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再訪の武人
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彼に会ってみると言われたとはいえ、私にはそのような権利などありません。
お父様の発言にもあるように、女は家の道具。
その意思を優先することは必要性はどこにもなく、家の存続を優先させることだけに使われる存在なのですから。
かといってただ黙って手をこまねいているのも、私は好きではありません。
参加できないなら出来ないで、その結果を知ることができるように動けば良いだけなのですから。
「ねえ、ルッカオ?
お願いがあるのだけどいいかしら?」
「お嬢様。
このルッカオに予測がつくような発言はお控えください」
「え?
でも何を言うかなんてまだ――」
「お知らせは致しませんよ?
旦那様の御供はいたしますが、それをお伝えするかどうかは旦那様の御意思に拠りますので」
「‥‥‥あなた。
執事のくせに、主の娘に逆らうつもり?」
「執事長でございます。
ついでに、問題があればお嬢様を鞭打っても良いと。
そう旦那様から仰せつかっておりますが?
令嬢らしからぬ言葉使いだということで、久方ぶりにその手の甲を出されますか?」
さすがに我が家に代々勤める執事長の家系。
私のわがままなど通じることすらないように思えました。
いつになったら私の足元にかしずいてくれるのかしら、ルッカオは‥‥‥
「嫌よ、そんなのしつけではなくて暴力だわ。
無慈悲な打擲を行うなんて‥‥‥男性らしくもない」
「男かどうかは関係ありませんな。
お嬢様がどこに妻として行かれても、恥ずかしくないように支えるのが私共、家令の役目でございますから。
どうかお気になさらず。
で、どちらの手が宜しいですか?
はるかな幼少の頃のように――」
「なによ!?
その目は、どこを見てるのよまったく。
打つならお姉様になさい。
最近もいろいろと悪戯が過ぎてるようだけど?」
「リドル様はもう良き御年齢。
寝室に酒瓶を貯め込むような真似はなさっておりませんな」
「あっ‥‥‥」
「レネも私の部下でございますから。
鞭よりは素直に伝えることを選んだのかもしれませんな?」
「あの子‥‥‥裏切り者っ」
ある程度、予期していたとはいえこれはよくない兆候。
ここは引いて別の方策を考えようかしら。
そう思ったときでした。
「レネはあれでもお嬢様を思っての行動ですよ、アミュエラ様。
あの者を責めるよりも御自身の行動を慎んで頂きたいものですな。
一体、どこからお酒など持ち込んだものやら‥‥‥」
「ため息交じりで言わないで頂戴。
あれはカール様と戦友の方々が来られた際に――頂いたものよ」
「そういったものはまず、旦那様にお見せするものですよ、お嬢様。
まったく‥‥‥無作法にもほどがあると叱りつける機会を失ったではないですか。
死者を鞭打つわけにも悪口を述べることも許されませんからな」
「ルッカオ?
あなた、何を言って??」
執事長は白髪交じりのその頭を片手で抑えて言いました。
この屋敷内の者は誰もが、あのような不名誉な贈り物など望んでおりません、と。
さて、どこまでその意を汲むべきでしょうか?
どうにもルッカオは言いたいだけの小言を言うためだけに勿体付けているような気もします。
「誰の味方なのかしら?
お父様だけ?」
「さあ、どうでしょうか?
男爵家にとってよい結果になるように、で、ございますかね。
お嬢様を打擲するのはまあ、いささか不機嫌も交えていたこともあるように思いますが?」
「自分の不満を私で晴らさないで頂戴!
それで?
今回はどうやって憂さ晴らしをするつもり‥‥‥?
リドルはまだまだ、自由に生きて行きたいって言ってるわよ、ルッカオ」
「お嬢様。
憂さ晴らしとは人聞きの悪い。
その何倍も苦労をさせて頂きました我々の心労も気づいて頂きたいと思います。
さて、リドル様はそろそろ賞味期限が危ういですからな。
旦那様はどうあれ、奥様は高みを目指されております。
つまり」
「そうね。
私しか駒がいないと、そういうことね」
「左様ですな。
リドル様がどう思われているかはわかりませんが、旦那様は奥様の御実家の助力をまだまだ失うわけには参りません。
それと同じく、伯爵家との縁もまた大事でございますな。
アミュエラ様」
はあ‥‥‥
そんな未来でもない間近なことを言わなくても理解はしています。
議員でいるためには、両家の後ろ盾も必要なことも。
最後には議員から名誉議員となれれば、一つ上に上がる可能性もあることも。
お母様は政治というものが見えていないのでしょう。
だから、今だけを見て発言してしまう。
もっとも、世にいる女性の大部分がそうなのかもしれませんが。
「でもね、ルッカオ?
あの奴隷はどうするつもり?
伯爵家の第二夫人としての地位はまだまだ揺らがないかもしれないのよ?
我が家の土地財産すらも奪われそうなのに。
南方の出自の娘に」
「まさか、お嬢様。
そんな簡単なこともご理解されていないのですか?」
「‥‥‥どういうこと?」
「お嬢様に所有権が移譲されるのでございましょう?
ならば、奴隷からその娘が第二夫人に上がったとしても、立場はお嬢様の前では奴隷でございますよ。
好きなように扱い、所有権ひいてはその財産の全てをお嬢様が管理なされれば宜しいではないですか?」
「え‥‥‥っ?」
それは意識の外にある見解でした。
つまり、私はまだステイシアに彼の全てを奪われてはいない。
そういうことなのですから。
お父様の発言にもあるように、女は家の道具。
その意思を優先することは必要性はどこにもなく、家の存続を優先させることだけに使われる存在なのですから。
かといってただ黙って手をこまねいているのも、私は好きではありません。
参加できないなら出来ないで、その結果を知ることができるように動けば良いだけなのですから。
「ねえ、ルッカオ?
お願いがあるのだけどいいかしら?」
「お嬢様。
このルッカオに予測がつくような発言はお控えください」
「え?
でも何を言うかなんてまだ――」
「お知らせは致しませんよ?
旦那様の御供はいたしますが、それをお伝えするかどうかは旦那様の御意思に拠りますので」
「‥‥‥あなた。
執事のくせに、主の娘に逆らうつもり?」
「執事長でございます。
ついでに、問題があればお嬢様を鞭打っても良いと。
そう旦那様から仰せつかっておりますが?
令嬢らしからぬ言葉使いだということで、久方ぶりにその手の甲を出されますか?」
さすがに我が家に代々勤める執事長の家系。
私のわがままなど通じることすらないように思えました。
いつになったら私の足元にかしずいてくれるのかしら、ルッカオは‥‥‥
「嫌よ、そんなのしつけではなくて暴力だわ。
無慈悲な打擲を行うなんて‥‥‥男性らしくもない」
「男かどうかは関係ありませんな。
お嬢様がどこに妻として行かれても、恥ずかしくないように支えるのが私共、家令の役目でございますから。
どうかお気になさらず。
で、どちらの手が宜しいですか?
はるかな幼少の頃のように――」
「なによ!?
その目は、どこを見てるのよまったく。
打つならお姉様になさい。
最近もいろいろと悪戯が過ぎてるようだけど?」
「リドル様はもう良き御年齢。
寝室に酒瓶を貯め込むような真似はなさっておりませんな」
「あっ‥‥‥」
「レネも私の部下でございますから。
鞭よりは素直に伝えることを選んだのかもしれませんな?」
「あの子‥‥‥裏切り者っ」
ある程度、予期していたとはいえこれはよくない兆候。
ここは引いて別の方策を考えようかしら。
そう思ったときでした。
「レネはあれでもお嬢様を思っての行動ですよ、アミュエラ様。
あの者を責めるよりも御自身の行動を慎んで頂きたいものですな。
一体、どこからお酒など持ち込んだものやら‥‥‥」
「ため息交じりで言わないで頂戴。
あれはカール様と戦友の方々が来られた際に――頂いたものよ」
「そういったものはまず、旦那様にお見せするものですよ、お嬢様。
まったく‥‥‥無作法にもほどがあると叱りつける機会を失ったではないですか。
死者を鞭打つわけにも悪口を述べることも許されませんからな」
「ルッカオ?
あなた、何を言って??」
執事長は白髪交じりのその頭を片手で抑えて言いました。
この屋敷内の者は誰もが、あのような不名誉な贈り物など望んでおりません、と。
さて、どこまでその意を汲むべきでしょうか?
どうにもルッカオは言いたいだけの小言を言うためだけに勿体付けているような気もします。
「誰の味方なのかしら?
お父様だけ?」
「さあ、どうでしょうか?
男爵家にとってよい結果になるように、で、ございますかね。
お嬢様を打擲するのはまあ、いささか不機嫌も交えていたこともあるように思いますが?」
「自分の不満を私で晴らさないで頂戴!
それで?
今回はどうやって憂さ晴らしをするつもり‥‥‥?
リドルはまだまだ、自由に生きて行きたいって言ってるわよ、ルッカオ」
「お嬢様。
憂さ晴らしとは人聞きの悪い。
その何倍も苦労をさせて頂きました我々の心労も気づいて頂きたいと思います。
さて、リドル様はそろそろ賞味期限が危ういですからな。
旦那様はどうあれ、奥様は高みを目指されております。
つまり」
「そうね。
私しか駒がいないと、そういうことね」
「左様ですな。
リドル様がどう思われているかはわかりませんが、旦那様は奥様の御実家の助力をまだまだ失うわけには参りません。
それと同じく、伯爵家との縁もまた大事でございますな。
アミュエラ様」
はあ‥‥‥
そんな未来でもない間近なことを言わなくても理解はしています。
議員でいるためには、両家の後ろ盾も必要なことも。
最後には議員から名誉議員となれれば、一つ上に上がる可能性もあることも。
お母様は政治というものが見えていないのでしょう。
だから、今だけを見て発言してしまう。
もっとも、世にいる女性の大部分がそうなのかもしれませんが。
「でもね、ルッカオ?
あの奴隷はどうするつもり?
伯爵家の第二夫人としての地位はまだまだ揺らがないかもしれないのよ?
我が家の土地財産すらも奪われそうなのに。
南方の出自の娘に」
「まさか、お嬢様。
そんな簡単なこともご理解されていないのですか?」
「‥‥‥どういうこと?」
「お嬢様に所有権が移譲されるのでございましょう?
ならば、奴隷からその娘が第二夫人に上がったとしても、立場はお嬢様の前では奴隷でございますよ。
好きなように扱い、所有権ひいてはその財産の全てをお嬢様が管理なされれば宜しいではないですか?」
「え‥‥‥っ?」
それは意識の外にある見解でした。
つまり、私はまだステイシアに彼の全てを奪われてはいない。
そういうことなのですから。
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