家族の絆? では、大広間に参りましょう旦那様。

星ふくろう

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 当日。
 豪奢な六頭立ての馬車が一台。
 その前後に数頭の騎馬衛士がついて、第二王子がアリスの屋敷を訪れた。
 彼を迎えたのは、新たにこの王都で雇い入れた侍女たちで、その中にはあの告げ口をした侍女も含まれていた。
「王子様。
 今宵もご機嫌麗しく‥‥‥」
 などと当たり前の挨拶をすると、アリスは彼を大広間へと案内した。
 そこには朝からライルや侍女たちが忙しくしたごしらえを済ませ、焼き上げたばかりの肉料理や、蒸した魚料理、その他、第二王子が好きそうなものを多めに用意していた。
 その端には、アリスが習ったばかりのいくぶんかの料理も並べられていた。
 暖炉側に主が座る席に近い様にと置かれたその料理に、彼は目もくれず、ただ好きな肉料理のみを口にしていた。
 そのお腹が少しは減れば、わたしの愛情も増すのに‥‥‥
 自分の手料理とは伝えてないからこの対応は仕方がない。
 せめて、一口、そう思ったが彼はまったく手をつけないまま夕食は終わった。
 お菓子などが運ばれてくるとこれには、彼は旺盛に手をつけてくれた。
 その食事の様はあまり美しくはなかったが、アリスの心を慰める程度には彼女を笑顔にさせた。
 そんな、最中のことだ。
「さて、ところで妻よ?」
 婚前契約書を交わした時点から二人は、一応、夫婦である。
 第二王子がそう呼ぶことになんの問題もなかった。
「はい、なんでございましょうか?」
 旦那様。その言葉がつかないことに、第二王子ウィルソンは少し不機嫌な顔をする。
 だが、彼にはそれ以上の喜びが待ち受けていたからどうでもよかった。
「聞いた話だが、料理人。
 わたしが手配した者だが。
 どうにも、彼と仲の良いとの噂が持ちきりでな?
 お前はバイオリンをたしなむらしいが‥‥‥???」
 はい、少々。
 そうアリスは答えた。
「自室で食事をし、料理人の前でバイオリンを奏で、笑顔で料理を共にする、か。
 不貞の極みだな?」
 世間ではよろしくは言われてはいないぞ?
 そう第二王子はアリスに言う。
 その目にはもはやアリスを妻ではなく、単なる資産を増やすための道具でしか見えていなかった。
 アリスはその視線を受けて、やはりこうなるのか、と。
 心に決めていたある計画を実行に移すことにした。
「王子様、自室での食事については大司教様よりの自粛の進言があることをご存知でしょうか?」
「大司教猊下の進言?」
 いきなりなにを言い出すのか?
 彼は不可解な顔をした。
「貴族の根本は一族であり、家族です。
 このように大広間での夕食こそが、正しい家族の形である。
 そう大司教猊下は説いておられます」
 この言葉で彼は変わってはくれないだろうか?
 だが、そのアリスの希望は、甘い砂糖菓子のように溶けて去ってしまった。
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