【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

文字の大きさ
122 / 176
第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】

二十七話 黒靄

しおりを挟む
 教室から出ると、その先には廊下が伸びていた。
 しかし、崩壊しかけのリクの心象世界というだけあって、その風景は普通じゃない。
 ネガポジが反転しているのはさっきと同じとして、この廊下には殆ど壁が無かった。
 廃墟のように崩れてしまっているのだが、その先には地獄のような赤と黒のグラデーションが広がっている。
 少しだけ、崩れた壁から顔を出して下を見てみると、そのグラデーションは下にも続いていた。
 直感で分かる。心象世界の中で、この教室と廊下だけが辛うじて形を留めているのだから、ここから外れてしまったら身動きが取れなくなりそうだ。赤と黒の空間を、永遠に落ち続けることになったりするのだろうか。

「落ちないようにしなきゃな」
「うん。離れないようにしないとね」

 ミイちゃんは、その細い体を寄せてくる。
 冷たい世界の中で、彼女だけが温かい存在だった。

「……先に進むしかないんだろうけど」

 廊下の先に目を向ける。
 しかし、進む先は壁だけでなく、床すらも崩落してしまっている状態だ。
 二年一組以外の教室も形だけは何とかあるようなので、迂回しながら進んでいくことになるだろう。
 完全に途切れているところは、飛び越すしかなさそうだが。

「……ん?」

 前方を見つめ続けていると、そこに黒いもやのようなものがあることに気が付く。
 色は黒いのだが、何となくオレはガラス瓶に詰めていたリクの魂を思い出した。

「これは……」
「何だろう……思念?」

 ミイちゃんも同じような想像をしたらしい。
 ある程度丸みを持っているそのもやは、ふわりふわりと空間内を漂っている。

「もしかして、これ……」

 この記憶世界はリクのものだが、リクは今、オレたちの魂を全て取り込んでいる。
 なら、ここに漂う思念の数々は、リクやオレたちのものなんじゃないだろうか。

「もしこれが、私たちの魂の欠片みたいなものだったら」
「この中からリクのものだけを追い出すようなことが出来れば……」

 最終的にはリクの魂を弾き出すことも出来るかもしれない。

「試してみようよ、ユウくん」
「ま、それしかねえかな」

 ここまで来たら、難しいことを考えていても仕方がない。
 なるようになれ――いや、なるようにしてみせるだけだ。
 オレは、黒いもやに手をかざす。
 すると、触れた手を通して記憶の断片が、オレの頭の中に流れ込んできた。


 放課後の教室。
 クラスメイトたちがいなくなった教室で、ミイちゃんと二人、語り合った日の光景。
 校庭で熱心に部活動に励む生徒たちを見下ろしながら、オレたちは仲良く話をしていた。

「……だから、これは七不思議とはちょっと違うかもしれないんだけどね」

 いつ頃の記憶だろうか。多分、オレがこうなるより二ヶ月ほど前のことだろうか。
 ただ、一つだけ確実に言えるのは、これは他の誰でもない、オレの記憶だということ。

「メイさんが学生だった頃一緒だったその子は、素敵な人だけど近寄りがたいって感じだったみたい」
「へえ……。その子の名前は?」
「何だったかなー。マイちゃんとかマミちゃんとかだった気がするなあ……」

 いつもの、他愛のないお喋り。
 確かこの日は、流刻園にその昔在籍していた不思議な学生の話をしていた筈だ。
 その子の名前がマイちゃんなのかマミちゃんなのかは、ついぞ分からなかったけれど。
 まあ普段通り、半分聞き流しながらも楽しい時間を過ごしていたものだ。


 記憶を、オレの中へ取り込む。
 さほど難しいことではなかった。
 記憶世界というものは、そういうことが出来るようになっているらしい。
 取り込みが終わると、手を触れていた黒いもやは輪郭を無くし、やがて消えていった。

「……これで、一つ」
「上手くいったの?」
「ああ、何とかなりそうだ」

 この調子で全ての記憶を選別し、リク以外のものは取り込み、リクのものだけは弾き出す。
 そうすることで、リクの思惑を打ち破ることは出来そうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

処理中です...