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スターリムの新たなる契約
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「あの、ゆき様‥‥‥」
おずおずと声を上げたのはエルフのメス犬、イライアだ。
「なあに?」
「あの、あれはその、よろしいでしょうか、あのままでーー?」
その視線に先にあるもの。
診療所兼自宅の半地下になった広い庭と地上から覗き込めないようになっている高い壁。
そしてその手前には高い針葉樹や広葉樹がそびえている。
数メートル四方にそんな感じで庭があり、地面は芝生が植えられていた。
「うん?
あれーー???」
季節も秋とあって肌寒い。
暖かくするようにとリオとイライアには服を与えてあるし、この自宅にいる時には普通の生活をさせている。
「いいんじゃない?」
その視線の先。
地上数メートル上の高さに横に張られた太いロープが数本束になっていてその下にあるものにゆきの視線が行く。
「リオ、まだー??」
そう最近、戸籍を作り、正式に養女になった元奴隷に声をかけた。
「はい、お母様。
まだ足りないと思います」
うーん、そうゆきは呟く。
「どうしてそう思うの?」
「その、イライアから心を見る方法を習いました」
え?
とゆきは横に立つイライアを見上げた。
「教えたの?
まあ、いいけど。リオ、それは誰にでも使ったらだめよ?
ちょっとおいで」
「え?
はいーー」
少女は手に持っていたホースを芝生の上に置くと、水道の元栓を締めてゆきの前に来る。
ゆきは小柄な十四歳の娘を抱き上げると膝上に座らせた。
「いい?
奴隷は見るものじゃないの。
そう、自分から捧げさせるものなの、まあそんなことは分かるか。
でも、なんで見てるの?」
「はい、あの二匹のドラゴンは魔力? は出せませんが、身体の頑丈さだけはまだまだあるので。
どこまでも追い込まないとまだ心の壁が消えません」
あーそういう使い方をするのか。
なら、イライアを叱ることもできないわね。
とりあえず、イライアの頭を撫でてやる。
「ちゃんと正しい使い方教えてね?」
「はい、ゆき様」
「で、あの二匹。
なんであんなカッコで吊るしたの?」
両足首を首の後ろで縛り上げ、後ろで縛った手首から出る縄を、首にかけた縄に繋げてだるま。
そんな呼び方をされるカッコで吊るされているドラゴンの少女二匹。
「翼は切り取りましたし。角も根元でカットしました。
なんでも、その両方で魔力をコントロールすると資料にありましたから」
あー確かに綺麗に切り取られてる。
角は毎日、せいらにヤスリをかけさせているようだ。
「で、尻尾は?
太いの生えてなかった?」
ああ、それなら、と庭の隅を指差す。
「げ‥‥‥!?」
あれってもしかしてーー」
そこには日干し宜しく、数本の尾が垂れ下がって干されていた。
「斬っても斬っても、数日有れば再生するようなので。
エサとして与えています。経済的でいいかなと」
ゆきはイライアを見上げた。
あー困った笑顔してるわね、そう思ってしまう。
「まあ、いいわ。それほど屈辱感味わうこともないだろうし。
でもあれね、ピアスとかないじゃない?」
これにはリオが困った顔をする。
「開けてもすぐに回復するので‥‥‥。
それよりはどこまで耐えれるかを試そうかなと、駄目ですかお母様?」
そんな甘える目で見ないの。
残虐性と人間性が同居してるのも問題ね。
そう、ゆきは思ってしまう。
「いい、リオ。
さおりやりさにしたこともそうだけど。
戻せない、これをまず考えてからしなさい。
あれはイライアでは治しきれなかったわよ?」
「では‥‥‥誰が??」
リオはきょとんとして不思議そうな顔をする。
「あなたがロードになれる頃に全部教えてあげる。
いい、リオ。これから数万、数十万の人間があなたの下に就くわ。
そうなるの。人間は恐い。怖いからこそ、従うし、逆らいもする。
従えるんじゃなくて、側にいてくれるようにみんなと生きれるようになりなさい。
まあ、あの二匹は育てばいい力になるわ。
竜族は自分より力が強いものにしか服従しない。
好きなだけやりなさい。で、なんで、あの吊るし方で水浴び?」
身体と心に限界がくるまで責めるつもりなのか?
しかし、リオの返事はその先を行っていた。
「夜になれば薄氷もできます。あの二匹は火竜のようなので、とりあえずーー
火を扱う能力はお母様が‥‥‥あれ?
なぜ、お母様が魔法を使えるのですか???」
今更聞かないで、そんな事を言いたくなってしまう。
「その質問は能力を封じた時にしなさい。あなた意外に天然ね?」
「天然??
すいません、お母様」
「まあ、いいわ。で、氷がどうしたの?」
あ、そうでした、と少女は語りだす。
「あの両方の穴にも水をたくさん詰めて栓をしてあります。
今夜はずっと水を浴びせて朝になれば凍るかな、と」
それを聞いた二匹の竜姫が苦しそうな顔を引きつらせる。
ただでさえ寒いこの秋風の中で全裸で縛られ、吊るされて苦しいのに。
そこに冷たさまで来るとは‥‥‥
「でも、死なない‥‥‥???」
「多分、大丈夫です。
あ、そろそろせいらを降ろさないと。
さおり、りさ、降ろしなさい」
こちらは全裸のままで、床に伏せでいるように命じられた二頭のメス犬がそれに駆け寄る。
元スターリムのせいらはようやく傷も癒え、額の傷跡も消えて元の美しさを取り戻していた。
そして、そのプライドも復活し裏でかつての支持者たちに連絡を取ろうとしていたのを見つかった。
それで‥‥‥
「あのメス豚はまだまだダメです。
穴を開けたりすると綺麗な身体がまた痛むので、何もないようにしました。
刺青もピアスも、処女膜も後ろの穴も。全部、綺麗に戻しました」
「ふうん、で、お仕置きされてもまだ根を上げないのね?」
リオがもっと過激にやりたいと不満を漏らすが、イライアが止めていた。
やるなら、平等にやりましょうと提案したらしい。
「人間の身体はそこまで強くないので。
ああして数時間に一度は降ろさないといけないのが不便です‥‥‥」
「まだ、たりなさそうねー」
確かに、せいらは降ろされてこちらを睨みつけている。
「なら、床上で放置しなさい。
江戸時代に二週間、あの態勢でいても死ななかった例があるから。
一週間なら大丈夫でしょ。あ、中の水は出しとくのよ。
凍ったら死ぬからね。まあ、生き返らせればいいだけだけど‥‥‥ねえ、リオ」
面白いことを思いついてゆきは娘を抱きしめてやる。
「せいらがあの二匹をちゃんと、せいらの下につけれれば、この拷問から解放してやるのはどう?」
「せいらがですか?
でもそれだと、いざという時にせいらがリオを裏切る可能性が高くなります」
まあ、それもそうねー。
さてどうしたものかとゆきは考える。
「どうする?
あの時みたいに頭踏み抜いて処分する?」
「それはー‥‥‥お母様。
せいらが震えています、せっかく生かしたのにそれは可哀想です」
その発言にせいらが、えっ? と反応する。
「だって、イライア‥‥‥あたし、娘に怒られてる」
「あはは‥‥‥どうしましょう、でもリオ様の懸念は確実にあるかと思います」
困ったようにイライアが言う。
どうしよかなーと三人で考えていた時だ。
「やり‥‥‥ます、リオさ、ま」
「へ?」
どこからの声?
そう思いみると、縛りから解放されて動けないはずなのに。
どこにそんな力が残っていたのか‥‥‥せいらが、ゆきの足元まで数メートルも這ってきていた。
その頭を踏みつけながら、ゆきは否定する。
「ダメよ、危険だもの。
こうやって踏まれてたんだっけ、ねえ、せいら?」
奴隷はその態勢にすらも恐怖に身体を震わせていた。
このまま処分してもいいんだけど、どうする?
そうゆきがリオに聞くが、
「ですから、ダメです。
せいらが可哀想です。お母様は優しくありません」
りさやさやかにあんなことまでしといてどの口が言うか。
そうゆきは思ったが、イライアからゆき様と怒るのを制止される。
どうもこの二人はせいらに感心があるようだ。
「おねがい、しま、す。
かならずやりとげます、かならず‥‥‥リオ様」
これだけ身体も声も震えてるのに、それをまだ言うかあ。
スターリムってよっぽど居心地が良かったのか。
その上にいた時、ロードなんて死ぬほど止めてやる、ゆきは日々そう考えていた過去を思い出す。
「せいら」
「はい、ゆき様」
「スターリムには戻れないわよ?
どれだけ努力してもあんたはリオの所有物。死ぬまでね、理解してる?」
ゴロンと態勢を仰向けにすると、ほーらね、とゆきはイライアにそんな顔を見せた。
「泣くほど、戻りたいの?
あんたを殺そうとして死の淵まで追い詰めたあの場所に?」
せっかくの自由になるチャンスなのに、そう、ゆきはため息を漏らす。
「自由ー‥‥‥!?」
こんな状態なのに?
そうせいらはゆきを睨みつける。
「その目よ、その目が出来るならなんで生きるチャンスを手放すの?
このままだと、来週にはせいら、あんた吊られたまま死んでるわよ?
このリオは従う可能性がない奴隷を生かすような優しさはないわ。
ね、リオ?」
そんなひどい、とリオは母親を見るが、ここは合わせなさい。
そう目で言われたような気がして従うことにした。
「‥‥‥年齢も近いし、あの二匹にもちゃんと従うなら。
いつかリオがロードになれば解放も考えます。
友達だって欲しい、です‥‥‥いまはイライアだけしかいません」
そう寂しそうに言うリオの瞳に嘘は無かった。
「せいらは、無理?
リオを支えてくれない?
いましている罰は、本当なら‥‥‥白石様からは即日処分すると言われたのを待って欲しいと。
リオがお願いしました。無理なら仕方ないですけど。
リオは、友達も支えてくれる仲間も欲しい。
それは本当です」
真摯に上からだが言われ、せいらは多くの事実を知る。
「二回目、です‥‥‥か。
リオ様が、このせいらを。
あのスターリムよりも更に上にまで引き上げて頂けるのあれば。
生涯の服従を誓います」
「あのねー…‥‥」
「いいんです、お母様」
「でもね、リオ?」
「お母様、リオはお母様の後継者になると誓いました。
優秀な存在は一人でも大事なんです」
えー‥‥‥そんな重荷を背負わせた気は無かったんだけど。
そう悩みながら、イライアをそっと見るゆき。
仕方ありませんね、そんな顔をエルフの奴隷姫はしていた。
「仕方ないわね。
なら、これを上げるから立ちなさい」
「は、はいー」
これとはなんだろう?
せいらがそう思った時だ。何かがふわりと、せいらの前に舞い降りた。
見えそうで見えない、水のような、もう少し濁ったなにか。
「見える?」
「こ、これは‥‥‥?
なんでしょうか、ゆき様??」
イライアと双子の竜姫たちにはそれが何かわかったらしい。
エルフは出会えたことに感嘆の声を。
二頭の竜姫は悲鳴にも似た恐怖の声を上げていた。
その反応の意味がわからず、リオとせいらはきょとんとしている。
りさとさおりも同様だった。
「これは‥‥‥氷の精霊様ーー」
イライアがその名を呼び、床にかしずいた。
「そう、これをあなたに貸してあげる。
あの火竜の天敵なのよ、こいつ。
ほら、行きなさい」
氷の精霊はうなづいたようにして、せいらの中に消えて行った。
それを受け入れた途端、せいらにもイライアが見ているのと同じ光景、そして同様の恐怖感が襲い掛かる。
目の前にいる人間の主人では、人間ではない。人間だが、あり得ないほどの存在。
数え切れないほどの、魔や精霊を従えていた。
「ひっー‥‥‥」
悲鳴と共に、知らないうちに身体が反応して床に伏せているせいらがいた。
心には消滅への恐怖と、その臣下の一員でいることへの幸福感が溢れている。
氷の精霊が教えるそれは、せいらがまだ単なる奴隷だった頃の感覚も呼び覚ましていた。
従う事の喜びと、主への忠誠心、そして主の成功を手助けできることの充足感。
自分でも知らないうちに、リオの元へと平伏し、その足を頭に掲げーー
あの夜、自分の全てを買った主に言った言葉を自分から唱えさせていた。
「せいらと申します、新しき愛しの君。
生涯にわたり、この身、この心の全てを以て隷従致します。
よろしくお願いいたします。ご主人様ーー」
と。
おずおずと声を上げたのはエルフのメス犬、イライアだ。
「なあに?」
「あの、あれはその、よろしいでしょうか、あのままでーー?」
その視線に先にあるもの。
診療所兼自宅の半地下になった広い庭と地上から覗き込めないようになっている高い壁。
そしてその手前には高い針葉樹や広葉樹がそびえている。
数メートル四方にそんな感じで庭があり、地面は芝生が植えられていた。
「うん?
あれーー???」
季節も秋とあって肌寒い。
暖かくするようにとリオとイライアには服を与えてあるし、この自宅にいる時には普通の生活をさせている。
「いいんじゃない?」
その視線の先。
地上数メートル上の高さに横に張られた太いロープが数本束になっていてその下にあるものにゆきの視線が行く。
「リオ、まだー??」
そう最近、戸籍を作り、正式に養女になった元奴隷に声をかけた。
「はい、お母様。
まだ足りないと思います」
うーん、そうゆきは呟く。
「どうしてそう思うの?」
「その、イライアから心を見る方法を習いました」
え?
とゆきは横に立つイライアを見上げた。
「教えたの?
まあ、いいけど。リオ、それは誰にでも使ったらだめよ?
ちょっとおいで」
「え?
はいーー」
少女は手に持っていたホースを芝生の上に置くと、水道の元栓を締めてゆきの前に来る。
ゆきは小柄な十四歳の娘を抱き上げると膝上に座らせた。
「いい?
奴隷は見るものじゃないの。
そう、自分から捧げさせるものなの、まあそんなことは分かるか。
でも、なんで見てるの?」
「はい、あの二匹のドラゴンは魔力? は出せませんが、身体の頑丈さだけはまだまだあるので。
どこまでも追い込まないとまだ心の壁が消えません」
あーそういう使い方をするのか。
なら、イライアを叱ることもできないわね。
とりあえず、イライアの頭を撫でてやる。
「ちゃんと正しい使い方教えてね?」
「はい、ゆき様」
「で、あの二匹。
なんであんなカッコで吊るしたの?」
両足首を首の後ろで縛り上げ、後ろで縛った手首から出る縄を、首にかけた縄に繋げてだるま。
そんな呼び方をされるカッコで吊るされているドラゴンの少女二匹。
「翼は切り取りましたし。角も根元でカットしました。
なんでも、その両方で魔力をコントロールすると資料にありましたから」
あー確かに綺麗に切り取られてる。
角は毎日、せいらにヤスリをかけさせているようだ。
「で、尻尾は?
太いの生えてなかった?」
ああ、それなら、と庭の隅を指差す。
「げ‥‥‥!?」
あれってもしかしてーー」
そこには日干し宜しく、数本の尾が垂れ下がって干されていた。
「斬っても斬っても、数日有れば再生するようなので。
エサとして与えています。経済的でいいかなと」
ゆきはイライアを見上げた。
あー困った笑顔してるわね、そう思ってしまう。
「まあ、いいわ。それほど屈辱感味わうこともないだろうし。
でもあれね、ピアスとかないじゃない?」
これにはリオが困った顔をする。
「開けてもすぐに回復するので‥‥‥。
それよりはどこまで耐えれるかを試そうかなと、駄目ですかお母様?」
そんな甘える目で見ないの。
残虐性と人間性が同居してるのも問題ね。
そう、ゆきは思ってしまう。
「いい、リオ。
さおりやりさにしたこともそうだけど。
戻せない、これをまず考えてからしなさい。
あれはイライアでは治しきれなかったわよ?」
「では‥‥‥誰が??」
リオはきょとんとして不思議そうな顔をする。
「あなたがロードになれる頃に全部教えてあげる。
いい、リオ。これから数万、数十万の人間があなたの下に就くわ。
そうなるの。人間は恐い。怖いからこそ、従うし、逆らいもする。
従えるんじゃなくて、側にいてくれるようにみんなと生きれるようになりなさい。
まあ、あの二匹は育てばいい力になるわ。
竜族は自分より力が強いものにしか服従しない。
好きなだけやりなさい。で、なんで、あの吊るし方で水浴び?」
身体と心に限界がくるまで責めるつもりなのか?
しかし、リオの返事はその先を行っていた。
「夜になれば薄氷もできます。あの二匹は火竜のようなので、とりあえずーー
火を扱う能力はお母様が‥‥‥あれ?
なぜ、お母様が魔法を使えるのですか???」
今更聞かないで、そんな事を言いたくなってしまう。
「その質問は能力を封じた時にしなさい。あなた意外に天然ね?」
「天然??
すいません、お母様」
「まあ、いいわ。で、氷がどうしたの?」
あ、そうでした、と少女は語りだす。
「あの両方の穴にも水をたくさん詰めて栓をしてあります。
今夜はずっと水を浴びせて朝になれば凍るかな、と」
それを聞いた二匹の竜姫が苦しそうな顔を引きつらせる。
ただでさえ寒いこの秋風の中で全裸で縛られ、吊るされて苦しいのに。
そこに冷たさまで来るとは‥‥‥
「でも、死なない‥‥‥???」
「多分、大丈夫です。
あ、そろそろせいらを降ろさないと。
さおり、りさ、降ろしなさい」
こちらは全裸のままで、床に伏せでいるように命じられた二頭のメス犬がそれに駆け寄る。
元スターリムのせいらはようやく傷も癒え、額の傷跡も消えて元の美しさを取り戻していた。
そして、そのプライドも復活し裏でかつての支持者たちに連絡を取ろうとしていたのを見つかった。
それで‥‥‥
「あのメス豚はまだまだダメです。
穴を開けたりすると綺麗な身体がまた痛むので、何もないようにしました。
刺青もピアスも、処女膜も後ろの穴も。全部、綺麗に戻しました」
「ふうん、で、お仕置きされてもまだ根を上げないのね?」
リオがもっと過激にやりたいと不満を漏らすが、イライアが止めていた。
やるなら、平等にやりましょうと提案したらしい。
「人間の身体はそこまで強くないので。
ああして数時間に一度は降ろさないといけないのが不便です‥‥‥」
「まだ、たりなさそうねー」
確かに、せいらは降ろされてこちらを睨みつけている。
「なら、床上で放置しなさい。
江戸時代に二週間、あの態勢でいても死ななかった例があるから。
一週間なら大丈夫でしょ。あ、中の水は出しとくのよ。
凍ったら死ぬからね。まあ、生き返らせればいいだけだけど‥‥‥ねえ、リオ」
面白いことを思いついてゆきは娘を抱きしめてやる。
「せいらがあの二匹をちゃんと、せいらの下につけれれば、この拷問から解放してやるのはどう?」
「せいらがですか?
でもそれだと、いざという時にせいらがリオを裏切る可能性が高くなります」
まあ、それもそうねー。
さてどうしたものかとゆきは考える。
「どうする?
あの時みたいに頭踏み抜いて処分する?」
「それはー‥‥‥お母様。
せいらが震えています、せっかく生かしたのにそれは可哀想です」
その発言にせいらが、えっ? と反応する。
「だって、イライア‥‥‥あたし、娘に怒られてる」
「あはは‥‥‥どうしましょう、でもリオ様の懸念は確実にあるかと思います」
困ったようにイライアが言う。
どうしよかなーと三人で考えていた時だ。
「やり‥‥‥ます、リオさ、ま」
「へ?」
どこからの声?
そう思いみると、縛りから解放されて動けないはずなのに。
どこにそんな力が残っていたのか‥‥‥せいらが、ゆきの足元まで数メートルも這ってきていた。
その頭を踏みつけながら、ゆきは否定する。
「ダメよ、危険だもの。
こうやって踏まれてたんだっけ、ねえ、せいら?」
奴隷はその態勢にすらも恐怖に身体を震わせていた。
このまま処分してもいいんだけど、どうする?
そうゆきがリオに聞くが、
「ですから、ダメです。
せいらが可哀想です。お母様は優しくありません」
りさやさやかにあんなことまでしといてどの口が言うか。
そうゆきは思ったが、イライアからゆき様と怒るのを制止される。
どうもこの二人はせいらに感心があるようだ。
「おねがい、しま、す。
かならずやりとげます、かならず‥‥‥リオ様」
これだけ身体も声も震えてるのに、それをまだ言うかあ。
スターリムってよっぽど居心地が良かったのか。
その上にいた時、ロードなんて死ぬほど止めてやる、ゆきは日々そう考えていた過去を思い出す。
「せいら」
「はい、ゆき様」
「スターリムには戻れないわよ?
どれだけ努力してもあんたはリオの所有物。死ぬまでね、理解してる?」
ゴロンと態勢を仰向けにすると、ほーらね、とゆきはイライアにそんな顔を見せた。
「泣くほど、戻りたいの?
あんたを殺そうとして死の淵まで追い詰めたあの場所に?」
せっかくの自由になるチャンスなのに、そう、ゆきはため息を漏らす。
「自由ー‥‥‥!?」
こんな状態なのに?
そうせいらはゆきを睨みつける。
「その目よ、その目が出来るならなんで生きるチャンスを手放すの?
このままだと、来週にはせいら、あんた吊られたまま死んでるわよ?
このリオは従う可能性がない奴隷を生かすような優しさはないわ。
ね、リオ?」
そんなひどい、とリオは母親を見るが、ここは合わせなさい。
そう目で言われたような気がして従うことにした。
「‥‥‥年齢も近いし、あの二匹にもちゃんと従うなら。
いつかリオがロードになれば解放も考えます。
友達だって欲しい、です‥‥‥いまはイライアだけしかいません」
そう寂しそうに言うリオの瞳に嘘は無かった。
「せいらは、無理?
リオを支えてくれない?
いましている罰は、本当なら‥‥‥白石様からは即日処分すると言われたのを待って欲しいと。
リオがお願いしました。無理なら仕方ないですけど。
リオは、友達も支えてくれる仲間も欲しい。
それは本当です」
真摯に上からだが言われ、せいらは多くの事実を知る。
「二回目、です‥‥‥か。
リオ様が、このせいらを。
あのスターリムよりも更に上にまで引き上げて頂けるのあれば。
生涯の服従を誓います」
「あのねー…‥‥」
「いいんです、お母様」
「でもね、リオ?」
「お母様、リオはお母様の後継者になると誓いました。
優秀な存在は一人でも大事なんです」
えー‥‥‥そんな重荷を背負わせた気は無かったんだけど。
そう悩みながら、イライアをそっと見るゆき。
仕方ありませんね、そんな顔をエルフの奴隷姫はしていた。
「仕方ないわね。
なら、これを上げるから立ちなさい」
「は、はいー」
これとはなんだろう?
せいらがそう思った時だ。何かがふわりと、せいらの前に舞い降りた。
見えそうで見えない、水のような、もう少し濁ったなにか。
「見える?」
「こ、これは‥‥‥?
なんでしょうか、ゆき様??」
イライアと双子の竜姫たちにはそれが何かわかったらしい。
エルフは出会えたことに感嘆の声を。
二頭の竜姫は悲鳴にも似た恐怖の声を上げていた。
その反応の意味がわからず、リオとせいらはきょとんとしている。
りさとさおりも同様だった。
「これは‥‥‥氷の精霊様ーー」
イライアがその名を呼び、床にかしずいた。
「そう、これをあなたに貸してあげる。
あの火竜の天敵なのよ、こいつ。
ほら、行きなさい」
氷の精霊はうなづいたようにして、せいらの中に消えて行った。
それを受け入れた途端、せいらにもイライアが見ているのと同じ光景、そして同様の恐怖感が襲い掛かる。
目の前にいる人間の主人では、人間ではない。人間だが、あり得ないほどの存在。
数え切れないほどの、魔や精霊を従えていた。
「ひっー‥‥‥」
悲鳴と共に、知らないうちに身体が反応して床に伏せているせいらがいた。
心には消滅への恐怖と、その臣下の一員でいることへの幸福感が溢れている。
氷の精霊が教えるそれは、せいらがまだ単なる奴隷だった頃の感覚も呼び覚ましていた。
従う事の喜びと、主への忠誠心、そして主の成功を手助けできることの充足感。
自分でも知らないうちに、リオの元へと平伏し、その足を頭に掲げーー
あの夜、自分の全てを買った主に言った言葉を自分から唱えさせていた。
「せいらと申します、新しき愛しの君。
生涯にわたり、この身、この心の全てを以て隷従致します。
よろしくお願いいたします。ご主人様ーー」
と。
0
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