聖女と魔王の白い結婚

星ふくろう

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第一章 闇の聖女と魔王の誕生

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 出会って三秒で恋に落ちた、とはよくある映画のセリフですが‥‥‥。
 いまの私は目覚めて十秒でオダブツになりそうです。
  ここは異世界です。
 私は転生者です。
 現代、日本でいろいろあって死んだ後に真っ黒のよく分からない神様に出会い、異世界に転生しました。
「いやーすまんのー。どうやら予定してた事に巻き込んでしまったようでな。まあ、いい待遇を用意しておくから安心して逝ってくれ」
 なんて、さも安全度数百パーセントなセリフを信じた私は、転生先ではそれはもう素晴らしい第二の人生が送れるはず、と信じ切って死んだのでした。
  ‥‥‥がっ!!
 もうすでに死にそうです。
 四肢はがんじがらめに縄のようなもので縛られて、着ている服がどうかなんて何もわからない。
 なにより、口枷に目隠しまでされていたものの、視界だけは猛烈に暴れたせいかするりっと抜け落ちました。
 しかし、これがまずかったような気がします。
 現状把握。
 二人の男性に頭のうえに持ちあげられて、そのまんま放り込まれようとしています。
 その先にあるのは大地に大きく口を開いた地割れで、中にはグツグツと煮えたぎる‥‥‥そう、溶岩が私を待ち受けていました。
 男性陣、放り込む気まんまんでせーの、とか日本語じゃないからわかりませんが、まあそんなニュアンスの掛け声を上げることひとつ。
 そこには私に対する慈悲の心や、罪悪感なんて微塵にも感じられません。
 私を持ちあげている二人は溶岩のなかに投入する行為にこなれている感もあってそれが更に恐怖を加速させます。
「うぐっ、ふむ――! ヴッ――――――!」
 これは――もう、非常にマズい!!
 ミノムシみたいにされてうめき声をさんざんあげた所で、彼らから帰ってきた反応は――
 バシッ‥‥‥。
 そう、重い拳の一撃でした。
 それも腹部とかじゃなくて顔面に。
 一瞬、意識がクラッとして鼻の奥に熱いもの、鉄の味が脳に広がっていく。
 これは――日本で恋人から受けていた行為、そのままでした。
 そしていまここにいない彼はこの行為を平然と行っていた。
 日常茶飯事でした。
 だから、いまも同じ。
 怖くて、身体が緊張し、そして――彼らに従順になる自分が心の底から頭を突き出します。
 黙っていれば終わるよ。
 我慢していれば、あとは優しいんだから。
 ああ、でも‥‥‥あれに入ったら……私の中のもう一人の自分は、視界のそこにあるマグマの海につながる地割れを見て一言。
(もう、だめかもしれない)
 いや待って! そんな一言聞きたくないから、神様の嘘つき! 幸せな人生、どこ行った――!
 そんな内容の、うぐむぐと口内の切れた血の味をかみしめながら、悔しさに怒りを募らせていた時。
 さあ、行こうかと、男たちがこんどこそ、遠慮なしに反動をつけて私の肉体はいきおいよく。そう天ぷらにされる海老のように丁寧じゃないほどに‥‥‥ああ、何言ってんだ私! もう、目のまえにマグマが――迫る!
 そして、他人事のように最後の一言を語る、あいつがそこにいました。
(良かったね、詩音しおん? あんたもう、苦しまずに済むよ? たぶん、ね)
 たぶんね、じゃないわよ――! 神様の嘘つき――覚えてろ‥‥‥ッ!

 人生が終わる時はこんな感じなんですね。
 走馬灯?
 そんな表現生ぬるいです、あるのは記憶の初動。
 生まれてから死ぬまでの瞬間動画劇が脳内シアターに、それも光の速さを越えるように映し出されていくんだから‥‥‥ああ、死ななきゃよかった。
 そしてあんなわけのわからない、神様と名乗る真っ黒な物体の言うことなんて信じるんじゃなかった。
 猛烈な熱気が全身を包みこんで行く――前にふと、一瞬だけ見てしまったそれに疑問符が産まれた時。
 私はじゅわあああ――とさも、美味しそうな音を立てて消滅したのでした。
 死の寸前に思ったこと、それは死に間際におもうにはあまりにも的外れなものでした。
 だって、それはあまりにも異様な光景
 なんで、溶岩の海の亀裂のはずなのに、綺麗なレンガのようなもので壁が作られているの? ‥‥‥だったのですから。

 マグマに溶かされるヒロインなんてあり得ない! おまけに何なんですかあの綺麗は壁は。そして、神様に騙されたと思っている私の憎しみはいずこにっ! ああ‥‥‥死ななければよかったのです。あれ? 変ですね。死んだなら、こんな意識はないはず。まだ、あの黒い自称、神様に惑わされているのでしょうか?
(‥‥‥すまない、娘よ)
 は? すまない? 今更、どの口がそんなきれいごとぬかしますか??
 舌があればハサミで切り刻んで、桜のはなびらのように散らしてやりたい程です。
 桜吹雪ならぬ、血しぶきの雨の中で私は勝ち誇ったように叫ぶでしょうね?
 ‥‥‥ざまぁみろ!!、と。
(いや、それはまた。なんとも加虐過ぎないか、娘よ‥‥‥?)

 加虐?
 なにが加虐ですか!?
 あんな安心して死ねと言い、それを真に受けて信じた私も愚かですが、口先三寸で丸め込んだあの闇色の魔物を虐殺する権利は私にあるはず!!
(なあ、娘よ。すまないが、その暴力性の強い感情を制御しようとは思わないのか? 現世でどのような生き方をしていれば‥‥‥そう、なるのだ?)
 現世? あ‥‥‥っ。ここでようやく我に返る私でした。
「あの、あなたはどなた?」
 おや? 沈黙してしまいましたね、声の主。なにが気に入らないのでしょうか?
「ひっ?」
 いきなり、目のまえに集まり始める真っ赤な何か‥‥‥?
 あれ、あれ、あれ?
 それよりも、ここはどこ‥‥‥?
 そして、出てきたのは真っ黒な、牛(対比現物)とほぼ同じな犬。
 いや、もしかして‥‥‥モン、スター?
「あわわわ‥‥‥っ待ってください、あなたを侮辱したわけでは。あ、でもまさかあの黒いのがあなたなら恨みくらいは晴らしたいけど、でもああああっ!」
「娘。まずは落ち着く、という言葉を知ろうか?」
「しゃっ、しゃべった? やはり‥‥‥まともな存在ではないっのですね。悪魔ですか、魔物ですか、それとも――」
「魔に属する存在を意味したいなら、どれも変わらないだろう? 語彙力の足らぬやつ」
「ほっ、ほっといてください! 仕方ないじゃないですか、現世でしてたことなんて‥‥‥言えない、ですよ‥‥‥」
 その大きな犬は、私に鼻先を突きつけると、ふんふんっと何やら嗅ぎまわり――わかった。と、何やら納得したような顔? でそう言いました。そして、一言。
「すまぬ。あの黒いもの、あれは、我が一部だ」
「はあ? いえ、あの意味が‥‥‥理解できませんが?」
 だからな、と黒い犬はこちらに向かって腰を下ろします。
 ああ、そういえば私の全身は死んだ時のままの姿でした。
 いつの間にそうなったのか。不思議なものです。
「娘、いや、詩音、か。お前が死んだあの場であった、あの黒いものな。あれは、我の一部と表現していいものだ。意識を持つ、分離した自我そんなものと言うべきかもしれん」
「はあ‥‥‥。なら、あなたは誰ですか? あれは神様、なんて名乗っていましたよ。死後の世界に安定した、安全な人生を用意するなんて上手い謳い文句に誘われてしまった私も馬鹿ですけど」
 なぜ、名前を知っているんだろう?
 そんな疑問は神様なら当たり前のように知ることが出来るだろう。
 そう思ってしまい、たずねることすらしませんでした。
 犬ではないぞ、狼だ。
 彼はそう言い、なぜかそこを最初に否定し、訂正すると話を続ける始末。
 これ、私だけ貧乏くじ引いていません?
 そう思ってしまう、神様との再遭遇でした。
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