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プロローグ
自由への渇望
しおりを挟む「じゃあ、わたしたちは治療の為に作られた道具だったってこと?」
「そうだ。
そして道具ゆえに人権などは認可されていない」
美亜はルグから様々な公国の歴史と自分の出自について聞かされていた。
「だがー」
だが?
ルグは手元にある美亜には何かわからない腕時計のようなものを操作して、二人の眼前に一つの立体画面を投影した。
「ルグさん?」
ふと見ると、彼女は大粒の涙を流していた。
「どうしたの?」
「わたしたち公国のフェイブルは第一期は機械から製造された。だが、その後は自然に拠る生産だった。わたしには、あの方々、アスタムの人々が言う父や母、姉や妹がいるのだ。
いつもみな怯えていた。処分されるのはアスタムの気分による。
上の姉は叱責されただけで処分された。三番目の弟はソエ罹患病の災禍を引き受けて死んでいった。いつ死ぬかわからない恐怖しかなかった。
これで、これで誰も死ななくて済む。これで……」
よく理解できない美亜はそこに書かれていることを読み上げて説明してもらった。
分かったのは、ルグたちがこれから移住する先は正当な人権を永遠に保障されていて、彼らは人として生きていけるということ。地球のフェイブル、つまり美亜たちは陽一の管理下には入るがこれから二度と公国の干渉を受けないこと。
そしてー。
地球からアスタムの大量移動が行われその大半が公国に帰還したことが書かれてあった。
「お母さんー……」
美亜は途端、不安になった。
母親は自分を捨てて公国へと、宇宙の二度と再会できない遥かな見知らぬ土地へと行ってしまったのではないかと……
「美亜、あなたのおじいちゃんに感謝する。
いつか、私たちが星間航行を許可されたら会いに行っていいか?」
ルグは熱く語り、美亜に深い感謝を述べた。
「うん、もちろん。
それと、わたしのことは美亜って呼んで。わたしもルグって呼ぶから」
二人の間に新たな友情が生まれた瞬間だった。
「で、おじいちゃん。
お母さんはどうするの?」
ルグと別れ、迎えに来た陽一とともにくぐった扉の先には見慣れた天文ドームがあった。
「ん? 一夏は残るとさ。
というか、いまこの歩山城市に住んでいるアスタムのうち、帰還したやつは一人もいないよ美亜」
「どういうこと?
名簿には三百人近い名前があったわ」
ルグの見せてくれたあの書類にはそう書かれていた。
「あれは、普段は市内の施設に収容されていたソエ罹患病の患者だけだ」
「え、じゃあ、みんなの親は?」
そのまま残ってる。
大森先生も谷塚君もだ」
あ、あの二人もそうだったんだ。
「でもおじいちゃん。
おじいちゃんの姿、地球人のままだよ?」
「そりゃそうだよ。
私は地球産まれ地球育ちだ」
「え、じゃあ」
「あの土地に祖先が二千年も前からいたんだぞ?
そりゃ、人間に近くなるさ」
でも、と美亜は顔をうつむける。
「私は作られたんだよね……?。
他の皆もそうなんでしょ?」
馬鹿だなあ、と陽一は美亜を抱きしめる。
「その遺伝子の提供者は一夏だよ。美亜。
お前は一夏の本当の娘だ」
「本当に?
本当に、私はお母さんの子供なの?」
「ああ、本当だよ。
嘘だと思うなら、遺伝子の鑑定を受けるといい」
地球でもそれくらいの技術はあるさ。
そう言って陽一は孫娘の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「さあ、そろそろ行こうか。
大森先生が酔っぱらって、谷塚くんが肉を焼いてて、みんなが待ってるぞ」
「うん!」
陽一が扉を開けるとそこには見慣れた屋上が広がっていた。
大森先生をハルカが叱責し、中道と谷塚が星について熱く語り合っていた。
「来月はもうないけど。
次は博物館の屋上でやればいいさ」
「うん。あ、そうだ。
私、ルグって子と友達になったの。連絡の取り合い方教えてよ」
「いいぞ、いつかは俺みたいに公国の大学院まで行くといい。
宇宙は楽しいぞ」
美亜ははるか天空に広がる星々の海のどかにある、フェイブルの国へと行ってみたいと思った。
ルグと恋話とか夜通し遊んだりしたい。
そして。
二人は今夜限りの彼との別れを惜しむように天文台を見上げた。
さらば歩山城中学校天文台。
美亜はそう心の中で叫んだ。
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