125 / 176
第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
三十話 流刻園幻想
しおりを挟む
リクの記憶世界の崩壊とともに、中にいたオレとミイちゃん、そしてユウキも現実世界へ戻ってきた。
無論それは、魂のみの存在としてではあるけれど。
戻ってきた場所は校長室で。
そこにはちょうど、ミオさんとミイナ、エイコちゃんも待機してくれていた。
「……無事に戻ってきたね、みんな」
ミオさんが、ほっと安堵の息を吐く。
手に空っぽのガラス瓶を持っているところから察するに、この校長室でミオさんたちも戦ってくれていたのかもしれない。
現実と記憶の世界、双方からリクの力を弱めたことで、オレたちはあいつに打ち勝つことが出来たのだ。
そうして、あいつは消えていった……。
「気が付けば勢揃いだな……」
ユウキの声をちゃんと聞けたのは、これが初めてかもしれない。
やっぱり彼も、オレにとてもよく似ている。姿は勿論分かっていたけど、雰囲気もそうだ。
新垣勇気。ミイナと同じく、オレとミイちゃんの子ども。
全く身に覚えがないのに我が子がいるとは不思議なものだ。
「ユウキくんっ!」
「うわっと、エイコちゃん……」
感極まって、エイコちゃんがユウキに抱きつく。
互いに霊体なので、その体は決してすり抜けたりしなかった。
「……ただいま、ミオさん。……ミイナも」
「う、うん。……ユウサクさん、お母さん」
戻ってこれたというのに表情が晴れないので、心配したミオさんが、
「……浮かない顔、してるね?」
と、オレに投げかけてくる。
「……いいえ、大丈夫です。ミイちゃんの言う通り、全部終わったんだから……それで良しとしますよ。そうするしかないんだし」
「……そっか」
リクの笑顔。
きっとオレに出来ることは、彼の存在を忘れぬよう、最期の言葉を守るくらいだ。
そうすれば、何もかもが無くなってしまった彼を、それでも存在したんだと言えるから。
「……あのさ、エイコちゃん」
互いの体を離してから、ユウキが改まった態度でエイコちゃんの名前を呼んだ。突然の変化に彼女は驚き、
「……な、なにかしら?」
言葉を詰まらせながら聞き返す。
「そのー……こんなことになってからで、あんまりにも遅すぎるけどさ。俺、幸せな恋のかたちっていうのがようやく、分かったと思うんだ」
そこでユウキは、照れ臭そうに鼻の辺りを擦りながら、オレとミイちゃんの方を見る。
幸せな恋のかたち、か。ユウキもきっと、記憶世界の中でオレたちの思い出を垣間見たんだろう。
とても幸せで、温かな日々の思い出を。
「はは。……まあ、だからね? 俺からちゃんと言います」
ユウキは一つ深呼吸をして、いつかの告白に改めての答えを返した。
「好きだよ、エイコちゃん」
曇り一つない純粋な答えに。
エイコちゃんは感激のあまり涙すら流しながら、もう一度ユウキの懐に飛び込むのだった。
「ユウキくん――!」
「わっ、泣きすぎだよ馬鹿……」
胸に顔を埋めるエイコちゃんに、ユウキは優しくその頭を撫でている。
初々しいけれど、素敵な青春だ。
その青春が、この世界で続いてほしかったものだけれど。
「恋はいいねえ」
「だねー……昔の私たち、見てるみたい」
「オレにとっちゃそれ、数時間前なんだぜ?」
「へへ……そうだったね」
時は万物を運び去る。誰かの名言だったか。
そう、けれども変わらないものがあると、信じていたいのだ。
大切な人との繋がり。それは決して運び去れやしない。
ずっとずっと、途切れることなく在り続ける筈だ。
「……夜が、明け始めたね」
窓から入る光に気付いて、ミオさんが呟いた。
既に流刻園の封印は解かれ、現実は正しい時間を刻み始めている。
「もう……魔法が解ける時間ってところかな」
ミオさんの言う通り、これは魔法みたいなものだったのかもしれない。
本来ならオレは、あの日屋上で魂を抜かれたまま……果てなく彷徨うことになっていただろうから。
こうして再び戻ってこれたこと。ミイちゃんと思いを確かめられたこと。
それは、魔法か奇跡かだったということだ。
「ごめんね、ミイナ。あなた一人を置いていくことになってしまって。これからずっと長い間……ミイナには、寂しい思いをさせてしまうと思う」
ミイちゃんが母親として、ミイナに言葉をかける。
リクの暴走によってオレたち一家は惨殺され……残されたのはミイナだけになった。
父親も母親も、そして兄弟すらも喪って。たった一人になる彼女の気持ちを考えると、あまりにも胸が痛い。
それでも、これを現実として背負い、生きていくしかないのだ。
生きていってほしいのだ。
「……でも、ミイナなら大丈夫だよね? だって……わたしとユウくんの、娘なんだもの」
「そうだぜ。どんなときだって、何でもないんだと笑い飛ばしてやるんだ。そして、元気で生きてけ……ミイナ」
生と死。こんなに近いのに、遠くなってしまったオレたちだけど。
遺せるものはもう、言葉くらいしかないけど。
せめてその言葉を、心を込めて伝える。
オレたちは、ミイナの親なのだから。
「……うん。ありがとう、お母さん……お父さん」
絶対に、胸が張り裂けそうなほどに苦しい筈なのに。
ミイナは、オレたちに笑顔を浮かべてくれた。
せめて最後の瞬間だけは、元気でお別れしようと思ってくれているのだろう。
流石はオレたちの娘だな、と思う。
ミイナなら……強く、生きていけるさ。
「……これでお別れだけど、最後じゃないぜ。長いお別れでも、オレたちはまたいつか必ず会える」
「だね。……それまでの、ちょっぴり長いお別れ」
「そう。それが生者と死者の、お別れのかたちなんだよね……」
オレたちの言葉に、ミオさんも同意してくれる。
彼もまた、大切な人との長いお別れを経験したであろう人だ。
思いを分かってくれるのは、とても嬉しいことだった。
「お父さん、お母さん、ユウくん、エイコちゃん! また――また、会う日まで……!」
朝陽が強くなるとともに、姿を失っていくオレたちに。
ミイナは声を張り上げ別れを告げる。
だから、オレたちも出来る限りの笑顔と言葉で、それに応えた。
「えへへ。また会う日まで、ね」
「ええ……それまで、少しだけ」
「さようなら。オレの、オレたちの大切な――」
――ミイナ。
そしてオレたちは、こちら側からあちら側の世界へと、旅立っていくのだった――。
無論それは、魂のみの存在としてではあるけれど。
戻ってきた場所は校長室で。
そこにはちょうど、ミオさんとミイナ、エイコちゃんも待機してくれていた。
「……無事に戻ってきたね、みんな」
ミオさんが、ほっと安堵の息を吐く。
手に空っぽのガラス瓶を持っているところから察するに、この校長室でミオさんたちも戦ってくれていたのかもしれない。
現実と記憶の世界、双方からリクの力を弱めたことで、オレたちはあいつに打ち勝つことが出来たのだ。
そうして、あいつは消えていった……。
「気が付けば勢揃いだな……」
ユウキの声をちゃんと聞けたのは、これが初めてかもしれない。
やっぱり彼も、オレにとてもよく似ている。姿は勿論分かっていたけど、雰囲気もそうだ。
新垣勇気。ミイナと同じく、オレとミイちゃんの子ども。
全く身に覚えがないのに我が子がいるとは不思議なものだ。
「ユウキくんっ!」
「うわっと、エイコちゃん……」
感極まって、エイコちゃんがユウキに抱きつく。
互いに霊体なので、その体は決してすり抜けたりしなかった。
「……ただいま、ミオさん。……ミイナも」
「う、うん。……ユウサクさん、お母さん」
戻ってこれたというのに表情が晴れないので、心配したミオさんが、
「……浮かない顔、してるね?」
と、オレに投げかけてくる。
「……いいえ、大丈夫です。ミイちゃんの言う通り、全部終わったんだから……それで良しとしますよ。そうするしかないんだし」
「……そっか」
リクの笑顔。
きっとオレに出来ることは、彼の存在を忘れぬよう、最期の言葉を守るくらいだ。
そうすれば、何もかもが無くなってしまった彼を、それでも存在したんだと言えるから。
「……あのさ、エイコちゃん」
互いの体を離してから、ユウキが改まった態度でエイコちゃんの名前を呼んだ。突然の変化に彼女は驚き、
「……な、なにかしら?」
言葉を詰まらせながら聞き返す。
「そのー……こんなことになってからで、あんまりにも遅すぎるけどさ。俺、幸せな恋のかたちっていうのがようやく、分かったと思うんだ」
そこでユウキは、照れ臭そうに鼻の辺りを擦りながら、オレとミイちゃんの方を見る。
幸せな恋のかたち、か。ユウキもきっと、記憶世界の中でオレたちの思い出を垣間見たんだろう。
とても幸せで、温かな日々の思い出を。
「はは。……まあ、だからね? 俺からちゃんと言います」
ユウキは一つ深呼吸をして、いつかの告白に改めての答えを返した。
「好きだよ、エイコちゃん」
曇り一つない純粋な答えに。
エイコちゃんは感激のあまり涙すら流しながら、もう一度ユウキの懐に飛び込むのだった。
「ユウキくん――!」
「わっ、泣きすぎだよ馬鹿……」
胸に顔を埋めるエイコちゃんに、ユウキは優しくその頭を撫でている。
初々しいけれど、素敵な青春だ。
その青春が、この世界で続いてほしかったものだけれど。
「恋はいいねえ」
「だねー……昔の私たち、見てるみたい」
「オレにとっちゃそれ、数時間前なんだぜ?」
「へへ……そうだったね」
時は万物を運び去る。誰かの名言だったか。
そう、けれども変わらないものがあると、信じていたいのだ。
大切な人との繋がり。それは決して運び去れやしない。
ずっとずっと、途切れることなく在り続ける筈だ。
「……夜が、明け始めたね」
窓から入る光に気付いて、ミオさんが呟いた。
既に流刻園の封印は解かれ、現実は正しい時間を刻み始めている。
「もう……魔法が解ける時間ってところかな」
ミオさんの言う通り、これは魔法みたいなものだったのかもしれない。
本来ならオレは、あの日屋上で魂を抜かれたまま……果てなく彷徨うことになっていただろうから。
こうして再び戻ってこれたこと。ミイちゃんと思いを確かめられたこと。
それは、魔法か奇跡かだったということだ。
「ごめんね、ミイナ。あなた一人を置いていくことになってしまって。これからずっと長い間……ミイナには、寂しい思いをさせてしまうと思う」
ミイちゃんが母親として、ミイナに言葉をかける。
リクの暴走によってオレたち一家は惨殺され……残されたのはミイナだけになった。
父親も母親も、そして兄弟すらも喪って。たった一人になる彼女の気持ちを考えると、あまりにも胸が痛い。
それでも、これを現実として背負い、生きていくしかないのだ。
生きていってほしいのだ。
「……でも、ミイナなら大丈夫だよね? だって……わたしとユウくんの、娘なんだもの」
「そうだぜ。どんなときだって、何でもないんだと笑い飛ばしてやるんだ。そして、元気で生きてけ……ミイナ」
生と死。こんなに近いのに、遠くなってしまったオレたちだけど。
遺せるものはもう、言葉くらいしかないけど。
せめてその言葉を、心を込めて伝える。
オレたちは、ミイナの親なのだから。
「……うん。ありがとう、お母さん……お父さん」
絶対に、胸が張り裂けそうなほどに苦しい筈なのに。
ミイナは、オレたちに笑顔を浮かべてくれた。
せめて最後の瞬間だけは、元気でお別れしようと思ってくれているのだろう。
流石はオレたちの娘だな、と思う。
ミイナなら……強く、生きていけるさ。
「……これでお別れだけど、最後じゃないぜ。長いお別れでも、オレたちはまたいつか必ず会える」
「だね。……それまでの、ちょっぴり長いお別れ」
「そう。それが生者と死者の、お別れのかたちなんだよね……」
オレたちの言葉に、ミオさんも同意してくれる。
彼もまた、大切な人との長いお別れを経験したであろう人だ。
思いを分かってくれるのは、とても嬉しいことだった。
「お父さん、お母さん、ユウくん、エイコちゃん! また――また、会う日まで……!」
朝陽が強くなるとともに、姿を失っていくオレたちに。
ミイナは声を張り上げ別れを告げる。
だから、オレたちも出来る限りの笑顔と言葉で、それに応えた。
「えへへ。また会う日まで、ね」
「ええ……それまで、少しだけ」
「さようなら。オレの、オレたちの大切な――」
――ミイナ。
そしてオレたちは、こちら側からあちら側の世界へと、旅立っていくのだった――。
0
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
西伊豆の廃屋から東京のタワマンへ。美しき食人鬼たちは、人間を喰らって愛を成す
秦江湖
ライト文芸
【美しき兄妹、実は食人鬼】
西伊豆の心中屋敷に踏み込んだ者たちは、二度と帰ってこない。 そこにいたのは、か弱い兄妹ではなく、獲物を待つ「捕食者」だった。
精神病棟から帰還した妹・世璃(より)は、死んだ姉の皮を被った「人食いの怪物」。 足の不自由な兄・静(しずか)は、妹に「肉」を与える冷徹な支配者。
遺産目当ての叔父、善意を押し付ける教師、興味本位の配信者、そして因習に縛られた自警団……。 「弱者」を狩りに来たつもりの愚か者から順番に、今日の献立が決まっていく。
それは食事であり、共犯の儀式であり、二人だけの愛の証明。
西伊豆の廃屋から、東京のタワーマンションへ。 最上階を新たな「城」にした二人の、残酷で美しい捕食記録が幕を開ける。
「お兄様、今日のごはんはなあに?」 「――ああ、今日はとても元気のいい『獲物』が届いたよ」
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる