聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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第四章 

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 目覚めると、エレーナはすぐに身支度を整え、深夜のうちに男爵家を抜け出した。
 まずは、王都のカーティス王子に会わなくてはならない。
 王子は遠目に見たことはあっても、直接の面識なかったから彼に接触する方法から考えなければならない。
「そうなると、まずは神殿に行くべきなのかしら?」
 それから、二週間ほどかけてエレーナは王都の竜神アルバスの神殿にたどり着いた。
 神殿の司祭もまた、夢で天使からのお告げを聞いていた。
 そうやってエレーナは天使が示した道筋を歩き続けた。
 王太子に会い、彼が手配した騎士たちには真紅の幻影団の名が与えられた。
 やがて、エレーナは聖女の認定を受け、魔王レガイアからの侵攻に、エルムド帝国からの侵略にと、戦場でその姿を見ない日はなかったほどだ。
 そして、数年後。
 十六歳の誕生日に、その家名にふさわしい真紅の幻影団を駐屯させられる城を与えられた。
 家族を男爵家から迎え入れることが出来た時、彼女は初めて人生には幸せが待っていると信じることができた。
 しかし‥‥‥天上の神々はその幸せな光景に満足しなかった。
 なぜ、聖女だからといって幸せにならなければいけないのだ。さっさと魔王討伐に出れば良いのに。
 気が短い悪神と呼んでもいい三神は、ある計略を思いついた。
 それは‥‥‥婚約者である王子に両親を目の前で殺害され、その憎しみから魔女にさせてしまおうというものだった。魔女になったエレーナはもちろん、魔王に庇護を求めるだろう。
 地上世界には勇者は何人もいる。なんなら、異世界召喚した転生勇者を使ってもいい。
 その時は、聖女役が勇者に変わるだけだ。
 そして、恐るべき計略は実行された。

 エレーナの記憶にあるその夜の始まりは華やかな王宮の晩餐会だ。
 そして、その夜は悪夢の始まりの夜でもあった。
 アバルン公爵令嬢エレーナ。
 真っ赤な髪と青の瞳。それをまっくろのモーニングドレスで全身を包んで優雅に幾重にも連なった男女カップルの合間に入り込んで、ダンスを踊ってた。
 一際背の高い、金髪碧眼の白い軍服に豪勢な褒章を胸からぶら下げた男性がどんどん、交代するカップルの中に近付いてくるのが見えた。
 エレーナは彼だけに熱い視線を送り続けていて、相手もそれを理解している感じだった。
 大広間で管弦楽団が奏でる演奏が終わり、なぜか彼とのカップルだけが解消されないまま、二人は会場のど真ん中に陣取る形で残っていた。
 丁寧なお辞儀を双方が交わして、エレーナが去ろうとすると、彼はそれを止めた。
 片膝をつき、エレーナの片手を取って彼、カーティス・ウィル・スナイダー王太子殿下。
 彼がエレーナに告白する。どうか我が正妻に。なんてドラマチックなんだろう。
 そう、思ってしまうほどに情熱的な告白だった。
 はい、謹んでお受けいたします、王太子殿下。そんな返事をしたことを覚えている。
 その夜、エレーナは夢見心地で屋敷に戻ったのだった。

 それからしばらくして、ある日、王太子殿下が血相を変えて乗り込んできた。
「わたしの最愛の友人、アンナを殺害しようとしたな?
 その罪により、これからエレーナを罪人として処刑する」
 まるで身に覚えの無い死刑宣告がなされたのだった。
「お待ちください、王太子殿下。
 そのようないきなりの宣告はあまりではありませんか!」
 そう、呆気に取られて何も言えないエレーナを庇ったのは、彼女の父親だった。
 王太子殿下の訪問ということで、普段は寝ている母親がその場に居合わせたことが‥‥‥最悪の結果を生んだ。
 問答無用で、カーティス王太子は剣を引き抜くと、エレーナの両親を惨殺した。
 エレーナは身動きが出来ず、王太子殿下が揃えた真紅の幻影団の騎士の一人、エバンス卿やその仲間が盾となってエレーナをその場から連れ出した。
 聖女をいきなり、死刑にするなんてあり得ない。
 騎士たちは最後まで、エレーナを守ろうとしていた。

「エレーナ様、逃げてください!!」
 そう、エバンス卿は言って王太子の部下相手に大立ち回りを演じていた。
 エレーナはどうにか騎士団に保護されて逃亡をすることに成功したが‥‥‥目の前での両親の惨殺。
 その現実は、聖女の心を魔女に変えてしまうには十分なほどに憎しみを与えていた。
 エバンス卿は討ち取られ、その首が王都にある広場にさらされていた。
 そんな噂が回って来て、エレーナは卒倒し心はいよいよ、どす黒く染まり始めていた。
「もう、この王国に生きる場所はないわ。
 あなたたち、わたしに付いてくるのならば‥‥‥魔王様の元へと行きましょう。
 救いを与えて下さらない、竜神様の聖女はもう、止めます。
 これからは真紅の魔女として。
 どうか、両親の仇を討たせて下さい‥‥‥」
 エレーナの懇願は、真紅の幻影団の騎士たちに受け入れられた。

 王国の王太子殿下のあまりもの非道ぶりは、魔王ですらも顔をしかめるほどだった。
 魔王レガイアはそれでも、狡猾さを見せてエレーナをうまく操ると心に決めていた。
「エレーナ、良い復讐の方法を教えよう」
 魔王は意地悪く、夢魔特有の方法でエレーナを洗脳していった。
 まず、魔王はエレーナと仲の良かったアンダーソン侯爵家令息とその婚約者になってたカーティス王太子の妹のアンリエッタ。
 この二人を魔法で束縛して、王国の例の広場に、全身を生きたまま裂いて空からばら撒いた。
 王国の国民がその狂気の様に悲鳴をあげた時、エレーナはアンナと王太子と正式に結婚することを知った。
 真紅の魔女は転送魔法で、カーティス王太子の前にいきなり出現し、事態が把握できないアンナの心臓を握り潰して立ち去ってしまった。
 カーティス王太子は激怒し、大地母神ラーディアナに選ばれた緑陽の勇者テダーのパーティを雇い入れた。
 テダーたち勇者一行は魔王レガイア討伐を成し遂げた後に、カーティス王太子たっての依頼で真紅の魔女エレーナだけを捕縛して帰還する。
 この時、勇者一行は五人ではなく、七人に増えていた。
 

 エレーナの記憶はそこから鮮明になっていった。
 まるで、誰かに人生を操作されているように自分の人生でないような感覚を彼女は覚えていた。
 おかしい。
 わたしは聖女となって‥‥‥この王国を救うはずだったのに。
 なぜ、こうなったのかしら?
 エレーナは過去を思いだそうとしていた。
 だが、なぜかうまく思いだせない。まるで霧の中にいるみたいに彼女の記憶はかき消されていた。
 思いだすのは、そう、あの両親を惨殺されたおぞましい光景だった。
 そして、エレーナは数度? いや、数十度の体験を繰り返し‥‥‥ようやく自分が神々の駒として操られていることに気づいたのだった。


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