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最高神エリアルの聖女 2
しおりを挟むそう、船を飲み込もうとしていたその大津波の壁は、船体ぎりぎりのところで止まっていた。
まるで時間が停止したかのように。
それ自体が彫刻か何かに色づけたかのように。
静かにそれでいて威容を畏怖を船員の心に叩き込んで。
それはその場に静止していた。
「おい、なんだあれは!?
波が割れてーー‥‥‥精霊?
人の姿をした海の精霊??」
そう、甲板でその一部始終を見ていた船員はその光景にため息をついたという。
大津波の壁が割れ、その奥に一本の道が現れた。
どこからともなく数十の蒼い髪をした美しい乙女たちがその道を歩いて船へと向かってくる。
神か、それとも悪魔か。
できれば前者であって欲しい。
甲板に出てきた百人近い船員と元奴隷たちはそう思った。
一人のサンゴで出来た冠を被った乙女が先頭に立ち、甲板へとたどり着く。
彼女は人々を見渡すとある人物をその目に止めた。
片手を挙げると、他の乙女たちが甲板に上がり、ある人物までの道を開いていく。
冠を被った乙女は、その人物の前に歩み出るとそっと、足元にかしずいた。
「お迎えに上がりました、我が神エリアルの聖女様。
どうか、我等とともにおいでくださいませ」
そう言われたその人物は、あのレオン皇太子にレイスとあだ名をつけられていたアリスだった。
「わたし、が‥‥‥?
聖女、です、か?
でも、こんな奴隷のなった聖女などーーふさわしくはない、でしょう??」
「いいえ、聖女様。
そのような人間の慣習など神には関係ございません。
どうか、我等とともにお越しください」
そう言われ、行くのは構いません。
でも、とアリスは船員と元奴隷たちを見やる。
彼らは聖女と呼ばれた存在に、一葉に視線を注いでいた。
アリスはどうすれば良い結果になるか、迎えの使者に無理を言ってみよう。
そう思い、お願いをしてみた。
「彼らを無事に帝都へと戻し、奴隷を解放してくださるなら‥‥‥参ります。
この制度は、そうなったわたしが言うのも変ですがーー
人の心を惑わし、その価値を貶める。
そんな、気がします‥‥‥だめでしょうか?」
冠を被った乙女は少しだけ困った顔をして、それに答えた。
「慈悲深いのですね、ではどういたしましょうか‥‥‥。
船を帝都へと戻すことは可能です。
ですが、奴隷解放は我等ではどうにもできません。
それは、帝国が決めることでございます」
そう……それはそうね。
アリスは思案する。
この人たちだけでなく、自分が堕ちた奴隷というものを無くしたい。
何より、あの皇妃の制度。
あれ自体を廃止させたい。
あれは‥‥‥人の心を腐らせる。
「では、船を帝都へと。
その間にエリアル様にお会いしたいと思います。
その後、船が港に入る前に‥‥‥。
そう、エリアル様と共がもし、人前にでてもいいと言って下さるなら。
皇帝陛下の御前に共に出て頂けるなら。
あの皇妃を皇帝が選ぶことは否定はしません。
でも、皇妃が聖女である必要性は‥‥‥あってはならない気がします。
それを承知して頂けるのあれば、わたしはあなたたちと共にエリアル様のもとに参ります」
元クルード公爵令嬢アリスは、最高神エリアルの聖女として毅然と答えた。
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