18 / 24
第五章 アリアと闇の妖精たち
石化の魔法
しおりを挟む「そうなりますとこれで誰かを先に行かせるということは難しくなりますな」
「そうだと思う。こちらとあちらの時間の流れを少しでも変えることができればまた別なんだろうけど」
「この城の中でならば、それも可能なのでは?」
「やってしまったら、いまいらしている来賓の方々に色々と面倒なことになると思わない?」
この状況下で一番の問題となるのは誰でもない。
城の中に招いているあのお客様たちだ。
南からも西からも北からも世界のいろんな場所からやってきた神々が、わたしのやり方一つ一つの興味を持たないはずがない。
どんなやり方をしても彼らが元の場所に帰っていけばそこでは色んな噂が立つだろう。
その時に、せめて旦那様の恥にならないようにしっかりとしなくてはならない。
「ともかくそこの不審者には地下牢に入ってもらいましょう」
「それが妥当ね。よろしいかしら、ライシャ?」
「……は、ええ……知らなかった。そんな道具で利用されていたなんて……」
「自覚はなかったって言うつもり? あなたも妖精王の娘ならそれなりに魔法が使えたはず」
「……何か不思議な力に心を掴まれるような感じはありました。でも、ルイがおっしゃるようなことをしてなんて、ちょっと信じられない……」
そう。
どうなんだろう。
老ダークエルフの持っていた「兆しの杖」はそうな効果を及ぼす道具だという話だけど、彼がこれを使ってライシ ャに何をさせていたのかは、また別の話になってしまう。
調べあげたいところだけれど、今は本当にそれどころじゃないのよね。
「戻り次第調べることにしましょう。ではおまえたち」
わたしの合図で魔力を使えないように法具を付けられ、拘束されたルイが憎々し気な目をこちらに向けてくる。
一瞬彼の目が銀色の光を放った。
銀色? 彼の瞳は金色だったはず。
背中に、闇が這うような異様な感触をおぼえた。
意識する前に、水の精霊たちがわたしに向けられた何かに対して、先ほどルイのまえに作り上げたような水壁を作り上げる。
光がはなたれ、届くあいだの瞬間のこと。
言葉が音になるよりも早く、その光は壁の前に崩れ落ちる。
と、いうか……水の壁の接触したぶぶんだけが強固な石と化して流れ落ちた。
「陛下、ご無事かな」
「……ええ。なにかしら、これは……」
リクウスが知らぬ間にわたしの目の前に飛んでいた。
そう、駆けたのではなく。中空を飛んでいた。
水壁だと思ったのは、彼の勇壮なたてがみのそれだったのだ。
静かな声に救われて、思わず悲鳴をあげそうになるのをぐっとこらえるとそれだけを返すことができた。
書記官やニーエさんにライシャ。
他の武官・文官ともに……ああ、誰もが優秀すぎる。
わたしが対応しなくても、ルイの瞳がはなった何かの魔法は、幾重にも彼らが対処した結界だの、剣先だのによって阻まれていたのだから。
「石化の一種かと。古い魔法……神ではなく闇に属する魔族の利用する、呪いの一つ。光を目の奥にとらえてしまうと、そのまま石になるのです」
「……とんでもない魔法ね」
「呪いの方が正しいですが、まあ我らがどうこうする必要もなかったようですな。陛下の周りには御自身の壁が幾重にもなされているようですから。ああ、お前たち、目を塞げ。布でもかぶせればもうなにもできん」
リクウスがそう命じると、ルイは……いや元ダークエルフだったはずの何か……咄嗟のことに臣下たちの攻撃により燃えたり、裂けたり、凍り付いて砕けたりとした肉塊は、何も物言わぬまま運ばれていった。
「……お前たち、ご苦労でした……」
「あれはまた後で、元通りにしておきましょう。聞きたいこともありますでな」
「任せるわ。ダークエルフって馬鹿に出来ないのね」
「それはもちろん。人間でも命を賭ければ恐ろしい力を発揮しますから。さて、ライシャ様ですが、いかがなさいますか?」
「え?」
「この場で八つ裂きにするものよし、首をはねるのもよし、氷漬けにしてはく製にして飾っておくのも宜しいでしょう。さすがダークエルフの王女、見た目はなかなかに美しい」
「え、あの。待ちなさい、リクウス」
「それとも生きたまま腹を切り裂き、内臓を引き抜いて太陽の下にさらしてやるのもよいでしょうな。狼やこの辺りに住む野生動物のどもの、舌を喜ばせてやることになる。神々の前で調理をして出すのが宜しいでしょうかな。ダークエルフというのは一時期、エルフの中でも最下位だとして奴隷として売買され、その肉体が良い薬のもとになるという迷信はあったほどで。調理方法も、いろんなものが伝えられておりますから」
「待ちなさい! そんなライシャの恐怖心を煽るようなこと言わない!」
「おや、そうですか。よかったなライシャ殿。我が女王陛下はそなたのことを、今は罰する気はないらしい。臣下の我々からしてみれば、今この場で処断されてもおかしくないと思うが、まあ、よろしい」
「……リクウス。あなたのそういうところが好きじゃないわ」
「それは残念。ですが女王陛下、妖精とはいま話したわしのように、残酷で気まぐれで自分勝手な存在だと認識していただきたい」
「あ……」
静かに素直にわたしは頷いた。
リクウスは満足そうな顔をすると、さっさとわたしの左側に戻ってしまう。
神でもない、精霊でもない妖精たち。
その考え方の根源にあるのは、人とは違う倫理観だと思い知らされる。
彼らは人よりももっと自然に近くて、その意志も理論化されたものではなくて、大きな力の流れに沿うようなそんなものなのだ。
法律とかそんなものではなく。
未来に起こること、いまそこにある力の大きな流れに寄り添うこと。
それが、妖精たちの生き方なのだと、おぼろげに掴み取る。
「すこしだけ良い機会だったかもしれません。我が女王」
「ラスア……そうね。そうかもしれない。それからライシャ殿、いまは何も致しませんよ。ルイ殿はああなってしまったかけれど」
少し落ち着くように声をかけても、床にしゃがみこみ両手で顔を覆ってむせび泣く彼女がいた。
かつての仲間の変わり果てた姿を見たライシャは、あれほど傲慢だった態度はどこかに消えてしまい、抵抗することを忘れた無力の徒へと化していた。
自分のこれからを考えたのかななんて思ってしまった。
連れてきた部下が助けを求めた相手に無礼を働いたら、その主であるライシャが無事ですむ保証はなくて。
リクウスが脅しめいた言葉をかけたことも、彼女の感情に大きな怯えをもたらしたの。
まったく、おじいちゃんったら……。
「いいえ、いいえ……陛下」
「落ち着きなさい。あなたまでわたしに何かをするつもりですか?」
そう問いかけると、ゆっくりと顔をあげ、両手を降ろした彼女は、よくよく見れば目尻がちょっと垂れた犬のような可愛らしい瞳をしていて。
目の端からは恐怖からか、それとも申し訳なさからか。
とどめない涙が溢れて止まるところを知らない。
「そんな、ことは……ありません。我が古郷を、お助け下さい、陛下……」
「心配しなくても、ルイは元に戻します。彼には相応の罪が与えられるだろうけど、それも妖精王様がお決めになるでしょう。あなたが泣いていては侍女も泣き止みませんよ?」
「え?」
落ち着きなさいとライシャに言い含める。
侍女と聞いて後ろを振り返った彼女は、もう一人のダークエルフの少女、エステラを見やった。
あちらはあちらで、ルイの行なった行為とその後に与えられた罰に、戦慄したらしい。
その場にへたり込むと、何も言えないままこちらに恐怖の視線を向けていた。
「二人とも罰する気はないから……もっとも、ルイに加担したというならば話は別ですが」
「な、ないです!」
「それは、ありません陛下」
二者二様の返事が戻ってくる。
なんだかとんでもないトラブルが起こったけど、とりあえず邪魔者一人消えたらしいし。
そろそろ次の舞台の幕は開けなければ、物語は進まない。
時間は刻々と押していて、戻ることはないのだから。
わたしは二人のダークエルフの少女たちに歩み寄ると、ライシャを先に。次はエステラを立たせまずはリクウスを筆頭に先遣隊を門の向こうにやることに決めた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
追放された聖女ですが辺境領主と幸せになります。禁術で自滅した偽聖女と王太子の完治?無理ですね。
ささい
恋愛
十年間、奇跡を起こせなかった聖女エミリシアは、王太子に追放された。
辺境の村ミューレンベルクで静かに暮らし始めた彼女は、領主レオフィリスの優しさに触れ、心の平穏を取り戻していく。
ある日、村で疫病が発生。子供たちの命を救いたい一心で祈った時、ついに聖女の力が目覚めた。
その後、王都から助けを求める使者が現れる。
追放した王太子とその婚約者候補リディエッタが、禁術の反動で倒れたという。
エミリシアは命を救うため王都へ向かうが、二人の完治は不可能だった。
全てを終え、彼女はレオフィリスと共に愛する村へ帰る。
◇
命を見捨てなかった。浄化はした。治癒は。
◇
※他サイトにも投稿しております。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる