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聖女、皇帝陛下と対決する 1
しおりを挟む「そうですか、それは我が主の御意思によるでしょう。
ですが、この場では‥‥‥」
冠を被った乙女は困ったように言う。
自分たちは神に聖女を連れて来い。
そう申し付けられているだけだからだ。ここで下手な約束をすると後でどのようなお叱りを主から受けないとも限らない。
彼女には即断する資格はなかった。
「この場だからこそ、大事なのです。
最高神エリアルの聖女として選ばれるというのであれば、それこそ‥‥‥」
アリスは一瞬、言葉に詰まってしまう。
その発言は神を侮辱するかもしれない。
そう思ったからだ。
でも、言わなければならない。
人は神々のおもちゃではないのだから。
「神が選ばれた聖女を皇帝が次期皇帝が選ぶというその制度そのものが特権です。
等しく、慈愛に満ちた神の御心を離れている。
わたしはそう思います。
ほんとうにエリアル様が言われる、公平で平等な、慈愛に満ちた世界なら。
なぜ、わたしたちのような奴隷が存在するのですか?
それは人が選んだことだからと言われるのであれば、神の御加護は等しくはありません!」
ああ、言ってしまった。
アリスの心はそれまでに感じたことの無いほどの言い様の無い恐怖に包まれていた。
神に反抗したのだ。
それは許されないかもしれない。
現に、目の前の冠を被った乙女は、大層、不機嫌な顔になっていた。
「神の御心はわたしたちですらうかがい知れないのです。
それを人間の聖女として選ばれたからといってあなたが論ずるのは間違いですよ、アリス様?」
諭すようにしかし、その言葉には大変な怒りが含まれていた。
精霊は人間と違い、感情などの精神的なものに近い存在だ。
アリスは冠を被った乙女の怒りを心に受けて、倒れこみそうだった。
だがーー
後ろを、そして周囲を見れば。
そこにいた船員も奴隷たちも。
誰もがアリスの言葉を真剣に考えはじめていた。
最高神エリアルの聖女としての言葉ではなく、奴隷に堕ちた少女の心からの叫び声に。
彼らは自分の境遇を投じて考えはじめていた。
そして、一人の男性が口を開いた。
「精霊様。
大変失礼ですが、わたしも聖女様のお考えに賛成です。
いえ、賛成という言葉はおかしいかもしれません。
この奴隷制度は、エリアル様の教えに反しています。
何より、貴族と平民。
虐げられる者、それを吸い上げる者。
その二つがあることが、間違いではないでしょうか?」
彼はもう老齢だった。
足腰も満足に立てないほどに弱っているのが見て取れる。
長い奴隷生活を送ってきたのだろう。
手足には、枷の後が当たり前のように刻まれていた。
「そう、ですよ。
俺もそう思います。
聖女様のお考えには‥‥‥間違いはないと」
そう言ったのはなんと船員の一人だった。
自分のしてきた行いを悔いるような目で精霊を見て訴えていた。
アリスは再度、冠を被った乙女に告げた。
「エリアル様が同席して頂けないのであれば、この場で最高神を侮辱した罪で命を奪ってください」
--と。
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