聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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第四章 

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 それは夢の中での出来事だった。
 アバルン公爵令嬢エレーナはいつものように、公爵家とはいえないほどの慎ましやかな小さな屋敷の自室で寝ようとしていた。
 先祖が商売に失敗し、私財を失った彼女の家族は親戚にあたる男爵家の別邸を借りて住んでいた。
 老朽化の激しいその家は秋とはいえ、北国の風は冷たく、薄い毛布にくるまるようにして寒さを防ぎながら寝るのが精一杯なほどだった。
 うつらうつらと夜がふけるに連れて眠くなり、いつの間にかねてしまっていた。
 そうすると、気が付けば、光の中にいた。
 周りには空に浮かぶ雲がたなびき、天空にはまるで昼間のように煌々と明るい何かが輝いている。
 どうも変な夢を見ているな、そうエレーナは思った。
 ここはまるで、毎週末の日曜日に行われる神殿で司教様が話される世界。
 天国のように思えた。

 ふと、足元を見ると、地面が見えた。
 山々があり、川が流れ、広い牧草地と立派なお城が見える。
 ああ、あれは自分が仕えている御主人様。
 エルグランデ王国の国王が住まわれる王城だ。
 エレーナは、時折、王城で開かれる晩餐会にあがるときに遠くからみたからその城の見分けがついた。
 実家はお金がないが、男爵家は資産家だ。
 エレーナに良い婿を探すという名目で、より金持ちで権力のある貴族との縁を作ろうと彼女を着飾らせては王城で開かれる晩餐会に、片道、二週間もかけて通わせていたのだった。
 そうすると、自分はもしかして、寒さで死んだのだろうか?
 確かに、季節は真冬で与えられていた毛布だけでは寒くて寒くて、とても耐えれそうにないと何度も思ったからだ。
 ああ、両親に申し訳ないことをしてしまった。
 明日の朝になれば、自分の遺体の処理をするためにまたお金がかかるし。
 何よりも、実家の弟や妹たちはまだ幼い。母親は病気がちで到底、家族が生きていける見通しは立たなかった。

 家族、両親や弟たちはどうなるのだろう。
 そういった心配が、心残りとなってエレーナは途方にくれた。
 もう生き返れないのだろうか。
 みんなに迷惑しかかけていない。
 これが悪い夢なら、早く醒めて欲しい。
 そう思った。
 明日の朝はまた、近くの商家や農家の内職や農作業の手伝いが始まるが、それでも生きていれば家族に迷惑はかからないから。
 しかし、夢はいっこうに醒める気配がなかった。
 困った。
 これはどうすればよいのだろう。
 十二歳の少女は途方にくれた。

 その時だ。
 天空より何かが舞い降りてきた。
 八枚の翼を持ち、あたまに光る輪を浮かべた金髪の美しい男性か女性かわからない誰か。
 これは、神殿の天井画で見た天使のように思えた。
「エレーナよ、よく来た」
 天使とエレーナがそう思った存在はそう言った。
「あの‥‥‥あなたは天使様ですか?」
 幼い少女はそっと、おそるおそる、質問をしてみる。
 その存在はにっこりとほほえんで、
「ええ、そうですよ、エレーナ。
 今日はあなたに、お話があって、ここに来てもらいました」
 と、少女に告げた。
「お話‥‥‥ですか、天使様?」
 エレーナは問い返す。
「そうです。
 いいですか、エレーナ。
 今から言うことをよく聞きなさい」
 天使は少女にそういうと、両手をかざして大きな地図を空中に描いた。
「これは、世界の地図です。
 ここがーー」
 と、西の大陸の端を指差す。
「あなたがいま住んでいるところです、わかりますか?」
「はい、天使様」
 不思議なことに、自分の頭の中には天使の言うすべてが明確に、理解できるように入ってくるのを少女は感じた。

「よろしい。
 では、エレーナ。
 まずは、竜神アルバス様の神殿へと行きなさい。
 そこで女官となり、聖女となって仲間を募るのです」
「仲間、ですか?
 わたしが聖女となれるのですか?」
「そうです。
 あなたは、竜神アルバス様により、聖女に選ばれました。
 神の敵である魔王レガイアを討伐するのです。
 そして、このエルグランデ王国と国境を背にしている、エルムド帝国の侵攻から王国を守りなさい」
 と、天使はエレーナがいま寝ている場所からそう遠くない最初に行けと示した神殿がある王都を指差す。
「ここで、聖女となってこの王国の第一王子カーティスに会いなさい。
 彼が、あなたの剣となり、盾となって兵士を集めてくれます」
 兵士を集める?
 自分は何をする為に選ばれたのだろう?
 そうエレーナは思った。
 天使はその思いにきづいたのか、エレーナに静かに諭すように話をする。
「いいですか、エレーナ。
 聖女という存在は、悪魔。
 つまり、人間の敵であり、神の敵である魔族と戦い、そして魔王を倒す存在なのです」
 エレーナはその言葉に恐怖する。
 巻きわりようの斧ですら満足に扱えない自分が、そんな大それた真似ができるはずがないと思った。

「大丈夫ですよ、エレーナ。
 アルバス様はあなたを選びました。
 あなたは神の子なのです。
 自信を持ちなさい。
 人間を滅ぼそうとする魔族を打ち倒すのです。そして、エルムド帝国の脅威から国を守るのです。
 その為の力は、旅のあいだにあなたにゆっくりと与えられていきます。
 まずは旅立ちなさい。
 そして、最後はこの東の大陸のアルバス様の大神殿がある、神聖アーハンルド王国の王都へと行くのです」
「アーハンルド‥‥‥?」
 耳にしたことのない都市の名前だった。
「そうですよ、エレーナ。
 アーハンルドにある、アルバス様の大神殿へと行きなさい。
 そこであなたは聖女の神託を改めて受けることになるでしょう。
 そして、旅の間に集まった仲間たちは聖騎士になることができます。
 その時、こう名乗りなさい。
 真紅の幻影団、と」
「真紅の幻影‥‥‥」
 それはとても、気高く、強い感じがする名前だった。

「そうです、エレーナ。
 そして、向かいなさいこの王国の更に奥に在する、ファイガ山脈に。
 そこで待つ、魔王レガイアを討ち果たすのです。
 アルバス神のために。
 できますか?
 聖女エレーナ」
 聖女エレーナ。
 その言葉は、少女に使命感を与えた。
 そして、なぜか自分は今言われたことを出来るという確信がエレーナの中に芽生え始めていた。
「はい、天使様。
 エレーナは、アルバス様のために、この命を捧げます。
 魔族の討伐を、真紅の幻影団の仲間とともに果たすことを誓います」
 と、少女は強い意思を宿した瞳で、そう天使に告げた。
「よろしい、ではエレーナ。
 頑張るのですよ」
 そう言って、天使は消えようとする。
 しかし、エレーナには一つだけ心残りがあった。
 家族のことだ。
「お待ちください、天使様。
 どうかお一つだけ、願いをお聞き入れください」
 少女は泣きそうな顔で、天使にそう懇願する。
「どうか、わたしがこの男爵家を旅だったあと。
 残された家族に幸福が与えられますように‥‥‥」
 そこまで言うと、天使はカイネの頭を優しく撫でて言った。
「大丈夫ですよ、エレーナ。
 あなたの家族には幸運が訪れます。
 安心して旅立ちなさい」
 と。
 エレーナはそれを聞き、ほっと一安心する。
 そして天使は消え、少女は夢から目覚めた。

 
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