聖女と魔王の白い結婚

星ふくろう

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第二章 王女と海神の英雄

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「ひどいーレイナがいじめる‥‥‥むごいーっ!!!」
「ひとりで泣いていなさい。
 なんですか、ほんの少しだけ尻尾の先を焼かれたくらいで。
 情けない」
「だから、熱いし痛いって言ったじゃん!!
 本気で燃やすなんて!
 あんた‥‥‥それでも本当に、闇の精霊剣士なの!!??」

 ふん。
 小うるさい幼女め。
 あまりにも小刻みにテンポよく動く尻尾だったから、適当に呼び出したランプにあかりを灯すために呼び出した精霊をちょっと、近づけたら盛大に燃えていました。
 ええ、やり過ぎた感はありますがまあ、許されるでしょう。
 幼女への偏執的な怒りと怨念を晴らすのには、都合の良い存在だったのです。
 これは正当化されるはずですよ、ええまったく。
 文句を言われる覚えはありません。

「闇の精霊王の聖女、です。
 正しくはですが。
 つまり、あなたたちのように精霊王から下賜された精霊をその身に宿した程度の存在よりは――」
「よりは‥‥‥?
 なんで炎豹族のあたしに火がついたの?
 普通の火なら弾く程度には、精霊を宿しているはずなのに‥‥‥??」
「まあ、勇者様には及ばないにせよ――」

 上、と指で示してやるとなぜか悔しそうな顔にならず、あんぐりと口を開けたままのシャイアさん。
 この棒、その喉奥まで突っ込んで躾けてやろうかしら。
 あ、だめですね。私怨がそろそろ沸騰しそうな勢い。
 これは回避しなければ。

「凄い‥‥‥。
 凄いよ、レイナ!!
 そんな高位な存在、精霊が怯えるわけだ‥‥‥」
「怯える?
 あなたの身に宿した精霊が?」

 すると、シャイアは首をぶんぶんと横に降り‥‥‥否定?
 なぜ?

「あたしは精霊王様から下賜なんてされてないの‥‥‥」
「ふん?
 なんですか、その今更明かされる秘密、みたいなこの展開は。
 炎豹族の体内には元々、炎の精霊を宿して産まれてくるとは聞いていますけど。
 そのまま、まさか?」
「その――まさ、かなんだけど。
 だって、精霊王様なんて神様と同じで選ばれるのは女なら聖女。
 男なら、英雄だから。
 いきなり招聘されたって‥‥‥、ね?
 でしょ?」
「でしょ、の意味と意図が理解出来ないですねーまったく。
 十三年前のあれと何か関係があるの?
 炎豹族のシャイア?」

 おや?
 笑みが消えましたねー。
 つまり、正解、か。
 あの魔王一家襲撃事件。そのときはいまよりも精霊騎士団の能力は低かったはず。
 そして、生き延びる生存率も低かった。
 これは推論ですが、魔王襲撃など知らない各種族と各精霊王たちは、抑止力的な意味合いで自分の守護する種族。
 つまり、炎の精霊王であれば炎豹族であり、自分の部下である精霊を下賜して帝国の希望に応えたのでしょうね。
 しかし、その結果は‥‥‥。

「だって、あれ以降。
 返事をくださらないもの、精霊王様は‥‥‥」
「でしょうね。
 自分の大事な部下をむざむざ殺しに行かせるわけがないでしょう。
 おまけに、更に高位の神の怒りまで買ったんだから‥‥‥」
「高位の神?
 それは、ダーシェ様のこと?
 確かに、あれに参加した兄は無力だったけど。
 でも、無能じゃなかったよっ!?」
「はあ。
 いいこと、シャイア様。
 あなたのお兄様?
 参加されていたのかもしれないけれど、その存在を恥ずかしめているのはあなたと一族の無知が原因なのですよ?
 とはいえ、それを伝えずに十三年も放置した神々も、神々ですけどね‥‥‥」
「レイナ、あんたなにを知っているの‥‥‥。
 精霊騎士のはずなのに。神殿の祭壇に降臨した人なんてこれまで誰もいなかったのに‥‥‥」
「誰でも、いいのです。
 そんなことはどうでもいいの。
 知るべきことを隠した誰かが、神の怒りを買った。
 ただ、それだけだから。
 そして、私がここにいる」

 ね?
 そう微笑んでやったら、怯え始めた可愛い可愛いシャイア様。
 さて、どう料理しましょうか。
 その為に遣わされたのが私だし、その判断もいささかここに来た趣旨とは異なりますが。

「炎豹族の肉体って、どうさばいたら綺麗になるかな?
 ねえ、シャイア?」
「さばっ‥‥‥く?
 まさか、待ってよねえ‥‥‥」
「まだ余裕がありますねーシャイア?
 人間、本当に恐怖したら声も出ませんから。
 勝てる、とか思ってません?」
「ひっ‥‥‥」
「自分は特別、自分は優秀、自分は――一族の栄光を取り戻せる。
 思い上がりだわ。
 大丈夫、痛みは多いまま、気絶しないように、気が狂わないように捌きますから。
 獣を捌くなんて、何年ぶりかしら。
 麻酔なんてしませんよ、シャイア?」
「――――っ!!??」

 ああ、いいですね。
 その悲鳴。どこかで聞いた気がします。
 何年前でしたかね、御主人様に反逆して廃棄されることになったペットを捌いたのは。
 そうでした。二人ではないですね、三人でした。
 さて、これからどれだけの人数が増えるのか楽しみです。
 の前に‥‥‥。

「そろそろ、宜しいのではないですか、我が主様?」
「‥‥‥は?
 主様??」
「シャイア?
 先に聞いておきますけど、服従か死か、どちらが良いですか?」

 ここで威力的にあの棒の両端の刃が良い音をたてて演出を盛り上げてくれることくれること。
 シャイアの瞳にはもう恐怖と絶望と生きることへの羨望しか見えません。
 あと一歩かなーと思いますね。
 合法的な、ペットの仕入れ完了まで。はい。

「ふっ、服従を‥‥‥選ぶから」
「返事は、はい、ですよ?」
「はっ、はいい!!」

 ま、可愛いメス豹が一頭手に入った。
 そう思うことにしておきますかね。
 後から首輪でも投げつけてやりましょう。
 これで役立たずなら処分すればいいし――使えるなら、勇者か英雄に忍ばせてメスとして使えばそれで何かの役には立つはず。
 そして、満を持してあわられる我が主、暗黒神ゲフェト様。
 やっぱりいやがりました、この駄おおかみめ!!

「ひいっ、なに!?
 誰、その大きな黒‥‥‥狼??」
「駄、おおかみですよ。
 まったく。
 ゲフェト様。ひどいじゃないですか、こんな黒狼族の獣人の姿を与えるなんて‥‥‥」

 私達ふたりの視線を受けて、部屋の薄がりから身を乗り出したのはバツが悪そうな顔をしたゲフェト様。
 まあ、様はつけて差し上げましょう。
 私の‥‥‥ペットが出来た記念ですしね。

「駄はやめないか、レイナ。
 黒狼族はこの世に数の少ない魔族の希少種だ。喜んでもらえると思ったんだがな?」
「それは申し訳ありません、主様。
 尾の白髪をグレイエルフにさんざん抜かれた上に、このしつけの出来てない――」
「あうっ!?
 酷いっ、むごい――っ」

 と泣くシァイアを蹴飛ばし、足蹴にしていい気晴らしをする私にさすがに見ていられないのかため息をつくゲフェト様。

「それ、はせめて見逃してやれ」
「またそういう甘やかしをするから‥‥‥。
 なら出してくださいよ、あれ」
「感心せんな‥‥‥そういった恐怖を利用した人心把握は――」

 そして出てくる、私の馴染み深いお古の首輪。
 ええ、赤い毛皮の彼女には、黒い頑丈な革のそれが良く似合いますよ。
 死ぬよりはいいはずですから。

「シァイア、従うならそれをつけなさい。
 でも、その時点から人間扱いはしないけど。
 この帝国では獣人は奴隷階級。さほど変わりはないでしょ?」
「最低‥‥‥あんたなんか、嫌いだ」
「そう?
 でも、あなたのお兄様の仇は討てるかもしれないけど、その機会をみすみす捨てるの?」
「え‥‥‥っ?」

 そして、ゲフェト様を見る私。
 どうせ、ここに降りてきたときからの会話はすべて神側には通じないように結界でも張ってるはずなんですよ、この駄おおかみさんは。
 
「全部聞こえとるからな?
 うむ、それは正解だ。そして、炎の精霊王からの庇護を再び受けれる可能性も高いな」
「まさか、ゲフェト様って。
 闇の精霊王ではなく――暗黒神ゲフェト様‥‥‥?
 聖者様の双翼の最高神‥‥‥??」
「さて、な?
 同じ存在であるということは旧知の通りのはずだが。 
 どこまでも世界を好きにしたいようだ、ダーシェ様にエスト様、か」
「あのですね、ゲフェト様。
 そんな余裕な登場するってことはあの神殿の階段で私がよろけた時からいましたね?」
 
 こうもったいぶった神様には、まるで関係ない話題をぶっこむのが一番宜しいのです。
 私は刃のきっさきを喉元に押し付け、少しばかり薄皮を剥いで‥‥‥いえいえ。
 そんな野蛮な真似はせずに理論的に説得して、シァイアに首輪をつけさせたのでした。

「ぐふっげふん。
 ま、そんなことはさておき、だ。
 知りたいのだろう、シャイア?
 その首輪がある限り、我が眷属と認めよう。
 誰が兄を殺し、誰がこの世界を狂わせようとしているかを?」
「‥‥‥はい、ゲフェト様」
「では、行こうではないか。
 本当の最高神が誰かを確認しに。あの石板とやらを見にな?」

 そう駄おおかみさんが言った時、静かに保管書庫の奥につづく扉が誰ともなく静かに重々しく開かれたのでした。

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