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「こんな一人で食事をするなんてむなしいことを、もう一月よ?
あなたの作る料理は美味しいけれど。
そこに不満はないわ。
ただ‥‥‥」
見てごらんなさい、文字は読める?
そう言い、アリスは婚前契約書をライルに渡した。
「見たことは忘れた方がいいし、他言しないことね。
命がなくなるから」
「そのような恐ろしいものを読めとは‥‥‥」
「だって、あなたにわたしの命はかかっているんだもの。
殺したいなら好きに毒でも盛ればいいわ」
半ばあきらめ半分でアリスはそう言った。
「週に一度の夜食を共にすること、週に一度の礼拝を共にすること。
処女であること、他に愛を語らないこと。またそのような行為を慎むこと‥‥‥ですか」
そうよ、そう言い侯爵令嬢は寂しさ紛れにワインを多めにグラスに注いだ。
「もう、その大半が相手側によって破られてるわ。
でも、どうにでも言い訳が立つのよ。
食事は、別の場所でそれをすると手紙を送ればいい。
礼拝も同じく。
不貞に関してだけがこうるさいだけ。
何か趣味でもあればね」
趣味はあちらにあるのでは?
料理人はやりかけの刺繍や、バイオリンなどの楽器類が置かれた壁辺りをみる。
詩篇を編んでもいいし、吟遊詩人のパトロンとなる方法もある。
資産はたくさんあるのだから、時間の潰し方もいかようにでもできるはずだ。
彼はそう言いたそうだった。
「そうねー‥‥‥。
なら、バイオリンを取って貰えない?」
「はあ‥‥‥」
ライルがそのケースを渡すと、アリスはそれは物悲しそうに、弦を鳴らした。
その音は周囲に広く響き渡り、それから数夜に一度は辺りの貴族の邸宅に住む者たちの耳を癒すようになった。
あの新しくやってきた、侯爵令嬢はなかなかにうまい音楽の才をもたれているらしい。
そんな噂が第二王子の耳に入るようになったのは、期日も近い五月のある日だった。
あのバイオリンを弾いた夜からアリスはあることに興味を持ち始めた。
それまで、料理というものをたしなんだことが少ないことに気づいたのだ。
「ねえ、ライル。
もし、旦那様がいらした時にわたし、手料理を振るまってみたいわ」
そう、次の日の朝。
アリスは料理人に頼んでみた。
「しかし、お嬢様。
包丁などは‥‥‥?」
そう問われ、そこにある鴨をいい?
とアリスは指差す。
鴨撃ちで仕留めたものをその場でさばき、バーベキューのようにして数日を狩りに費やしていた彼女にとって血抜きをし、毛をむしり、内臓の悪手な部分をさばいて下ごしらえをする。
それは手慣れたものだった。
ライルは下ごしらえをしたものを、アリスの部屋で調理していたから普段は台所でそのような作業をしてから、アリスの部屋に食材を運んでいた。
「これはなかなか‥‥‥まあ、そのお手が血に触れることが嫌でないのならば。
ですが気をつけてくださいよ?
もし、その指先でも切ることがあればわたしの首が飛びますので」
下手に刃物はもたせられないと考えた彼は、お菓子などの作り方ならば、と。
その方法の伝授を始めた。
そんな中が数週間続くと、アリスはこれを良い花嫁修業だと考えていたがそうでないと思うものもあらわれてきた。
実家の執事が護衛にと送って寄越した騎士たちの世話をするように王都で新しく雇った、数人の侍女の一人が、これは宜しくないことだとそっと、たまに立ち寄る王宮からの役人に告げ口をしたのである。
あなたの作る料理は美味しいけれど。
そこに不満はないわ。
ただ‥‥‥」
見てごらんなさい、文字は読める?
そう言い、アリスは婚前契約書をライルに渡した。
「見たことは忘れた方がいいし、他言しないことね。
命がなくなるから」
「そのような恐ろしいものを読めとは‥‥‥」
「だって、あなたにわたしの命はかかっているんだもの。
殺したいなら好きに毒でも盛ればいいわ」
半ばあきらめ半分でアリスはそう言った。
「週に一度の夜食を共にすること、週に一度の礼拝を共にすること。
処女であること、他に愛を語らないこと。またそのような行為を慎むこと‥‥‥ですか」
そうよ、そう言い侯爵令嬢は寂しさ紛れにワインを多めにグラスに注いだ。
「もう、その大半が相手側によって破られてるわ。
でも、どうにでも言い訳が立つのよ。
食事は、別の場所でそれをすると手紙を送ればいい。
礼拝も同じく。
不貞に関してだけがこうるさいだけ。
何か趣味でもあればね」
趣味はあちらにあるのでは?
料理人はやりかけの刺繍や、バイオリンなどの楽器類が置かれた壁辺りをみる。
詩篇を編んでもいいし、吟遊詩人のパトロンとなる方法もある。
資産はたくさんあるのだから、時間の潰し方もいかようにでもできるはずだ。
彼はそう言いたそうだった。
「そうねー‥‥‥。
なら、バイオリンを取って貰えない?」
「はあ‥‥‥」
ライルがそのケースを渡すと、アリスはそれは物悲しそうに、弦を鳴らした。
その音は周囲に広く響き渡り、それから数夜に一度は辺りの貴族の邸宅に住む者たちの耳を癒すようになった。
あの新しくやってきた、侯爵令嬢はなかなかにうまい音楽の才をもたれているらしい。
そんな噂が第二王子の耳に入るようになったのは、期日も近い五月のある日だった。
あのバイオリンを弾いた夜からアリスはあることに興味を持ち始めた。
それまで、料理というものをたしなんだことが少ないことに気づいたのだ。
「ねえ、ライル。
もし、旦那様がいらした時にわたし、手料理を振るまってみたいわ」
そう、次の日の朝。
アリスは料理人に頼んでみた。
「しかし、お嬢様。
包丁などは‥‥‥?」
そう問われ、そこにある鴨をいい?
とアリスは指差す。
鴨撃ちで仕留めたものをその場でさばき、バーベキューのようにして数日を狩りに費やしていた彼女にとって血抜きをし、毛をむしり、内臓の悪手な部分をさばいて下ごしらえをする。
それは手慣れたものだった。
ライルは下ごしらえをしたものを、アリスの部屋で調理していたから普段は台所でそのような作業をしてから、アリスの部屋に食材を運んでいた。
「これはなかなか‥‥‥まあ、そのお手が血に触れることが嫌でないのならば。
ですが気をつけてくださいよ?
もし、その指先でも切ることがあればわたしの首が飛びますので」
下手に刃物はもたせられないと考えた彼は、お菓子などの作り方ならば、と。
その方法の伝授を始めた。
そんな中が数週間続くと、アリスはこれを良い花嫁修業だと考えていたがそうでないと思うものもあらわれてきた。
実家の執事が護衛にと送って寄越した騎士たちの世話をするように王都で新しく雇った、数人の侍女の一人が、これは宜しくないことだとそっと、たまに立ち寄る王宮からの役人に告げ口をしたのである。
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