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幕間2
流谷めいの記憶
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刻は遡る。
「……なるほど」
闇に鎖された流刻園。
その音楽室の中で、彼女は一人の人物と言葉を交わしていた。
彼女の名は、流谷めい。
この流刻園で過去、病のために命を落とした女性であり、また学園創始者の娘でもあった。
「……じゃあその子は、お姉さんたちの魂を自分の心の世界へ入れて、魂の力の修復を試みたのね」
「ええ。本人からそう聞きましたけど……」
彼女が話している相手は、円藤深央。
以前三神院で引き起こされた降霊術の暴走を、見事に終息させた人物の一人だ。
事件の過程でメイの親族が命を奪われたことは痛ましく思っていたのだが、それ以上に彼女は、一連の事件に関してどうしても伝えておきたい情報を有していたのだ。
降霊術に関わる事件を止めようとしているものに、その情報を伝えたかったのだ。
「自分の世界へ死んだ姉を招いた際、気付いたそうです。あの子も、ずっとずっと眠っていて寂しかったでしょうから」
「それ以外にも、多分こういうことがあったかもしれないわね。他者の魂を近くに感じるとき、そのエネルギーを吸収しているような感覚があるとか……」
「そこまでは聞いていませんが……あるのかもしれません」
自分の中で萌芽しつつある仮説を、強固なものにするための手掛かり。
ミオからそれを確認して、メイの仮説は殆ど確信へと変わっていた。
「……とにかく、これではっきりしたわ。魂というものが、他の魂のエネルギーを吸収することのできるものだということがね」
「それは……つまり?」
「……いえ、ただ単に知りたかっただけよ。私がその方法を使いたい、なんていうわけじゃないからね?」
「え、ええ。それは分かってますよ」
からかい気味に言うと、ミオはそんなこと考えてもいないとばかりに手を振った。
その仕草に、可愛らしい少年だとほくそ笑みつつ、メイは続ける。
「それにまあ、ここで起きている事件にも、その方法が使われる可能性があるかと思っていてね。ほとんど当てずっぽうのようなものだけど」
「……なるほど?」
「一応、気には留めておいてちょうだい」
メイはミオに対し、簡単にではあるがそう忠告しておいた。
そしてその忠告は、後に現実のものとなるのだが。
「……ところで、どうしてメイさんは、ユウサクくんのことを知ってたんです?」
「ああ、それはアイから聞いたのよ。流谷あい」
「なるほど……」
流谷あいこそ、三神院でその命を喪うこととなった、メイの親族だ。
ドールの策略により実験の被験者にさせられ、術の暴走により怪物と化した恋人に命を奪われた、悲しき犠牲者。
ミオたちによって事件が解決した後、彼女の魂はメイの元までやって来て、彼女にドールの情報を伝えてくれたのだ。
それから、浄化された恋人とともに、あちら側の世界へと旅立っていった……。
ミオ自身は意識していないが、メイにとって彼は、親族とその恋人の魂を救済してくれた恩人でもあったのである。
「……希望の少ない賭けだった。貴方が来てくれたこと、感謝しているわ」
「メイさん……」
彼女は相変わらずの謎めいた笑みを浮かべながら言う。
「あなたのような人に会うために、私はきっと、ここにいた」
遥か昔より連鎖する、降霊術の悲劇。
その悲劇に終止符を打つ存在に、出会うために。
「ミオくん。あなたに伝えておくわ。この伍横町でこれから何が起きようとしているのかを――」
「……なるほど」
闇に鎖された流刻園。
その音楽室の中で、彼女は一人の人物と言葉を交わしていた。
彼女の名は、流谷めい。
この流刻園で過去、病のために命を落とした女性であり、また学園創始者の娘でもあった。
「……じゃあその子は、お姉さんたちの魂を自分の心の世界へ入れて、魂の力の修復を試みたのね」
「ええ。本人からそう聞きましたけど……」
彼女が話している相手は、円藤深央。
以前三神院で引き起こされた降霊術の暴走を、見事に終息させた人物の一人だ。
事件の過程でメイの親族が命を奪われたことは痛ましく思っていたのだが、それ以上に彼女は、一連の事件に関してどうしても伝えておきたい情報を有していたのだ。
降霊術に関わる事件を止めようとしているものに、その情報を伝えたかったのだ。
「自分の世界へ死んだ姉を招いた際、気付いたそうです。あの子も、ずっとずっと眠っていて寂しかったでしょうから」
「それ以外にも、多分こういうことがあったかもしれないわね。他者の魂を近くに感じるとき、そのエネルギーを吸収しているような感覚があるとか……」
「そこまでは聞いていませんが……あるのかもしれません」
自分の中で萌芽しつつある仮説を、強固なものにするための手掛かり。
ミオからそれを確認して、メイの仮説は殆ど確信へと変わっていた。
「……とにかく、これではっきりしたわ。魂というものが、他の魂のエネルギーを吸収することのできるものだということがね」
「それは……つまり?」
「……いえ、ただ単に知りたかっただけよ。私がその方法を使いたい、なんていうわけじゃないからね?」
「え、ええ。それは分かってますよ」
からかい気味に言うと、ミオはそんなこと考えてもいないとばかりに手を振った。
その仕草に、可愛らしい少年だとほくそ笑みつつ、メイは続ける。
「それにまあ、ここで起きている事件にも、その方法が使われる可能性があるかと思っていてね。ほとんど当てずっぽうのようなものだけど」
「……なるほど?」
「一応、気には留めておいてちょうだい」
メイはミオに対し、簡単にではあるがそう忠告しておいた。
そしてその忠告は、後に現実のものとなるのだが。
「……ところで、どうしてメイさんは、ユウサクくんのことを知ってたんです?」
「ああ、それはアイから聞いたのよ。流谷あい」
「なるほど……」
流谷あいこそ、三神院でその命を喪うこととなった、メイの親族だ。
ドールの策略により実験の被験者にさせられ、術の暴走により怪物と化した恋人に命を奪われた、悲しき犠牲者。
ミオたちによって事件が解決した後、彼女の魂はメイの元までやって来て、彼女にドールの情報を伝えてくれたのだ。
それから、浄化された恋人とともに、あちら側の世界へと旅立っていった……。
ミオ自身は意識していないが、メイにとって彼は、親族とその恋人の魂を救済してくれた恩人でもあったのである。
「……希望の少ない賭けだった。貴方が来てくれたこと、感謝しているわ」
「メイさん……」
彼女は相変わらずの謎めいた笑みを浮かべながら言う。
「あなたのような人に会うために、私はきっと、ここにいた」
遥か昔より連鎖する、降霊術の悲劇。
その悲劇に終止符を打つ存在に、出会うために。
「ミオくん。あなたに伝えておくわ。この伍横町でこれから何が起きようとしているのかを――」
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