SM療法士 高市ゆきのSMクリニックへようこそ

星ふくろう

文字の大きさ
18 / 24

束の間の休息

しおりを挟む
「うん、宜しくね、せいら」
 リオが笑顔でそれに答える。
 えーそんなのあり?
「ねえ、ちょっと!? 
 それ、わたしの精霊なんだけどー‥‥‥!?」
 既に、精霊はせいらの力の一部となり、リオに服従を誓っていた。
「ありがとうございます、お母様。
 こんな新しい存在が来るなんて、リオは嬉しいです!!!」
「えー‥‥‥あんた、この裏切り者」
 そう言って、せいらの中にいる氷の精霊をにらんでやるが、ちゃんとあなたが一番の主です。
 そう返事が返って来て複雑な気分にさせられる。
「まあ、いいわ。
 しばらく預けておくから。
 まずは、いいわね?」
「はい、ゆき様。
 久しぶりの調教‥‥‥楽しみです」
 そう言って立ち上がるせいらは、地道にホースを担ぎげると宙に浮き、
「ほら、元栓を捻りなさい」
 などとりさに命じて水を出させる。
「口枷があるから、注ぎ込むには充分だわ。
 凍らない程度の冷水を楽しませてあげる。
 まだ、死なないでね?」
 そう言って、襲い来る死の感覚に震える二匹の調教を開始した。
「ちょっ!!??
 浮くまで使役できるなんて‥‥‥あたしでも二週間かかったのにーー」
「いえ、二週間で使役できることも凄いのですが。
 普通は数年かかり、それも複数人で契約を‥‥‥」
 とぼやくゆきをイライアがなだめていた。
「新しい仲間ができました、お母様」
「ねえ、喜ぶのはいいんだけど。白石の話は本当なの?」
「本当も何も。
 あの連絡がバレた時点でダイヤ様から連絡が来ました。
 処分はダメだと、お母様のお名前で返事をしましたよ?」
「あ、そう‥‥‥。
 次からは相談してね?」
「はい」
 ひょっとして、この子はあの勇者を超えて、いまは不在のクイーンにまで行くのではないのだろうか?
 かつて自分がいて、自分から降格したあの地位にまで。
 ゆきはそう未来を俯瞰せざるを得なかった。




「うー寒い‥‥‥」
 同じベッドですやすやと寝ているリオに布団をかけてやりながら、ゆきは階下へと降りていく。
「あ、御主人様ーー」
「あれ?
 こんな深夜なのに。まだ起きてんのあんたたち?
 りさにさおり、もう寝なさい。ちゃんとベッドあるでしょ?」
 裸のままでは相当寒いだろうなあ、そう思いながらコタツから這い出るメス豚JK二匹が小屋に入るのを見届けると、美味しそうにみかんを食べるエルフを珍しそうにゆきは眺める。
「あの、なにか?」
「ううん、コタツでみかんを食べるエルフ。
 この写真、ネットにアップしたら反響が凄いだろうなって。
 どんなコスプレ美少女より綺麗だもんね、あんた」
「ネット、コスプレ美少女??
 なんでしょうか、それは?」
「まあ、知らなくていいんだけど。
 で、他のは?
 あれ、せいらは?」
「ああ、彼女ならいまお風呂です、御主人様」
「あ、そう。
 あたしも入ろうかなー‥‥‥あんたももう寝なさいよ。
 あれ、外軽く雪‥‥‥げっ!?
 あれ、死なないの?」
 そとには二頭の竜姫が昼間のまま、喉にホースをそれぞれ突っ込まれーー
 そこからは水が漏れ出していた。
「ああ、竜族は真空でも生きますから。
 多分、大丈夫かと」
「それ、天龍でしょ?
 あれ、火竜よ?
 しかも、かなり下級の。
 まあ、窒息しなきいゃいいか」
 その二頭はすでに白目を剝いて気を失いかけているのだが、ゆきは無視して風呂場へと向かう。
「せいらーいるの?」
 声の主が誰か即座に理解したらしい。
 扉を開けたらきちんと正座でひれ伏す、メス犬せいらがいた。
「あたしも入るよ?
 いい?」
「は、はい、ゆき様‥‥‥」
 まあ、元スターリムというだけあって、礼儀作法など奴隷としてのだが。
 それは綺麗な物だ。
 そうゆきは思った。
 まだあのりさやさおりと同じ年の頃。
 いきなり深夜に転送されてきたあのバカ勇者に犯され、奴隷の呪いをかけられて散々好きなようにされた。
 あの忌まわしい過去が頭の隅を過ぎる。
「ひっ!?」
 その怨念というかマグマのような怒りを感じたのだろう。
 ゆきの精霊を借り受けているせいらは全身を震わせて怯えていた。
「あー‥‥‥ごめん、ごめん。
 背中流してよ、せいら」
「は‥‥‥はい、ゆき、様」
 恐怖で動けないんだろなーとゆきはそう思い、ならこっちから洗ってやるか。
 なんとなく気まぐれで、うつぶせたままのせいらを抱き上げた。
「あ、あの?!
 な、なにか???」
「あんた軽いわねーリオより軽い?
 そんな訳はないか。でも綺麗な身体になったわね。
 好きな男がいたら、奴隷です、なんて言わなくても普通に恋愛できるじゃない」
 湯舟にそのままつかろうとしたら、せいらが身体をこわばるようにする。
「ゆ、ゆき様?!
 まさか、水責めに!?
 昼間の粗相はお詫びをーー」
「いや、しないから。
 ほら、こっち向いて‥‥‥うん、額の傷もない。 
 脳の修復はそいつ、貸した精霊にもやらせるから。
 もうすぐ、あの悪夢からは解放されるわ」
 あの悪夢。
 頭を踏み抜かれ、殺されかけたあの記憶。
 あれから解放される‥‥‥
 せいらの心に少しだけ余裕が戻っている。ゆきにはそう見えた。
「でさ、せいら。
 どうするの?
 本当に、このままでいいの?
 それとも、自由な生活。まあ、スターリムとかは無理だけど。
 平凡な十六歳に戻る? 高校とか行きたくない?」
 その問いかけはせいらには意外だった。
「でも、御主人様。
 ゆき様はリオ様の手伝いを、と」
「いやそれはそうなんだけど。
 あのオバカJKコンビもさ。
 戻せるなら普通の生活がいいでしょ?」
「あの二人は昨年まで普通に生きていましたけど。
 せいらは‥‥‥四歳からこの生活しか知りません‥‥‥」
「それで這い上がってスターリムか。
 ねえ、リオがあんたにどれだけ憧れてかた知ってる?」
「リオ様が、ですか???」
「そう、あの子は自分は落ちこぼれだって泣いてたのよ。
 せいらに憧れてるっていつも言ってた。
 あの子の支えになって欲しいけど、少しだけ年上でしょ、せいらが。
 こんな狂った世界から抜け出すの大変よ? ほら、この跡。わかる?」
 ゆきが見せる、普段は見えない部分のヤケドの跡、深い切り傷のあと、なにかの文字が彫られたタトゥーのようなものを焼いて消した跡。
「ゆき様。
 なぜ、こんなー‥‥‥」
「自由を掴むための代償、かな?
 いつでも消せるけどね。まあ戒めに残してるの。
 どう?
 リオの年齢がもう高校に行ける年齢なのよ。
 一緒の学校で、同じ学年にしないといけないけど。
 通ってみない?」
 せいらは即答ができなかった。
 見知らぬ世界。なによりもこんな問いかけはこれまでになかったからだ。
「まあ、考えといて。
 で、あの庭先のあれ。
 死なないの?」
「あ、まあー多分。
 死んだら、蘇生しますから」
 物を扱う言い方はさすがスターリム。
 ゆきはそれに感心? しつつ、
「あ、そう‥‥‥」
 と言うしかなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...