4 / 9
最高神エリアルの聖女 2
しおりを挟むそう、船を飲み込もうとしていたその大津波の壁は、船体ぎりぎりのところで止まっていた。
まるで時間が停止したかのように。
それ自体が彫刻か何かに色づけたかのように。
静かにそれでいて威容を畏怖を船員の心に叩き込んで。
それはその場に静止していた。
「おい、なんだあれは!?
波が割れてーー‥‥‥精霊?
人の姿をした海の精霊??」
そう、甲板でその一部始終を見ていた船員はその光景にため息をついたという。
大津波の壁が割れ、その奥に一本の道が現れた。
どこからともなく数十の蒼い髪をした美しい乙女たちがその道を歩いて船へと向かってくる。
神か、それとも悪魔か。
できれば前者であって欲しい。
甲板に出てきた百人近い船員と元奴隷たちはそう思った。
一人のサンゴで出来た冠を被った乙女が先頭に立ち、甲板へとたどり着く。
彼女は人々を見渡すとある人物をその目に止めた。
片手を挙げると、他の乙女たちが甲板に上がり、ある人物までの道を開いていく。
冠を被った乙女は、その人物の前に歩み出るとそっと、足元にかしずいた。
「お迎えに上がりました、我が神エリアルの聖女様。
どうか、我等とともにおいでくださいませ」
そう言われたその人物は、あのレオン皇太子にレイスとあだ名をつけられていたアリスだった。
「わたし、が‥‥‥?
聖女、です、か?
でも、こんな奴隷のなった聖女などーーふさわしくはない、でしょう??」
「いいえ、聖女様。
そのような人間の慣習など神には関係ございません。
どうか、我等とともにお越しください」
そう言われ、行くのは構いません。
でも、とアリスは船員と元奴隷たちを見やる。
彼らは聖女と呼ばれた存在に、一葉に視線を注いでいた。
アリスはどうすれば良い結果になるか、迎えの使者に無理を言ってみよう。
そう思い、お願いをしてみた。
「彼らを無事に帝都へと戻し、奴隷を解放してくださるなら‥‥‥参ります。
この制度は、そうなったわたしが言うのも変ですがーー
人の心を惑わし、その価値を貶める。
そんな、気がします‥‥‥だめでしょうか?」
冠を被った乙女は少しだけ困った顔をして、それに答えた。
「慈悲深いのですね、ではどういたしましょうか‥‥‥。
船を帝都へと戻すことは可能です。
ですが、奴隷解放は我等ではどうにもできません。
それは、帝国が決めることでございます」
そう……それはそうね。
アリスは思案する。
この人たちだけでなく、自分が堕ちた奴隷というものを無くしたい。
何より、あの皇妃の制度。
あれ自体を廃止させたい。
あれは‥‥‥人の心を腐らせる。
「では、船を帝都へと。
その間にエリアル様にお会いしたいと思います。
その後、船が港に入る前に‥‥‥。
そう、エリアル様と共がもし、人前にでてもいいと言って下さるなら。
皇帝陛下の御前に共に出て頂けるなら。
あの皇妃を皇帝が選ぶことは否定はしません。
でも、皇妃が聖女である必要性は‥‥‥あってはならない気がします。
それを承知して頂けるのあれば、わたしはあなたたちと共にエリアル様のもとに参ります」
元クルード公爵令嬢アリスは、最高神エリアルの聖女として毅然と答えた。
2
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
公爵閣下、社交界の常識を学び直しては?
碧井 汐桜香
ファンタジー
若い娘好きの公爵は、気弱な令嬢メリシアルゼに声をかけた。
助けを求めるメリシアルゼに、救いの手は差し出されない。
母ですら、上手くやりなさいと言わんばかりに視線をおくってくる。
そこに現れた貴婦人が声をかける。
メリシアルゼの救いの声なのか、非難の声なのか。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま
藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。
婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。
エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる