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その翌月。
指定された王都の屋敷へと、レーゼン侯爵令嬢アリスは王命に従い、居を移すことになる。
そこは王都の南側に佇む一軒家で、作りも二階建てのもの。
部屋数も二十も無く、どうみても、王族の側室に上がる女に与えらえるような邸宅ではなかった。
四頭立ての馬車から降りて、実家から連れてきた侍女や従僕数名と暮らすには広すぎたが‥‥‥
「まあ、子供を産む道具。
それとも、わたしの資産目当て、かな?」
もうすこしくらい、愛情を割り振ってくれてもいいのに。
「ようこそ、アリス様。
お待ち申しておりました」
そう言い、現れたのはたった一人だけの使用人。
騎士も衛士すらもいない、実家から連れて来なければなにもできないかもしれない。
この状況はあまりにもひどすぎた。
「ようこそ、と言われますけれど。
お前は誰かしら?」
嫌味を込めてアリスは言い放つ。
彼は礼を崩さず、
「はい、この度、アリス様の食事廻りの世話を仰せつかりました、ライル・ド・バーグと申します」
料理人のくせに、爵位を持ってる?
妙なものね。
そうアリアは思った。
「ではバーグ卿?
子爵様? それとも、順男爵様かしら?」
そのどちらでもありません、そうライルは首を振った。
「祖父が、文官にて少しばかりの働きが良かったために、名だけを頂いた身でございます。
平民と思って頂ければ‥‥‥」
ああ、上民になったということね。
商人などによくある、貴族ではないけれど、市民でもない。
中途半端な役どころ。
どちらでもいいわ。期限の決められた旅行と思う事にしましょう。
こうして、アリスの王都での第一日は始まった。
ライルはさすがに側室にとはいえ、国が選んだ料理人だった。
毎朝の料理は簡素に、昼は少しばかりの野菜と新鮮な魚料理を。
夜は戒律に則り、牛を出す日もあれば豚を出す日もあった。
ただ、この国では羊肉を食べることが上質とされてきたからそれ系の料理を彼は豊富に披露して見せた。
一月ほどそんな日々が続く中で、アリスの期待はどんどん薄まっていった。
あの王命とされた勅書には婚前契約書も含まれていた。
それによれば、最低でも夫になるものは週に一回は妻となるものとの夜の食事をしなければならない。
そう書かれていたからだ。
ある夜、アリスは寂し気にライルにぼそりと思いを漏らしてしまう。
「もう、旦那様は一月も来られないのね‥‥‥」
と。
ライルはその一言の意味がわからず、不思議そうな顔をした。
「あなたとばかりよ、ライル。
この屋敷には二十人は座れる大広間の大きなテーブルがあり、部屋も二十は下らない。
その割に誰も護衛はつかづ、慌てて、我が家の執事が十人の騎士を寄越してくれたわ。
そしてーー」
アリスの視線は、やはりあの時と同じく。
部屋に用意されている暖炉に水道、かまどなど。
この部屋で食事を自炊できる設備に目が行く。
指定された王都の屋敷へと、レーゼン侯爵令嬢アリスは王命に従い、居を移すことになる。
そこは王都の南側に佇む一軒家で、作りも二階建てのもの。
部屋数も二十も無く、どうみても、王族の側室に上がる女に与えらえるような邸宅ではなかった。
四頭立ての馬車から降りて、実家から連れてきた侍女や従僕数名と暮らすには広すぎたが‥‥‥
「まあ、子供を産む道具。
それとも、わたしの資産目当て、かな?」
もうすこしくらい、愛情を割り振ってくれてもいいのに。
「ようこそ、アリス様。
お待ち申しておりました」
そう言い、現れたのはたった一人だけの使用人。
騎士も衛士すらもいない、実家から連れて来なければなにもできないかもしれない。
この状況はあまりにもひどすぎた。
「ようこそ、と言われますけれど。
お前は誰かしら?」
嫌味を込めてアリスは言い放つ。
彼は礼を崩さず、
「はい、この度、アリス様の食事廻りの世話を仰せつかりました、ライル・ド・バーグと申します」
料理人のくせに、爵位を持ってる?
妙なものね。
そうアリアは思った。
「ではバーグ卿?
子爵様? それとも、順男爵様かしら?」
そのどちらでもありません、そうライルは首を振った。
「祖父が、文官にて少しばかりの働きが良かったために、名だけを頂いた身でございます。
平民と思って頂ければ‥‥‥」
ああ、上民になったということね。
商人などによくある、貴族ではないけれど、市民でもない。
中途半端な役どころ。
どちらでもいいわ。期限の決められた旅行と思う事にしましょう。
こうして、アリスの王都での第一日は始まった。
ライルはさすがに側室にとはいえ、国が選んだ料理人だった。
毎朝の料理は簡素に、昼は少しばかりの野菜と新鮮な魚料理を。
夜は戒律に則り、牛を出す日もあれば豚を出す日もあった。
ただ、この国では羊肉を食べることが上質とされてきたからそれ系の料理を彼は豊富に披露して見せた。
一月ほどそんな日々が続く中で、アリスの期待はどんどん薄まっていった。
あの王命とされた勅書には婚前契約書も含まれていた。
それによれば、最低でも夫になるものは週に一回は妻となるものとの夜の食事をしなければならない。
そう書かれていたからだ。
ある夜、アリスは寂し気にライルにぼそりと思いを漏らしてしまう。
「もう、旦那様は一月も来られないのね‥‥‥」
と。
ライルはその一言の意味がわからず、不思議そうな顔をした。
「あなたとばかりよ、ライル。
この屋敷には二十人は座れる大広間の大きなテーブルがあり、部屋も二十は下らない。
その割に誰も護衛はつかづ、慌てて、我が家の執事が十人の騎士を寄越してくれたわ。
そしてーー」
アリスの視線は、やはりあの時と同じく。
部屋に用意されている暖炉に水道、かまどなど。
この部屋で食事を自炊できる設備に目が行く。
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