうか。多分、オレがこうなるより二ヶ月ほど前のことだろうか。
ただ、一つだけ確実に言えるのは、これは他の誰でもない、オレの記憶だということ。
「メイさんが学生だった頃一緒だったその子は、素敵な人だけど近寄りがたいって感じだったみたい」
「へえ……。その子の名前は?」
「何だったかなー。マイちゃんとかマミちゃんとかだった気がするなあ……」
いつもの、他愛のないお喋り。
確かこの日は、流刻園にその昔在籍していた不思議な学生の話をしていた筈だ。
その子の名前がマイちゃんなのかマミちゃんなのかは、ついぞ分からなかったけれど。
まあ普段通り、半分聞き流しながらも楽しい時間を過ごしていたものだ。
記憶を、オレの中へ取り込む。
さほど難しいことではなかった。
記憶世界というものは、そういうことが出来るようになっているらしい。
取り込みが終わると、手を触れていた黒いもやは輪郭を無くし、やがて消えていった。
「……これで、一つ」
「上手くいったの?」
「ああ、何とかなりそうだ」
この調子で全ての記憶を選別し、リク以外のものは取り込み、リクのものだけは弾き出す。
そうすることで、リクの思惑を打ち破ることは出来そうだった。
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