聖女と魔王の白い結婚

星ふくろう

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第二章 王女と海神の英雄

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 さて。
 あ、こんにちは、黒狼のモフモフ美少女です。
 いいえ違います。すいません、単なる駄おおかみさんの手下の自称、闇の精霊王様の聖女、レイナ・ウテメです。
 これも違いました。
 ただいま、聖女から精霊騎士へと格下げ中のようです。
 おかげさまで、大神ダーシェ様の大神官にろうろうと、この世界の成立だのダーシェの神話だのと述べられている私です。
 はあ‥‥‥。
 いえね、私だけなら脳内にある、正確な歴史年表とか知識でさっさと論破しているのですが。
 他の精霊騎士の子たちも一緒なのでそれが出来ないのですねー、一番、下っ端なので。
 広い講堂、半ボウル状の室内には地球で見たことのある大学の講堂、そのままの作り。
 

「ふわあ‥‥‥」
「ちょっと、レイナっー」
「え‥‥‥ああ、はい‥‥‥」

 とても良い感じですよ、眠気を誘う良いお声です大神官様。
 御寺の住職さんの祈祷のようです、素晴らしい催眠の‥‥‥。

「レイナっ!」
「ほへ?」
「レイナ殿!!
 ここはいかに!?」

 はっ?
 しまった。
 背の高いシャイアさんの後ろの席でそっと隠れていたはずなのに。
 こんな目立たない私に気づくとはさすが、ダーシェ様の大神官。

「尻尾がはみでとる‥‥‥」
「あれま。
 これは頭隠してなんとやらですね。いえ、とても素晴らしい講義でして、はい。
 とてもこの浅薄な知識では追い付けないのですよ、大神官様‥‥‥」

 誤魔化せましたかね?
 プライド高い系の神官なら、これで、ちっ、クズめ。とかいって見逃してくれるはずなのですが。
 しかし、隣で必死に私を起こしてくれていたハイエルフのラファンが、はあ‥‥‥っと大きく息を吐きました。
 駄目な様子。
 ごめんなさい、闇の精霊王様。
 レイナは役立たずの自称は良いのですが――

「んっ、んんっ!!
 自らの主の名を恥ずかしめるような行為と言動は感心しませんな?」
「‥‥‥ごめんなさい」

 ド正論で叱られました。
 そこは違うでしょう、お約束が――

「で、これはどう考える?」

 そんな私の心の声は無視されてしまい、黒板に描かれているのは古神代時代のものでした。
 まあ、普通の神官とかなら読めないでしょうね。もうこの世界でも、発音すらできないはずの文字だけのはず。

「えーと‥‥‥。
 神々の役割は世界の統治かつその管理下にある種族の統制である。
 それを含む行為をなすために‥‥‥」
「そこまでは説明しておる」
「あ、そうですか。
 では、後半を読み上げますね?」
「なっ‥‥‥!?」

 論より証拠。
 古神代時代の発音はっと‥‥‥? 記憶を頼りに、これは六種類の高音・低音を使い分けるものですね。
 さて、読み上げますか。

「偉大なりし祖は星辰を行く竜として、世界樹の元を旅立ち聖者はその御許に眠らん。
 いつか還らん、我が父祖の大地とかなわぬ願いを心に彼は六神へとその願いをたくす。
 神々の‥‥‥えーと??」
「待っ、待て、待ちなさい!!
 そんな発音どこで??」
「いえ、これでも闇の精霊王様の聖女ですから。
 とりあえず、後半を読みますね。
 あ、これって。
 翻訳してはまずい内容‥‥‥?」

 後半の最後の数行はこの場で翻訳してもいい内容には思えず‥‥‥。
 見ると、大神官様。
 どうやらこの部分の解釈は現代には伝えられていないのかもしれません。
 唖然とし、ワナワナと震えているところを見ると。なるほど。口伝、ですか。
 それも、代々の大神官クラスにしか伝達されない内容。
 となると、どこまで秘密裏にしなければならないのか。
 駆け引き?
 さて、どうしましょうか。

「あー‥‥‥、ウテメ様。
 そこまでで宜しい。
 この後、わしの部屋までいらして頂けますかな?」
「あーはい、はい‥‥‥」

 いきなり、様がつきましたね。
 これはまた。
 暗殺とかされなければ良いのですが。
 そして、朗読をするために立ちあがってからあと、ずっと私の黒い尾をいじくりまわしているラパードさん。
 ねえ、水の精霊王様の騎士様?
 それおもちゃではないのですけど?
 あ、前の席のシャイアさんも目でその動きを追っているのが不思議。やはり、炎豹族。ネコ科の特性‥‥‥?
 ふと、返事をしなさいよと指差すラパードさん。

「レイア、前。
 大神官様、待ってる」
「あ、はい。
 伺わせていただきます、大神官様」
「グロア、と申しますでな。
 ウテメ様」
「あの、グロア大神官様?」
「何か?
 まだ講義がありますが?」
「宜しければ、その黒板に掲げられた石碑の全容を知りたいのですが。
 かないますか?」

 まためんどくさいことを、と顔を曇らせるグロア大神官。
 しかし拒否するのもどうかという顔もしています。これは何故なのか。
 ふーん?
 自分も知りたいものがあるのかもしれませんね。面白いかも。

「確認しておこう」
「ありがとうございます」

 確認?
 この神殿で最高位の存在が誰に?
 帝国では皇帝陛下と大神官は両輪の存在。
 それより高位となると――?
 これはトラブルの予感。わくわくしてきますね。ふふふっ。
 そんな私を見上げるもう一つの視線が一つ。
 こっちは別の意味でめんどうくさそうです。
 そして、ふんっと鼻を鳴らして講義を続けるグロア大神官。
 その背後で気づかれないように、私は席を一段、そっと机の下をくぐって降りたのでした。
 ラパードさんの尾いじりと、シァイアさんの羨望のようなまなざしの両方を埋めるには、これが一番良いのです多分。

「ねえ、シャイアさん?」
「なによ?
 あんなのが読めるなんて聞いてないよ、レイナ?」
「その甘い声、初めて聞きましたけどね。
 ラファンさんとは仲が悪いの?」

 あ、むくれた。
 分かりやすいこの獣人。

「ハイエルフと炎豹族は長年、いがみ合って来たから。
 それが何?」
「‥‥‥なんとなく。
 そっか。
 後から、部屋に来ますか?」
「うん?
 うん、なら――行くよ」

 耳が折れると機嫌がいいみたい。
 まあ、この対処は後から考えますかね。問題は‥‥‥なぜか、精霊騎士の大半が亜人であり獣人であり、女性であること。
 男性な数名だけで三十数名いるこの中の一割程度、と。
 降臨させている精霊は、果たして本当に各精霊王から下賜されたのか。
 考えものですね。
 そして、それからは退屈な講義が数時間。もうお昼過ぎだというのにグロア大神官は飽きずに世界情勢と自軍の優勢を交えて語ります。
 日本の中学や高校なら昼休みの時間ですよ‥‥‥通ったことないですけどね。
 戦前の大本営発表と同じ。
 自陣の劣勢なんて教えるはずがないんですよ。特にこんな中核をなすような集団は意思統一、もしくは洗脳に近い教育を施すはず。
 とはいえ――

「この世界の成人は十二歳から十三歳。
 それを数年も越えて自力で生きている人々に果たしてそのプロパガンダが通用するものか。
 見ものだわ‥‥‥」
「プロ?
 なに‥‥‥??」
「なんでもありません。
 というか、いつの間にか距離近くないですか、シャイアさん?」

 んー? 気のせいじゃない?
 そんな小首をかしげるものの、悪戯好きそうな笑みを浮かべる彼女はただの甘えたがりなのか。
 それとも?

「ふうん。
 まあ、いいですけどね。
 その毛皮が発する炎は、冷たい湯舟に良さそうね。
 沸かす手間が省けそうだわ」
「あんたって、酷い女だねレイナ‥‥‥」
「気のせいですよ、シャイア」

 あれ、名前で呼び捨てにされたら耳がまた折れた。
 変な炎豹族。
 後ろではレパードさんが飽きずに尾を触り、時折、チクチクと‥‥‥なぜか毛を抜かれている気がするのですが。
 チラッと覗いたら、白い毛だけむしられています。
 酷い仕打ちです、まったく。
 グレイエルフめ‥‥‥。
 さて、そんなこんなで大神官様の部屋を訪れた私。
 事態は少しだけ、面白い展開を見せてくれそうです。
 
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