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プロローグ
フェイブルのルグ
しおりを挟む「おじいちゃんー」
「ん? どうした美亜」
「ここ、どこ?」
身震いがした。眼下に映る景色は見慣れたもの。だが、写真や動画などでだ。
地球がそこにはあった。
「宇宙、と言えばいいか?
でもわかってるだろ?」
陽一は平然としていた。
落ち着いて心安らぐような表情で美亜の手を握っている。
まるで何度もこの場所にきたことがあるかのように美亜には見てとれた。
「何言ってるの?
分かってるって。ここが宇宙だって……こと?」
恐る恐る尋ねると、陽一はそうだよ、と笑顔で答えた。
「でもどうやって?
私たち天文台の中にいたじゃん」
そうは言うが、なんとなく検討はついていた。
空間を飛び越えたのか、それとも空間を捻じ曲げてくっつけたのだ。
その入り口があの扉に繋がっていた。
アニメではよくあるシーンだ。
でも、それをいきなり理解しろと暗に言われても中学生の美亜には無理な問題だった。
「ああ、そうだな。
亜紀の時はもっと小さい頃からここに来てたからな」
え?
美亜は耳を疑った。
「おばあちゃん?
じゃあ、お母さんも?」
「一夏はそうだなー……、あまり関係ないな。
まあ、旅立ちには近い時期だし。
そろそろあいつもこっちに来る頃だろ」
旅立ちって何?
美亜の頭の中は疑問でいっぱいだった。
と、美亜は視界の隅に何かが動いた気がした。
それは最初は黒い点のようで、徐々に大きくなり、やがて等身大の大きさ。
そう、美亜よりは頭三つ分ほど大きな何かになった。
その内側がカメラのシャッターが逆に開くように開き、中から人ではない何か、が現れた。
「やあ、イスミ君。
久しぶりだな」
陽一は彼女? 人間の様だがそうではない。
遺形に近いがもっと何かが違う。そう、より高度な何かに進化したような、高い完成度を持つ何かのような気がした。
イスミと呼ばれた彼女は左足を下げて頭を軽く下げた。
多分、彼らなりの挨拶なのだろう。
「お久しぶりです、ラー」
「ああ、地球名でいいよ、イスミ君。
その名前はまだ早い」
「失礼しました、須賀先生。
そちらは?」
言って、陽一に向けた視線とは明らかに別のものを美亜に向けてきた。
「ああ、孫の美亜だ」
「孫?
フェイブルがですか?」
フェイブル?
自分に向けられたこの視線の意味を正体を美亜は知っている。
産まれてこの方、日々、どこかで他人と会うたびに必ず投げかけられる二種類の視線。
そう、興味と侮蔑。
これは、後者に近いものだった。
美亜は少しばかりイスミと呼ばれたこの異形の女性をにらみつけながら挨拶をした。
「初めまして、須賀陽一の孫娘の橋本美亜です」
そして陽一に質問した。
「おじいちゃん、こちらは?」
「美亜、アスタムのイスミ君だよ。
もっとも、イスミというのは地球姓だが」
「先生、フェイブルにそのような扱いはー」
「いいんだ、形だけでも孫は孫だからな。
で、みんなは揃っているのか?」
有無を言わさない強い口調でイスミの言葉を遮ると、陽一は美亜を抱き寄せた。
大丈夫だ、小さな声でそう言ってやる。
イスミは面白くなさそうな顔をしたが、陽一よりは立場が下なのだろう。
直ぐに姿勢を正した。
「本星の枢軸議会が数時間前、地球時間でいいますとより時間が増しますが。
決定を下しました」
どうぞ、とイスミは先程でてきた穴の奥へと陽一を案内する。
そこは広い空間がはるか上まで続き、幾本かの通路らしきものと円形の壁がそれらを隔てていた。
美亜もそれに続こうとして、穴の中にいた同年代の女子に止められた。
「フェイブルはこれ以上はいけないわ。
あなたはわたしときてください」
美亜と対照的な赤い髪を持つ少女はそういうと、美亜の手を取って一段下にある通路に導こうとする。
「おじいちゃん!」
美亜は祖父に助けを求めたが、大丈夫だ。行ってきなさい、と手を振られてしまった。
「さ、こちらへ」
見上げると、陽一たちも同じ方向に歩を進めていた。
「ねえ、ちょっと、おじいちゃんたちも同じ方向にいくならなんでこっちに?」
手を引いてどんどんと歩き出す赤髪の少女が、怒ったように言い放つ。
「わたしたちフェイブルが、アニマスの方々と同じ場に立てるはずがないでしょう」
そういって、途中で脇道にそれると陽一たちが過ぎ去ったのを確認して赤髪の少女は美亜を壁にどんと投げつけた。
「いったっ。なにを……?」
「あなた何考えてるの?
アニマスの前であんな態度とるなんて。
処分されたいの?
ライナブ様がいらっしゃらなければ即、廃棄炉に放り込まれて消滅してるわよ」
「消滅?
ライナブって、おじいちゃんのこと?
ここどこなの?」
美亜には少女が怒っているのではなく、自分を巻き込まないでくれ、と忠告されているような気がした。
「ここはどこって……、あなた、何を言ってるの?
ライナブ様の従者ではないの?
おじいちゃんなんて呼んでいい相手ではないのよ、あの御方は」
「だって、私のおじいちゃんだし。
いつも一緒に暮らしてるよ?」
相手は相当苛立っている。
自分も何か本質が違う話をしているような気がしていた。
「ちょっと話しようよ。
ここじゃないとこで」
相手に言わせるなら自分から攻めた方が早い。
少なくとも、美亜はそういう性格だ。
「いいわ、着いてきて」
少女も何か言いたいことがあるのだろう。
ここで論争しても仕方ないと思ったらしい。
先程と同じく美亜の手を引いて幾つかの通路を横切り、見た目にも何か最初の場所よりみすぼらしい区画へと二人は移動していく。
「どうぞ」
赤髪の少女が薄暗い簡易的な扉的な何かの前で立ち止まると、片手の手首につけていた何かを操作した。
扉が開くと中には二畳程の狭い空間があり、そこに少女は床から迫り出してきた円柱に腰かけた。
「あ、お邪魔します……」
「おじゃま?」
「あーなんていうか、日本の挨拶。
他人の部屋に入る時の」
「そう、知らなかった」
まあ、そうだよね、と美亜は思う。
赤髪の少女は地球で言うところのなんだろうか。
長い一枚布を器用に巻き付けた、インド風のだが露出の少ない恰好をしていた。
だが、足元は素足だし、その服もこの部屋もお世辞にも高級感はなかった。
「あの、私、橋本美亜。
あなたは?」
「わたしはフェイブルのルグ。
みーあ、発音しづらい」
「みあ、よ」
「みあ、か」
「そうそう」
ふむ、という顔をルグはした。
「さっきはごめんなさい」
え? 美亜はルグがいきなり謝るから理由が思いつかない。
何より、日本語で会話が成立していることが不思議でたまらなかった。
「謝ること、あなたなにかした、ルグさん」
「さん?」
「えーと、敬称よ」
伝わるかなと不安になりつつ、親しい仲ならば呼び捨てもありだが日本では基本的に家族以外の人にはさんをつけるのだ、と美亜は説明した。
「そうか。
文化の差は難しいな」
ルグは不思議そうな顔をする。
「ねえ、美亜でいいよ。
あなたのことはなんて呼んだらいい?」
「わたしか?」
ルグは困った顔をした。
「どうかした?」
「ないんだ」
ない?どういう意味だろう。
「ああ、つまり。
フェイブルは一番下のものだから。
所有物だから。さん、とか言われたことがない」
「一番下?
フェイブルって何? ルグさん」
ルグは少し思案顔になると、何かに気づいた顔をした。
「本当に、何もわからない?」
美亜はその問いを待ってましたとばかりに即答した。
「はい。何もかも」
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