聖女と魔王の白い結婚

星ふくろう

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第二章 王女と海神の英雄

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「ふうん‥‥‥」

 それが私のその場に立ったときの、最初に発した一言でした。
 しかし、帝国皇帝だの大神官だのが出張っているのに、なぜかその場には妙な雰囲気。
 そう、場違いといいますか。
 はっきり言えば、なにしに来たんじゃい、さっさと帰れやコラ! 、とまあ口汚く言えばそんな感じのものがありありと見て取れる始末。
 蒼炎の勇者様なんて、その腰にした聖剣? それとも神剣?
 それに手をやってこちらに失礼がないようにはしているけど、警戒は解かないよとの意思がその表情と態度に出まくってますねー。
 やはり、闇の精霊王。
 その聖女ともなれば‥‥‥魔族側と思われているのでしょうか?
 それとも――????

「これは闇の精霊王様の御意思により降誕なされた方とは思えないほどに‥‥‥」
「なんですか?
 醜い様を御想像頂いておりましたでしょうか?
 大神官様?」
「はっ!?
 いえいえ、とんでもございません。
 ただ‥‥‥」

 なんですかねえ、いきなり近づいて来てこの言いざま。
 いえね、そりゃ分かるんですよ?
 私、祭壇のうえに降臨したものですから、この帝国の最高位である皇帝陛下を見下ろしている形ですから、そりゃ不敬この上ないわけですよ。
 しかし、この祭壇。
 まともな階段がない‥‥‥、と思ったら後ろにありました。
 
「あ、そうですよね。
 しばし、お待ちくださいませ‥‥‥陛下。
 どうか、不遜なこのレイナめをお許し願いたく――っ」

 あ、しまった。
 長い衣装なんですよ、この暗黒神ゲフェト様の衣装は。
 ロングスカートにチャイナドレスのゆったり版を着たような感じ。これはコケるっ。
 案の定、狼さんの用意してくれた衣装は私の身長にあわせて丈も長く、おまけにハイヒールのようなブーツ姿のうえに忘れていたことが一つ。
 私、手足が伸びてるんですよ。狼さんには感謝なのですが、しかし、慣れないともどかしい。
 つまり、台から床へと続く階段の途中でスッ転んでそのまま情けないことに手近の柱に激突ですねー‥‥‥。
 そして、痛がるのは私ではなく――

「おおおっ!?」
「なんだ!?
 天井がきしんでおるぞ!?
 地震か!?」

 なんて大勢の声? あれ、そんなに待機している人いましたっけ?
 その方々に心ですいませんと謝罪しながら、私は服の誇りを払いさっそうと立ち上がります。
 どうやら、台座の陰に隠れて見えなかった模様。
 まあ、見えてなきゃオッケーです。
 さて改めて見下ろすというのも変ですが、祭壇から更にしたまでまだ十数段、階段があるのですよ。
 どれだけ贅を凝らしたんだ、この神殿って思いながらふと振り返ると、後ろには見たことも無い神像が一体。
 ギリシャのゼウス神像もこんな感じだったんでしょうか?
 高さ十数メートルはあろうかというような、勇壮なこの真っ白な石ので出来た神像は‥‥‥ゲフェト様ではないですね。ええ、違います。
 それに、ゲフェト様を奉る場合、真ん中奥に聖者様、右に太陽神、左に暗黒神のワンセットなので――。

「大神ダーシェ様‥‥‥?」

 そう呟くと、この神殿意外に声が響きます。
 ざわっとした一同のざわめきと共に、あの大神官様が上に上がって来ようと階段に足をかけられたのを見て、私はつい言ってしまいました。

「あの‥‥‥闇の精霊王様の神殿はいずこに‥‥‥?」
「はっ?
 いえ、そのなんと言われますか。
 このダーシェ神の神殿に、闇の精霊王ゲフェト様の聖女様が降臨なさるとそう、神託がありましたので‥‥‥」
「はい?
 はあ、なるほど。
 すると、あなたは我がゲフェト様の大神官ではなく、ダーシェ神様の大神官様?」
「なっ、なぜそれを!?」
「いえ、なぜと言われましても‥‥‥。
 その程度の見識、主より賜っておりますので、はい。
 では、私がこの場で出迎え頂いた真の理由となりますと?」

 そう言いながら、いつの間にか集まっていた色とりどりの神官衣に身を包んだ、統一された鎧姿の騎士団がそこにはありました。
 若い男性から、中年の女性まで人種もさまざま、亜人もいれば、エルフもいる。
 人間も、もちろん。
 ふむ、なるほど。
 チラっと視線が合った勇者様には、どうも侮蔑の眼差しが強いご様子。
 
「はっ、それはですな。
 我が帝国では各精霊王様から下賜されました精霊を宿した騎士を精鋭として常備しておりまして――」

 と大神官様の一言。
 あ、やっぱりそうなんですね。

「そうですか、かしこまりました。
 陛下、この度は帝国の一翼を末端にても担うようにとの我が主からの命に従い、馳せ参じました。
 いかようにも下知を頂きたく、帝国の剣となり、陛下の御前に立ちふさがる敵に向かいこの身を投げうち不遜な輩を討ち滅ぼす所存でございます。
 皆皆様にも、我が身のこれより先の浅慮などあると思われますが、どうか御指導賜りたく。
 よろしくお願い申し上げます」

 あらら。
 我ながらすらすらとこんなまともな常套句、どこで覚えたんでしょうか?
 前の御主人様に隠れて読んでいた、webノベルの知識が身を助けることもあるのかもしれません。
 ここは元日本人らしく、階段をささっとすばやく駆け下りて、(半分ほどで勢いよく転びそうになりましたが、そこはなぜか誰かのフォロー? によって立て直し)、皇帝陛下と同列の座につくと、土下座覚悟で膝をついて御挨拶です。
 ええ、素晴らしきは我がプライドの無さというか、奴隷根性万歳というべきか。
 そのあまりもの私の演技が功を奏したのか、プライド全投して平伏したのが御気に入られたのか。
 皇帝陛下、見えてないはずなんですけどなんとなく、ワナワナとされている様子が伝わってきます。
 さて、これは吉と出るか、凶とでるか‥‥‥?

「ふんっ、下賤な闇の精霊風情が陛下に取り入りおって‥‥‥」

 あれ?
 はい?
 その声、小さいけど私には良く聞こえますよ、そこの精霊騎士団の一員さん。
 でもなんでこんなに耳が良くなったように‥‥‥はて?
 なんだか、お尻の方で動く感触が一つ。
 なんだこれ?
 そう思い、そっと触ること、撫でること数秒。
 動きますよ、これ。
 なんだか、わさわさ? いえいえ、モフモフしてますよ、これ――――???

 固まる私の脳裏にあったのは――狼さんの耳と尾、のそれでした。
 あの駄おおかみ!?
 やってくれやがりました!!
 まさか、亜人というか獣人は魔族との理解の深いこの世界で、これから魔族退治に行こうかとしている帝国のそのど真ん中に自身の姿に似せた獣人を聖女として、己の代行として送り込みやがったのです!!
 そりゃあ、あんな蔑んだ目で見られるわけですよ、はい。
 納得です。
 覚えておきなさい、駄おおかみさん。
 戻ったら、頂いた根棒で倒れるまでお仕置きして差し上げますから‥‥‥。
 とまあ、そんな険悪な雰囲気といじめを受けそうな世界の狭間で私は顔を上げる訳にもいかず、一人で床にひれ伏していたのですが。

「良い。
 よく馳せ参じて下さった、闇の精霊騎士よ。いや、闇の聖女よ。
 その力は精霊騎士などと同様であろうが‥‥‥まあ、よい」

 なんですか、そのまあ、良いって。
 なんか最初から戦力外通告受けてません私!?
 はあ、なんで聖女じゃないんだよ。そんな陛下のぼやきすらもこの獣耳には聞こえてきますけどね!!
 まあ、いいですよ。
 憧れのモフモフ美少女に転生出来たんですから。
 ここは勇者様にいじめられながら、しばらくはのんびりとケモナーライフを楽しむことしましょう。

「ほら、あんた。
 いつまで伏せてるのさ、もう皇帝陛下も勇者様も大神官様も退出されたから。
 いいんだよ、頭上げてもさ?」
「へ?
 あ、それは気付かずに‥‥‥申し訳ありません」
「いいよ、そんな謝らなくって。
 同じ獣人同士、仲良くやろうじゃないか?」

 そう声をかけてくださったのは、あの勇者よりも真紅に燃えるような毛皮をしたヒョウのようなだまの入った柄の毛皮をした‥‥‥少女?
 その割にはどこかやさぐれているというか、なんでしょう?
 そうだ、あれですよあれ。
 ヤンキーっぽい感じの女性。

「よろしくお願いいたします。
 闇の精霊王様の配下、レイナ・ウテメと申します」
「レイナ?
 この辺りでは聞かない名前だね。
 あたしはシァイア。
 炎豹族、炎の精霊の力を使う精霊騎士だよ」
「シァイア様?」
「様は余計だってば。
 仲間を紹介するよ。
 あの水色のが水の精霊騎士、ラパード。
 グレイエルフ族の女の子。
 それと、風の精霊騎士、ラファン。
 ハイエルフの女」

 あ、ちょっとシァイアさんとラファンさん。仲が悪そうです。
 炎に風なら仲がいいはずなんだけど、と知識を掘り起こしつつ、軽く対人恐怖症を隠しながら私は彼女たちに案内を受け、精霊騎士の宿舎へと行くことになったのでした。
 しかし‥‥‥精霊騎士ではなく、聖女だったはずなのですが。
 はて?
 どこでこうなったのでしょうか??
 私は一人、宿舎の個人部屋で頭を傾げるのでした。

 
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